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知取気亭主人の四方山話
 

『招かざる訪問者』

 

2009年9月9日

以前この四方山話でも紹介したが、5年前の夏、どうした弾みか野鳩が社屋に迷い込んだことがある。どうやら、開け放した窓から侵入したらしい。逃がしてやるつもりで何とか捕獲しようとK氏と二人で格闘し、やっとの思いでK氏が捕まえたのだが、手から逃れようともがいたその瞬間になんと尾羽がもげてしまった。手の中に尾羽が残されたK氏が飛び上がらんばかりに驚いたのは勿論、一部始終を見ていた私もビックリ仰天だった。

そんな騒動をコロッと忘れていた先週の木曜日、鳥によほど好かれているのか、今度はスズメが迷い込んできた。午前中窓を開けたままにした上、人気が無かったこともあってか、暑さしのぎのために日陰を求め迷い込んだらしい。何度か脱出を試みたのか、疲れた様子で開かないガラス窓の枠にとまり休んでいる。I氏が上手いこと捕まえ逃がしてやったのだが、鳩騒動のときの尾羽同様、律儀なことに今回も置き土産をしてくれた。人間様以上に気配りが利くらしい。尤も、置き土産を人間が気に入るかどうかを考えていないところが、難点といえば難点なのだが……。

さて、気になる置き土産だが、椅子の上に残された二箇所の白い汚れ、そう、どうやら糞らしい。しかも、悔しいことに少々気が付くのが遅かった。一旦腰を下ろした後に、その土産に気が付いたのだ。"フン当"に悔しい!

 

こと左様に、窓を開け放しておくと色々な予期せぬ訪問者が事前通告も無く目の前に現われ、ビックリさせられることがよくある。我が家では、カやハエはお馴染みさんとして、アシナガバチ、コガネムシ、テントウムシなどの虫も時々訪れる。私や妻ならお相手も手馴れたものだが、娘と鉢合わせをしようものならひと騒動巻き起こることになる。「キャーッ!」と叫び声を上げ、逃げ惑うのだ。

羽音が聞こえ、動く物体を見ただけで逃げ回る。虫は刺したり噛み付いたりして痛い思いをさせられる、という先入観が強いのかもしれない。もうひとつ、"汚いもの"に対する嫌悪感も相当強い。ゴキブリはその筆頭だ。勿論、遠目に見ただけでも大騒動だ。ところが、男でも一瞬ギョッとする様な訪問者に遭遇しても、娘の騒動の対象にならないお客様もいるから不思議だ。しかも、見ようによっては、ゴキブリやハチなどよりも余程グロテスクな容姿をしているのに、である。

その訪問者とは、「ヤモリ」だ。本当に滅多にお目に掛からないのだが、私の好きな小動物のひとつで、ハエなどを捕ってくれるあのヤモリだ。飛び回るための羽が無く、壁や窓ガラスにへばりついてユックリと動いている分、――実際はハエを取るときなど素早い動きを見せるのだが――襲われる恐怖感が湧いてこないかもしれない。勿論、手の上で遊ばせる程好きと言うわけではなさそうだが、それでも他の訪問者に見せるような過剰反応はない。昔から「ハエなどを取ってくれる易動物だよ」と説明していたことが、安心感となっているのかもしれない。

さて、このヤモリ、今を去ること42年前にある男を恐怖に陥れたことがある。無意識とはいえ、あの時のヤモリは随分と罪なことをしたものだ。

 

42年前、私は大学の寮に入った。確か前の年に完成した新しい寮で、4畳半ほどの広さの部屋に備え付けのベッドと机が二つずつある、今から思えば随分と狭い二人部屋だった。これから紹介するM君も私と同じ新入生で、この狭い二人部屋の寮で暮らした仲間だ。私の部屋の隣に住んでいたと記憶している。事件が起こった日は、日曜日だっただろうか、ズル休みだっただろうか、どちらだったかは今となっては記憶も定かではないが、いずれにしても二人とも暇を持て余していた時だったと思う。

「チョッと来てくれ」と時ならぬ声に呼ばれてM君の部屋に行くと、「なんかいるんだけど、あれは何だ?」と不安げな声とともに指差す天井に、我々の騒ぎをよそにくだんのヤモリが悠然と――必死だったかもしれないのだが――へばりついている。「なんだヤモリじゃないか」と答えると、「追い払ってくれ!」と気持ち悪そうに言う。「こんなもの騒ぐ程のもんじゃないのに…」と言いながら、ベッドの上に上り、右手に持った箒でヤモリ君を払い落とそうとした。その時だった、払われたヤモリ君、何を思ったか突然M君に向かって飛んだから堪らない。

飛び掛られたM君、「ギャーッ」と大声を上げ、卒倒しそうな勢いで後ろに飛び跳ねた。ところが、飛んできたヤモリ君の行方が分からない。服と肌の間に入ったのか、服にへばりついているのか分からないのだ。着ている服をバタバタはたきながら、殆ど泣きそうな声で、「どこに行った!どこに行った!」とわめいている。声を聞きつけた友人と探すのだが見つからない。M君は完全にパニックだ。顔面蒼白になって探す姿は、申し訳ないがとても滑稽で、42年も前のことなのに昨日のことのように思い出される。当人以外は皆笑いながら探していたのを良く覚えている。

 

ところが、不思議なことに記憶はここでプッツリ切れている。ヤモリ君のその後については殆ど記憶にないのだ。M君の異常なまでの驚きようが、余りにも強烈だったからかもしれない。しかし、それにしても人騒がせなヤモリだった。M君にとっては、まさに「招かざる訪問者」だったに違いない。

【文責:知取気亭主人】

 


 

我が家に訪れたヤモリ

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