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2010年1月27日
確か先々週だったと思うが、九州の長崎でも雪が降り全国的にグンと冷え込んだ頃、沖縄県の宮古島で急激な海水温の低下により仮死状態になったブダイ(スズキ目・ブダイ科)が沢山海面に浮いた、という面白いニュースを聞いた。ブダイは食して美味しい魚らしく、"釣竿"ならぬ"バケツ"片手に"拾いに行く人"が出て時ならぬ豊漁に喜んでいた、というから羨ましい。近くだったら、バケツを提げて行きたいところだ。
しかし、冬でも海水浴ができるのではないかと思える南国の宮古島で、魚が動けなくなるほど海水温が下がることがあるのには驚いた。しかも、インターネットで調べてみると、そういった出来事は今回に限ったことではなくこれまでにもちょくちょく有った、というから二重の驚きだ。そんな出来事、石川県では聞いたことがない。魚に関する知見はからっきしだから確証はないが、それにしても自然は面白い。
さてこの仮死状態、実は魚が仮死状態になることは、子供の頃に自転車の電灯用発電機――ペダルを漕ぐとライトが点く例のヤツ――を使い小川の水溜まりに電気を流してフナなどの小魚を捕ったり、川の浅瀬で魚が潜んでいそうな石に拾った別の石をぶつけ衝撃波で浮いてくる小魚を捕ったりして遊んだことがあるから、以前から何となく知っていた。また近年では、魚を生きたまま輸送するための方法として、麻酔や鍼で仮死状態にしていることもニュースで知っていた。
しかしながら、そういった人為的なショックではなく、まさか水温の自然な変化でも仮死状態になることがあるとは知らなかった。でも良く考えてみると、池に落ちた人が低温のため仮死状態になったお陰で暫く呼吸が止まっていたにも拘らず助かった、というビックリニュースもあったから、魚にあっても不思議ではない。寒鮒が一箇所にジッとしていて動かなくなる、というのもそれに近い状態なのかもしれない。
また、炬燵や火鉢しか暖をとる手段がなかった昔の一般家庭で、炬燵や火鉢の周りに集まってジッとしている姿も、有り体に言えば人間のそんな状態に見えないこともない。やっぱり、動物は寒さに弱いのだ。
ところで、どんな魚でもそんな状態になるのだろうか。素人考えでは、マグロやカツオ等の回遊魚では、餌のある好みの水温のところに自由に移動できるため、仮死状態になるとは考えにくい。一方、ブダイなどのように岩礁などに留まる種類の魚では、水温に体を合わせるしかなく、しかも温度変化を受けやすい比較的浅いところに生息していることもあって、"水温の急激な変化"についていけないのだろう。ところが、である。そういった急激な水温の変化ばかりでなく、ゆっくりとした季節変化でも同じような状態になる魚がいる、というからこれまた驚きだ。
熊もビックリの生態をするのは、アイゴ(スズキ目・アイゴ科)という魚だ。2010年1月11日の朝日新聞朝刊に依れば、この魚は水温が低い冬場になると"冬眠状態"となってほとんど餌を食べないという。先ほどの寒鮒と一緒だ。
「さてはこのアイゴもプカプカと浮かんできたか」と思いきや、実はそうではなく、記事の内容は行って来るほど違う。先ほどのブダイの話題とは逆で、冬場の海水温が上昇したために冬眠状態にならなくなったというのだ。その結果、冬場でも餌の海藻を食べるようになり、食害が出始めているという。
朝日新聞に依れば、「アイゴは海水温が14℃以下になると餌を食べなくなる」という実験結果もあるらしいが、記事に載っていた佐賀県玄界灘沖に浮かぶ松島周辺では、最近の30年間で海水温が1〜1.5℃も上昇したという。この「数値では僅かに見える上昇」が、アイゴの冬眠タイマーを狂わし、結果「海のゆりかご」と呼ばれる藻場を「大きな危機」に陥れようとしている。アイゴが餌を食べなくなる冬場は、本来であれば海藻の成長期に当たるのだという。そんな成長期を襲われたのでは堪ったものではない。行き着く先は、藻場のない「磯焼け」状態だ。
「磯焼け」にまで至ってしまうと、魚介類にとっては砂漠と同じで生活環境はグンと劣悪になる。食害以外にも川から供給されるミネラルの不足や水質の悪化など、「磯焼け」の原因とされるものは多いが、海水温の上昇が魚を始めとする海の生態系を狂わし、食害に至っていることは疑う余地がない。海水温の上昇は、台風やハリケーン、或いはサイクロンを大型化させるなど異常気象をもたらす原因となっているばかりでなく、このように生態系にも悪影響を及ぼしているのだ。
海藻を食い尽くしてアイゴ自身の餌も無くなった、ということが無いよう、これ以上の海水温上昇は阻止しなければいけない。小文の中での話としては、30年前の水温に戻すことが出来れば食害も減るのだろうが、一向に減らない温暖化ガス排出量の状況を知ると、それも難しい。我々庶民に出来ることは、出来る限りエコな生活を送ることだ。その典型的な例が、バケツを提げて近くの浜にブダイを拾いに行くことなのかもしれない。やはり冬は冬らしく、ブダイが仮死状態になるぐらいの冷え込む日があっても不思議はない。それが日本の冬の冬たる所以なのだから。
【文責:知取気亭主人】 |