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知取気亭主人の四方山話
 

『豊かさの尺度』

 

2010年1月13日

長い間世界第2位を保ってきた日本の国内総生産(GDP)が、今年中国に抜かれるのが確実だという。今年どころかもう既に抜かれている、という見方もある。何時抜かれるにせよ、国の豊かさを表す一つの指標に変わりないが、GDPは本当に国の豊かさを表しているのだろうか。私としては、中国に抜かれようが、いずれ確実だといわれているインドに抜かれようが、悔しくもないし一向に構わない。そんな順位には、少しもこだわってはいない。それよりも、本当に世界の国々が目標とするような「豊かな国」であって欲しい、と願っている。しかし、実感としても、最近のテレビや新聞のニュースを見聞きしていても、どうもそうは思えないのだ。

派遣切り問題や新卒学生の氷河期と呼ばれるほどの就職難、或いは低所得者層や生活保護受給世帯の増加など生活基盤に係わるところでの課題が顕在化してきており、大多数の国民のマインドも冷え込んでいるように思える。本当に国が豊かであるのであれば、このような現象は起こらないはずだ。

  

昨年の秋頃からなんとなくそんなことを感じていたところ、元旦の日刊工業新聞朝刊に、「新安全産業社会の創造に向けて GDPに代わる指標を」と題する記事が載った。記事に拠れば、三菱総研が2005年に豊かな社会に関するアンケート調査を行った結果、"豊かさ"のためには「安心・安全な社会」が最も重要と考えていることが分かったという。確かに、いくら金銭的・物質的に豊かであっても、心配でおちおち眠れない環境では、とても「豊かである」とは言えないだろう。或いは、いつも自然災害の脅威に晒されていては、「豊か」どころの騒ぎではない。安心して暮すことは、人間の欲求として基本中の基本だ。では、どういう状況であれば我々は「安心」を実感するのだろう。

  

物欲が強い人は、「他人よりも高価な物を沢山持ちたい」と強く思っていて、これが満足されれば安心するだろう。また、健康を害している人にとっては、自分の健康管理をしていく上で満足いく環境が整っていることが、安心の条件となるだろう。或いは、豊かな自然が生活の基盤となっている人達にとっては、何時までも変わらない自然環境が保障されれば、誰しもが安心して生活できる。

このように一言で「安心」と言っても、何を重要視するか、人によって違う。人それぞれで、今良く話題に上る「生物多様性」と相通じるところがある。したがって、万人共通の「安心」を確保するのは極めて難しく、一つの尺度で「豊かさ」を定義できないことになる。つまり、日刊工業新聞の記事のように、「GDPに代わる豊かさの指標」が必要なのだ。

そういった意味で思い出すのは、以前ニュースで知った、ブータンの「国民総幸福量(GNH:Gross National Happiness)」(以下、「幸福度」という言葉も出てくるが、参考にした枝廣淳子氏のコラムタイトル以外は「幸福量」と表す)という概念だ。ブータンでは、"物質的な豊かさ"ばかりでなく"精神的な豊かさ"も同時に求めていくことが大事である、との考え方にたち、「幸福」という概念を次の9つの要素に分けて、"数値で表される指標"とすべく検討しているという(枝廣淳子、ブータンの「GNH(国民総幸福度)に学ぶ発展の哲学(07/09/12)」:http://eco.nikkei.co.jp/column/edahiro_junko/)。

  

① 基本的な生活

② 文化の多様性

③ 感情の豊かさ

④ 健康

⑤ 教育

⑥ 時間の使い方

⑦ 自然環境

⑧ コミュニティの活力

⑨ 良き統治

  

③の「感情の豊かさ」や⑥の「時間の使い方」は、目から鱗の概念だ。物が溢れている日本の生活にどっぷり浸かっていては、なかなか思いつくものではない。これらは、「より便利に、より速く」という大義名分の下、我々日本人が犠牲にしてきた「古き日本の良さ」そのものだったような気がする。

そして、②の「文化の多様性」も日本では失われつつあるものだ。多くの地方で持っていた地域独特の歴史ある文化が過疎化や高齢化により消えて行き、必然的に⑧の「コミュニティの活力」も衰退しているのが日本の現状だ。⑦の「自然環境」は言わずもがなである。受験対応に重きを置いた⑤の「教育」も、日本の場合は大分怪しくなっている。

こうしてみると、日本が物質の豊かさを追い求めた代償に失ったものや軽んじてきたものが、ブータンでは「幸福量」の指標として重要だと考えていることが分かる。私が今の日本に「豊かさ」を実感できないのもこの辺りにあるのだろう。

  

ブータンは長い間鎖国政策を採ってきていたため、まだ「物質至上主義」に毒されていないと聞く。物質の豊かさ以外の豊かさを追い求める、世界で始めての壮大な実験をしていることになるのだが、是非成功させてもらいたい。そして、「豊かさの尺度はブータンに学べ」となってくれれば地球人もまだ捨てたものではない、と思っている。ただ、ブータン以外の国々にとっては、⑨の「良き統治」が最大のネックなのかもしれないのだが……。

【文責:知取気亭主人】

 

こんな文化も少しずつ衰退していくのだろうか?

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