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2010年4月14日
安土桃山時代の大泥棒石川五右衛門は、「石川や 浜の真砂は 尽きるとも 世に盗人の 種は尽きまじ」なる辞世の句を詠んだという。浄瑠璃作者が作ったとの説もあり、彼自身が詠んだ句かどうかは史実として疑わしいところもあるようだが、誰の作かは別にして、「例え海の砂が無くなったとしても盗人はいなくならない」ということを、五・七・五・七・七のリズムに乗せて上手いこと表現している。処刑されたのが1594年とされているから、彼が生きていたのは今から凡そ420年も前になるが、詠んだ内容は今の時代にもピッタリ当てはまる。400年以上も前と比べれば遙かに生活レベルが向上した現代でも、昔と変わらず、楽に金品を手に入れようとする輩は後を絶たない。
ただ、時代背景の違いなのだろう、盗むものが違ってきた。と同時に、盗む相手も選ばなくなってきた。江戸時代の盗賊鼠小僧次郎吉を代表として"義賊"という言葉があるように、欺瞞ではあるけれど、昔の泥棒には「弱きを助け強きを挫く」的な良心が多少なりとも残っていたような気がしてならない。ところが最近の泥棒は、「金になる」と思えば、相手が誰であろう手当たり次第である。
昔の泥棒が盗みの対象としたものは、換金性の高い金品であったと思われる。時代劇の受売りで言えば、千両箱や米俵となる。"かんざし"や"高価な着物"などもそうだろう。そして、登場する被害者の殆どは金持ちだ。いくら売り物になるとはいえ、未だ木に実っている柿やミカンなどは、腹を空かした子どもがチョッと失敬するぐらいで、大の大人が大量に、しかも転売を目的に木からもぎ取り盗むことなど殆ど無かったと思われる。しかし最近は違う。
数年前から、収穫寸前の米が無残にも刈り盗られたり、木に生っていたサクランボがごっそりと盗まれたりと、これまででは考えられないような物が盗まれている。しかも、1年に1度しか収穫できない物を、丹精込めて育てやっと出荷できるという直前に、ごっそりと盗んでいる。それで生計を立てている農家のことは全く考えていない。どだい悪事を働く泥棒に期待する方が間違いなのかもしれないが、良心の欠片もない。
また、農産物ばかりではない。驚いたことに駐車場の"ステンレス製ポール"やお墓に備え付けられた"ステンレス製の仏具"、或いは火の見櫓に吊り下げられている"半鐘"も持ち去られ、一時話題となった。挙句の果ては、寺の"仏像"までもが盗難の被害に遭っている。罰当たりな泥棒だ。人の道を説くお釈迦様もさぞや驚いたに違いない。そして今度は、とうとう動物だ。牛泥棒や鶏泥棒が遠い昔にいた、と聞いたことはあるのだが……。
先週、イチゴ農家のビニールハウスに置いてあったミツバチの巣箱が盗まれた、とのニュースがラジオから流れてきた。確かに昨年来、ミツバチが足りない、とのニュースは知っていたが、まさかミツバチを巣箱ごと盗む泥棒が出没するとは思っても見なかった。もう、金になりそうなものは何でもだ。全く見境がない。
どうしてこうなってしまったのだろうか。「汗水流して働く」という勤勉さを美徳として捉える感覚が、日本人から消えようとしているのではないだろうか。農業を始めとする物作りの現場の若者離れが叫ばれて久しい日本の現状から見えるものは、「汗水流して働くのはイヤだ、楽して儲けたい」の考え方が日本人の中に増大してきていることだ。その延長上に、「金になるのもだったら何でも盗む」があるのではないだろうか。一体、どこまでエスカレートするのだろう。次は何が標的になるのだろうか?
植物にとって受粉を手助けしてくれるミツバチは益虫であるし、農家にとっては収穫を安定化するのになくてはならない存在だ。例えば、背が低くて何万、何十万という花が咲くイチゴや、マンゴウのように何千もの花をつけるのに結実するのはその中の数個だというような植物にとっては、ミツバチのような存在がいなくては、人間が気の遠くなるような作業をしなくてはならない。そうした農家にとっては、ミツバチの減少は死活問題となってくる。そこで、画期的な研究が進められているという。海外での減少にも影響されるミツバチの代わりに人間がコントロールし易いハエを育て、これに受粉の手助けをさせるのだという。しかも、既に使用しているところもあるらしい。花に群がるハナアブがハエの仲間だというから、昆虫学者の中では有り得る応用なのかもしれないが、我々素人にとっては驚きだ。
しかし、泥棒にとってはどうなのだろうか。ミツバチと違って、一旦ハウスから出されたハエの再販価値はあるのだろうか。ミツバチと思って盗もうとしたらハエだった、となる日も近いのかもしれない。それでも盗んでいくとなったら、本当に世も末だ。"ゴマのハエ"以下だ。そうならないように、「額に汗して働く大切さ」を全ての日本人が今一度再認識すべきだ、と考えるが皆さんはどう思われるだろうか。
ところで、前話で「右の写真に示す花の名前を教えて欲しい」と書いたところ、金沢在住のYさんから「ヒメリュウキンカですよ」とのメールを頂いた。私が思っていた花の名前と一緒だと分かり、お陰様で喉の支えが取れすっきりした。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。ありがとうございました。
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【文責:知取気亭主人】 |