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知取気亭主人の四方山話
 

『音信』

 

2009年12月9日

6日の日曜日、凡そ15年ぶりに友に会ってきた。前回会ったときに比べると昔から広かった額は以前にも増して立派に広がり、会えなかった歳月の長さを物語っている。しかし、鋭い眼光の中にも時折見せていた人懐っこい柔和な笑顔は昔のままだった。唯ひとつ、写真の中だということを除けば……。

  

M・H君とは学生時代同じ大学に学び、同じ寮で暮らした仲間だ。お互いいつも金欠病だったことや、彼も早くに父親を亡くしたということもあり、妙に馬が合ってよく安酒を飲み遊んだものだった。傍から見るとバンカラでとっつき難い感じを受けるのだが、深く付き合ってみると実際は繊細で、心根の優しい男だった。人一倍負けず嫌いで、稀代の努力家でもあった。行動力も抜群だった。

ただ、"照れ"もあってか愛情表現が下手くそで、物言いはぶっきらぼうだった。どちらかといえば、気に入らない相手には口よりも手が先に出るタイプでもあった。しかし、気の許せる相手とは体をぶつけ合うのが好きで、私とも傍から見ると取っ組み合いのけんかをしているのではないかと思えるようなふざけ合いをし、今から思えばそれがお互いを認め合える手立てだったのかもしれない。15年ほど前、彼の家に泊めてもらったときも、お互いに酔っ払った挙句、年甲斐もなく学生時代と同じように取っ組み合いの儀式を行い居間のガラスを派手に割ってしまったのが、今となっては最後の思い出だ。

  

私たち夫婦の結婚式にも出席をしてもらい、浜松から大阪まで同乗した新婚旅行の新幹線の中で妻に何をばらしたのか、妻もすっかり彼を気に入ってくれた。それ以来、夫婦で我が家に遊びに来たこともあったのだが、生活の場が離れていたこともあり、年賀状のやり取りと時たま電話でお互いにの無事を確認しあう程度の付き合いが長いこと続いていた。そして、私も妻も彼から届く手紙や電話口から聞こえる毒舌を楽しみにしていた。中でも、決して上手くはないのだが、必ず一言二言書き添えてある年賀状は、我が家に来る年賀状の中でも特筆すべきものだった。

  

「金もうけばっかしないで、オレにも回せ!」

  

今から考えると、年賀状にいつも書き添えられていた、思わず笑ってしまうそんな一言が、4、5年前から添えられなくなっていたのだ。聞けば、その頃から病と闘い始めていたらしい。そんなこととはつゆ知らず、自分自身が忙しくなってきたこともあり、「彼もきっと忙しいのだろう」と気にも留めなかったのだ。その上、今年は年賀状も届いていなかったのに、そう最近唯一の音信が途絶えたというのに、それさえも気が付かなかった。

先週の水曜日に掛かってきた友人からの電話と、1日遅れで届いた喪中の葉書で初めて彼の死を知った。既に10ヶ月も経っていた。きっと、音信が途絶えたのが、彼からのシグナルだったのだ。そう考えると、昨年の暮れから今年の春先に掛けては、会社の仲間の急逝や取引先のトラブルなどでいつもはする年賀状の整理もせずバタバタしていたことは確かだが、まさか大切な友からの最後のシグナルに気が付かなかったとは……。気が付いていれば、写真でない彼に会えたのに! 毒舌を聞くことも出来たのに! 本当に口惜しい。

  

そんな懺悔をしながら、写真の中で微笑んでいる彼を見ていると、「オマエのいい加減なところは変わってねぇなァ、少しは進歩しろ!」と叱られたような気がしてきた。体をぶつけ合うことも出来ず、写真たてのガラスを指で拭くと、かすかに「すまんな」の声も……。

M・H君、どうぞ安らかに! [合掌]

【文責:知取気亭主人】

 

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