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2010年7月28日
今年のNHK大河ドラマで放映されている坂本龍馬は、「…今一度、日本を洗濯いたし候…」と手紙に書いたという。汚れきった世の中の垢を洗い落とし綺麗になったところでまた出直そう、そういった事を言いたくて「洗濯」を使ったであろうことは、容易に見当がつく。これなら、詳しい説明が無くても言いたいことは良く分かるし、「上手いことを言うものだ」と関心もさせられる。
ところが、同じ"憂国の士"とおぼしき今の政治屋が言うと、何となく空々しく聞こえてしまうからイヤになる。今でも人気のある――生前よりも亡くなってから人気がでたとの意見もある――龍馬にあやかろうと思ったのか、最近の選挙でのこの言い方を真似た政治屋がいたようだが、今の国民はそう言われてもピンと来ない。何しろ、政治屋自らを洗濯するのが先だろう、と思ってしまうからだ。それだけ政治屋には汚れているのが多い、と大衆は思っている。頑張っている人もいるのに、残念なことだ。
そんな嘆きはさて置き、龍馬が使ったこの「洗濯」だが、人間の体や国を衣服と同じように洗濯できるなどとは誰も思っていない。当然のことながら、比喩として使っていることを殆どの日本人は理解している。ところが、どうも「比喩ではなく本当にそんなことが出来る」と信じている大人がいるらしい。こともあろうに、ヒトを洗濯機に入れて回転させた、と言うのだ。それで綺麗になると信じたとすれば、"素直"を通り越して余りに幼稚だ。普通の感覚の者にとって思いつきもしないことだが、尋常でないそんな行動をとったということは、「人間の心の汚れや"わがまま"は、体を洗濯するに限る」と思いこんでいたとしか思えない。
福岡県久留米市の自宅で6月に5歳の長女を殺した容疑で逮捕された母親が取調べの中で「娘を洗濯機の中に入れ、回したことがある」など我が子への虐待を供述している、との仰天ニュースが報じられていた。口を粘着テープで塞ぎ、両手、両足を縛って洗濯機に入れ、更に水を入れたことや回転させたこともあったという。実の娘にそんな残虐なことが出来るとは、とても信じられない。人間のすることでも、ましてや一番愛情を注ぐべき親のすることでは絶対ない。犬畜生でも、親の愛情はとても深い。
「何故そんなむごいことをやったのか」の取調べに対して、「躾のためにやった」と答えていたというが、「躾のために……」は虐待を繰り返す親が使う常套句だ。躾と虐待を完全に混同している。虐待をすること自体そうだが、その非情な遣り方は、単純に「自身の怒りの矛先を幼い長女に向けたに過ぎない」と言うには余りに残酷だ。何故、そこに行くまでにブレーキを掛けきれなかったのだろうか。「躾云々」の前に、まず自分の心を綺麗に洗濯する必要があることを知るべきだ。
洗濯機に入れて回したからと言って、躾が身に付くはずがない。そんなことは大人なら誰もが知っている、常識以前の話だ。躾は、まず親や周りの大人が手本を示すことから始まる。そして、間違ったら注意をする。そういったことの繰り返しで身に付いていくものだ。体の洗濯をしたら汚れが洗い流されて元のスマートな礼儀作法が現われる、などということは絶対に有り得ない。それを何がどう狂わせたのか知らないが、事もあろうにいたいけな我が子を洗濯機に入れて回転させた、というのだ。しかも、洗濯機の蓋をしたこともある、と供述しているらしい。蓋をされてしまえば、子供が恐れおののく暗闇の世界だ。
5歳と言えば、幼稚園の年中さんか年長さんだ。目をつぶり同年代だった頃の我が子を思い出しても、愛おしい姿しか思い出されない。口も達者になっている頃だが、まだまだ可愛い盛りだ。5歳とはそんな年齢だ。そんな子が、暗く狭い洗濯機入れられ、回転させられているのだ。考えただけでもおぞましい。この子の恐怖はいかばかりだっただろうか。それを思うと、胸が張り裂けそうだ。
「こんな悲惨なニュースは二度とゴメンだ」と思っていたら、世の中どうかなってしまったのか、次から次へと幼児虐待のニュースが流れてくる。中でも、久留米市の洗濯機事件と同じぐらいショックだったのは、横浜市で僅か1歳2か月の女児が木箱に入れられ窒息死した事件だ。木箱は、母親と同居している男が夜泣きをする女児を入れるためにわざわざ作ったもので、蓋の重さは約5キロもあったという。この小さな木箱の中に約20時間に亘って閉じ込め、食事を与えるとき以外は蓋を閉めたままにしていたと言う。幼児は犬猫とは違う。ペットではない!
でも扱いはまるでペットだ。この児は何のために生まれてきたのだろうか。僅か1歳と2か月のホンの短い生涯の中で、ヒトの子として扱われたことがどれほどあったのだろうか。愛情を注がれたことはあったのだろうか。「産まれてきてくれてありがとう」と言われたことはあったのだろうか。
せめて、一時でもいいから幸せなときが有った、と信じたいのだが……。そうでなければ、余りにも悲しすぎる。
【文責:知取気亭主人】 |