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知取気亭主人の四方山話
 

『読んでみませんか「国土学事始め」』

 

2010年8月25日

先日、久し振りに面白い本を読んだ。知り合いが「社長から読むように薦められ、読んでみたところとても良かったよ」と紹介してくれた本で、少し古風な言い回しのタイトルは勿論、帯に書かれていた「国のかたちとは」の副題にも惹かれ、出張先での紹介だったのだが早速借りて読むことにした。公共事業に携わる者として、「国土学……」と聞けば、無視する訳にはいかない。如何せん、与野党何れも党利党略に自己陶酔しているような政治ドラマからは目指す「国のかたち」は一向に見えてこないし、「インフラ整備・維持を担い"国のかたち造り"に多いに貢献してきた筈の公共事業」が恩恵を受けている立場の国民からは遠い存在になっている様に思えて、暫く前から悶々として仕方がなかったのだ。そんな悶々とした思いを解決してくれているのではないか、と期待して読んでみた。果たして、"期待に違わず"の本であった。

  

その本とは、元国土交通省技官の大石久和氏が書いた「国土学事始め」(毎日新聞社刊)である。穿った見方ではあるが、「道路、鉄道、空港港湾、そして上下水道や電力網などがほぼ隈無く整備され、世界トップクラスの"インフラが行き届いた国"となり、その恩恵を殆どの国民が受けている筈なのに、公共事業がまるで悪の巣窟の様に扱われている」とその理不尽さに憤りを感じていただけに、歴史的建造物や事業を例に取り、「生命や財産を守り安心して暮らせる国土形成のために土木が担ってきた大切な役割」を分かりやすく説いている本書は、私の溜飲を大いに下げてくれた。例えば、平地の少ない日本では、人が住み生活必需品を加工生産するための土地や食糧増産のための農地の確保など、江戸を始め日本各地で埋め立てや干拓などの土木工事が行われてきたことや、人工河道の掘削による河川付け替えなどにも言及している。満濃池に代表される溜め池の築造も、古くから行われてきた国土の形成として取り上げている。そういった先人達が築いてきた国土の上に今の我々の生活が成り立っていることを、分かりやすく語りかけているのだ。

  

また、公共事業費の投資効率に深く関わる「国土の形状」を理解するのに非常にユニークな指標を提唱していて、その指標を使うと、それまで抽象的な比較しかできなかった外国との"国土のかたち"の違いを端的に表すことができるから面白い。そして、その指標からは、フランスやドイツに比べると、如何に日本の国土が投資効率の悪い形状をしているかが伺い知れる。その指標とは、ひとつは「国土のゆがみ度」であり、いまひとつは「地形の複雑度」という考え方である。

詳しくは本書を読んでいただくとして、「国土のゆがみ度」とは「同じ面積だとするとどれだけコンパクトにまとまっているか」を表したもの、と言い換えても良い指標だ。真円を1とすると、フランスは1.23、ドイツが1.30であるのに対し、日本は4.06にもなるという。長方形に置き換えると日本は、[長辺:短片=1:21]に相当する値になったという。それだけ国内の各地域間を行き来するにも時間を要するし、そのインフラを整備しようとするとゆがみ度の小さなフランスやドイツに比べ多くの障害を抱えていることになる。必然的に、金もかかるという事である。

いまひとつの「地形の複雑度」は、どれだけ国境が入り組み複雑であるかを表しており、一定の面積に対する周囲の長さが長ければ長いほど「複雑である」と考えた指標で、これも真円を1.0とすると、フランスは2.08、ドイツが2.91であるのに対し、日本は驚くなかれ15.6にもなるという。「世界有数の海岸線を持つ海洋国家日本の面目躍如」と言いたいところだが、海洋国家を標榜する国としては「アジアのハブ港競争に負けている」という点で寂しい限りだし、本書では複雑さ故の「国土への働きかけの困難さ」も指摘している。

しかしどちらの指標も、各国の国土を比較する方法として私にとっては目から鱗の考え方で、「違いを"見える化"するためにはこういう考え方をしなければいけないのだな」と大変勉強になった。諸外国に比べインフラ整備の困難さや割高になりがちな理由も、これらの指標を通して比較すると良く理解できる。それを考えると、公共事業に携わる側の人間としては、公共事業にマイナスイメージを持っている人、特に報道関係者には是非読んでもらいたい本だ。

  

また、何代か前の総理大臣が言っていた「滅私奉公」ではないけれど、「"わたくし(私)"と"おおやけ(公)"の関係を見つめなおすことが必要だ」と説く視点には、同じ思いを持っていただけに、ウンウンと頷きながら読ませてもらった。特に、最近"わたくし"の権利を余りにも主張し過ぎているのではないかと思うことが多く、「 "過度の民主主義"が日本に蔓延し始めている」と感じていただけに、 "我が意を得たり"の心境にさせてくれた本でもある。同じように勘違いしている日本人が多いと思っていた「公共の概念」も、見事一刀両断にしてくれている。これを読めば、ゴミ屋敷の問題など如何に公共を無視した"わたくしのエゴ"か、分かろうかというものだ。胸の空く思いとは、正にこのことだ。

  

いずれにしても、本書が説く「国土学」という視点は、私にとって極めて新鮮であった。また、これからの世代に「暮しやすい日本という国」を残していくためには、どうしても必要な学問であることが良く分かる。そういった意味では、是非多くの皆さんに読んで頂きたい、主人お薦めの一冊である。  

【文責:知取気亭主人】



『国土学事始め』

【著者】大石 久和


【出版社】 毎日新聞社
【ISBN】 978-4620317656
【ページ】 239p
【サイズ】 19 x 13.6 x 2.6 cm
【本体価格】 \1,680(税込)
 

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