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2009年12月2日
久し振りに映画を観に行ってきた。最近は、レンタルビデオが格安で借りられることもあって、映画館に足を運ぶことも随分と少なくなった。今年も今回でやっと2回目のお出かけだ。迫力は比べるべくも無いのだが、如何せん高い入館料が足を遠のかせてしまう。調べてみると、大人料金1700円と結構なお値段だ。しかし、こんな時は歳を取るということも悪くないもので、今時の映画館には「カップルのどちらかが50歳以上だと割引される特典」が用意されていて4割強もの割引となる。勿論、その特典を利用しての映画鑑賞だ。お目当ての映画は、今話題の「2012」だ。
映画好きの人はご存知の通り、マヤ文明の暦が2012年12月21日頃で終わっているところから、「この日で地球は滅亡する」とのまことしやかな説があり、地球を襲う急激な地殻変動を、CG技術――正確にはVFX(視覚効果)技術と言うらしい――を駆使して映画化したものだ。妻がそういった予言や古代文明に興味を持っていて、以前からマヤ文明の暦のことを聞かされていた事もあったのだが、それにもまして、この映画の製作に一人の日本人が大きく係わっていることを数日前に知り、「是非観てみたい」と思ったのが映画館に足を運んだ最大の理由だ。
名前を坂口亮さんと言う。テレビでその人のことを知ったのだが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」などの映画で水の流れるシーンをリアルに表現して、「アカデミー・サイエンティフィック&テクニカル・アワード」と呼ばれる科学技術部門のアカデミー賞を日本人として初めて受賞した人だという。文系だった彼が数学や物理を一から学び直し、映画で使われる流体力学のシミュレーションソフトを仲間と一緒に作り上げるまでの過程をテレビでは紹介していたが、何より驚いたのは今回の「2012」を作成するに当たり、ビルが壊れたり巨大津波が押し寄せたりするシーンなど、殆どのシーンが物理法則に則って作られているということだ。つまり、映画ではあるけれど、「仮に映画のようなシーンの現象が起こるとすれば、このような見え方になるだろう」といったシミュレーションを行っているのだという。それだけにリアリティーがある。
これまで、映画関係者と言えばカメラマンや美術など、どちらかと言えば感性に訴える人達がメインだと思っていただけに、物理学者や数学者など映画とは無関係と思われている科学者が多数、しかも指導ではなく直接係わっていることには驚かされる。尤も、CGを駆使した映画では、そういった科学者達が直接係わっているからこそ、現実には体験することなど全く無いといっていいシーンもまるで現実の出来事のようにリアルに表現できるのだろう。今の映画作りには、もう科学者抜きには考えられないのかもしれない。
それにしても、迫力ある映像だった。坂口さん達の高い能力とそれを可能にしたIT技術の発達に、改めて感服させられた。坂口さんが係わったと思われる、航空母艦をも木の葉のように飲み込んでしまう巨大な津波のシーンを始め、次々と襲い来る危機を本当に見事に表現している。ラマ教の寺院が津波に飲み込まれていくシーン、巨大な方舟が大波に翻弄されるシーン、飛行機が地割れの中に墜落していくシーンなど、どれもこれも有り得ない事なのだが「実写ではないか」と思ってしまう。それほどの出来栄えだ。
映画を見終わって思ったのだが、これだけ迫力のある映像を作ることが出来るのならば、この技術を使って地震や津波などが予想されている地域の被災CGを作り、危機感の乏しい人達の防災意識を高めることにも利用出来るのではないだろうか。少なくとも、地図を色分けしたハザードマップよりは効き目があると思うのだが……。
ところで、映画の内容のほうなのだが……。これは止めておこう。観てのお楽しみということだ。ただ、「今の世界を皮肉っているな」と思わせるシーンがあったので、それについて少し触れておきたい。
選ばれた(?)人達が巨大な方舟に乗り、種を残そうと必至になって生き残りを図るのだが、その辺りに監督の強烈な皮肉が込められているように感じられる。
各方舟にはG8の首脳が乗り込んでいて、現実の世界では虚虚実実の駆け引きが行われているのに、映画ではそんな駆け引きなど一切描かれていない。それどころか、一致団結をしてこの難局を乗り越えようとしている。有り得ない事に、各国のエゴなど微塵も感じさせないのだ。地球温暖化対策の世界共通テーマとして「温暖化ガスの削減」が喫緊の課題として叫ばれていても、各国の思惑やエゴが渦巻き「一致団結」とは程遠い現状を考えると、「これは強烈な皮肉だな」と思わずにはいられない。その上、"人類の運命を託す方舟"を建造している場所が、今も人種問題で揺れているチベットの奥地だということも、一流の皮肉なのだろう。皮肉でないとしたら、人類の英知に対する"かすかな希望"なのかもしれない。
【文責:知取気亭主人】 |