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知取気亭主人の四方山話
 

『忘年会』

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2009年12月16日

今年も忘年会の季節がやって来た。季節は毎年律儀に巡って来ているのだが、忘年会そのものは、律儀さに欠けてきたきらいがある。聞こえてくる巷の情報に拠れば、景気の良かった以前に比べると忘年会の数がグンと減ってきているらしい。そうは言っても、報道関係は余り景気とは関係ないだろう、特に景気に左右されない公共放送職員は違うだろう、と思っていたのだが、NHKラジオのアナウンサーも自身の同じような話しをしていたところをみるとどうやらそうでもないらしい。また、先日会った金融機関の人によれば、金融機関でも随分減ってきており、会社としてはやらないところもあるという。よく聴くと、一時世間で言われていた、同僚や上司と酒を飲むのが苦手な若手社員が増えてきた、ということばかりではなさそうだ。

まあ、これだけ景気が悪く、しかも先の見通しが立たないと、酒を飲んで陽気に騒ぐ気分になれなくても当然といえば当然だ。その上、飲酒運転に対する罰則が厳しくなったことも手伝って、車が主な通勤手段となっている地方都市では、飲む機会そのものが随分と減ってきているのも現実だ。そして、最近とみに懐具合が寂しくなってきていることが、それに輪をかけているのだ。

 

ところが飲兵衛は、そうは簡単にめげないのだ。家庭で行う忘年会も含め、一度や二度はなんだかんだと屁理屈を付けて、忘年会なるものに参加することになる。実はかくいう私も、先週の土曜日(12日)、自宅近くのカラオケルームで忘年会をやってきた。メンバーは、男性5名、女性5名の都合10名だ。年齢層は幅があって、20代はうら若き乙女(?)が2名、40代が1名、50代が圧倒的に多く6名、そして60代が寂しく私1名だった。カラオケルームで忘年会をやるぐらいだから「参加者全員歌うことが好きだ」というのは当然なのだが、もう一つこの忘年会には特色があって、コンサートも兼ねているのだ。

私の主治医のお一人が、医者仲間と弾き語りのフォークデュオを結成していて、ひょんなことから「酒を飲みながら楽しもう」ということになり、以来年にほぼ2回、カラオケルームで「コンサート+飲み会」を開くようになった。今回もその一環で、「年忘れコンサート」と銘打っての飲み会だ。しかも今回は、もう一組の男性デュオが参加しての、賑やかなコンサートとなった。しかも、どちらのデュオも"玄人はだし"ときているから堪らない。

 

二組とも50代半ばということもあって、披露してくれるのはフォークを中心として若い頃耳に親しんだ曲が多く、暫く演奏を聴いていると、忘れかけていた歌詞が知らず知らずに口をついて出る。やはり、青春時代によく歌った歌はメロディーも歌詞も頭のどこかに残っているもので、切っ掛けさえあれば、「なんだっけ?」などと思い出す努力をしなくても記憶の引き出しから自然と出てくる。不思議なものだ。

ハイカラで難解な歌詞とハイテンポなメロディーが多い今の曲に比べ、当時の歌は覚えやすいメロディーと歌詞が多かったことが、自然と思い出すことの出来る最大の理由なのだろう。もしそうでないとしたら……? まさか!「新しい情報はからっきしダメで、古い記憶だけは奥の引き出しからでも引き出せる!」という"あの忌まわしい症状"だったりして……。危ない、危ない!

 

ところでフォークソングといえば、残念なことに先ごろ加藤和彦氏が自ら命を絶った。凡そ40年前に「帰ってきたヨッパライ」で起死回生のヒットを飛ばし、その後数々の話題曲を世に出した音楽家だ。当夜も当然「彼の作品を歌おう」ということになった。「帰ってきたヨッパライ」を"酔っ払いの私"ががなり、そして忘年会の〆の曲として、全員で「あの素晴らしい愛をもう一度」を歌うことになった。ソファーから立ち上がり、肩を組み、ディスプレイに表示される点数もカロリーも気にすることなく合唱したのだが、こんなに気持ちよく歌ったのは何時以来だろう。我々の賑やかな歌声を聞いて、天国の加藤氏もさぞかし喜んでくれたに違いない。

しかし、学生時代の飲み会ではよくやった、この「肩を組んでの合唱」は本当に気持ちの良いものだ。改めて実感した。老いも若きも、男も女も、不思議と気持ちがひとつになれる。今こそ、こんな忘年会が求められているのかもしれない。

 

そんな忘年会だったかどうかは詳らかではないが、以前登壇していただいた(元)K大学のT先生に教えていただいた忘年会の本、「忘年会」(園田英弘著、文芸春秋)には、明治21年に時の総理大臣黒田清隆が「忘年会はなるたけ質素に行うように」の内訓をだした、と書かれている。わざわざ内訓を出すなどとは、一体当時はどんなに派手な忘年会をしていたのだろう。ところが読んだはずなのに、"あの忌まわしい症状"のせいなのか思い出せない。これからの忘年会のあり方を真剣に(?)考えるには、歴史に学ぶのが一番なのに……。

ということで、もう一度「忘年会」を読み直してみることにしよう。忘年会のときの話しの種にはなるだろう!

【文責:知取気亭主人】

 


『忘年会』

【著者】園田 英弘


【出版社】 文藝春秋
【ISBN】 978-4166605408
【ページ】 206p
【サイズ】 17.2 x 11.4 x 1.8 cm
【本体価格】 \756(税込)
 

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