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2010年9月1日
ここ数週間、我が家は時ならぬ模様替えで、慌しい週末を過ごしている。「このくそ暑い時に何でまた」と思われる御仁も多いことと思うが、実はこの暑さにもめげずどうしても模様替えをしなければならない事情があるのだ。それも嬉しい事情である。したがって、動くたびに汗が滴り落ちるこの"くそ暑さ"も何のそのなのだ。
その嬉しい事情とは、嫁と初孫が近々我が家に短期滞在しに来るのだ。まだ初孫は誕生していないのだが、予定日が9月12日とあって、もうその準備をしておかなければならない時期に来ている。ところが、今のままでは我々夫婦と次女・次男の四人家族がそれぞれ寝起きしている所以外に、嫁と赤ちゃんが安心して寝られる場所がないのだ。そこで、体力もありどんな所でも寝られる次男に白羽の矢を立て、今物置として使っている3畳ほどの部屋に移ってもらうことにした。空いた次男の部屋を嫁と赤ちゃんに使ってもらおう、というわけである。
独身男性の部屋である。体だけ移動すれば事足りる、ということにはご想像の通り不可能な散らかり様で、必然的に"場所替え&模様替え"ということになったわけだ。しかも明け渡すだけではなく、次男の次の寝床を確保するために、物置に置いてある物を移す先を確保しなければいけなくなった。ところてん式移動だ。そこで次に白羽の矢を立てたのが、私が秘かに"書斎"と呼んでいる半畳ほどの納戸の片隅だ。ここに、パソコン、プリンター、この拙文を書く時にお世話になっている辞書類が我が物顔に鎮座していて、息子の部屋同様"らんごく"な状態なのだが、仕方がない。どんなに散らかっていても、ウダウダ言わずにもう片付けるしかないのだ。片付けるとなると次に行く先もご同様で、ここから追い出されるパソコンやプリンターの行き先に決まった、我々の寝室にある義父形見の机の周りも、御多分に洩れず、である。
しかし、嬉しさと待ち遠しさがあってかこの暑さも何のその、「いくら散らかっていても身から出た錆だ」と素直に我が身の非を認め、手始めにパソコンの最終置き場を片付け始めた。改めて片付けてみると、整理整頓の悪さに身がつまされる。机の板が見えないほど雑多な物が重ね置きしてある。しかし、手にとって見るとゴミ箱行きが殆どだ。中には、酔っ払った時手渡されたのか、源氏名が大きく印刷された"角の丸い名刺"もある。他にも、買うつもりで買えなかったデジタルカメラのカタログや「何時かは行きたい」と思って取っておいた旅行雑誌、或いは完全に積ん読になってしまった読みかけの本等、その時は真剣に手に取っていたものの今となってはゴミ箱直行の運命となってしまう物が多い。捨てられない症候群の典型だ。
そんな自虐的なことを思いながら片付けていると、模様替えや引っ越しの時に必ず出てくる、あの"片付けの手を思わず止めてしまう思い出の物"を見つけた。仕事で使っていた懐かしい"手帳"だ。集めてみると、20年位前からのやつがあっちこっちから出てきた。確か、40年ほど前から取ってあるのだが、今の手帳サイズになってからは、この机に置き場所を決めていた事を思い出した。
片付けの手を止めて、ページをめくると懐かしいことが書かれている。客先での商談内容や現場で発生したトラブル、その年々の売り上げ目標など、読み返すと当時のことが鮮明に甦ってくる。記憶を掘り起こすための手段として"記録"は最高だ、という事を改めて認識させてくれた。そういう意味ではこれだけ記録を残していた俺も大したものだ、と自画自賛をしていたら、折りたたまれて手帳に挟まった書類らしき物を見つけた。「何だろう?」と広げてみると、領収書ではないか。しかも、1万円近くもある。どうやら手帳に挟んだまま精算し忘れたらしい。5年も前の領収書では今更如何ともし難いのだが、「忘れてた領収書」だと分かった途端に、懐かしさもすっ飛び、止っていた片付けの手も動き出した。我ながら現金なものだ。
しかし、私に限らず人間誰しも「アッ、忘れてた!」と、何かの拍子にやっていなかったことに気が付く場合が多い。全国各地で見つかっている所在不明の高齢者問題も、そんなうっかりミスの一つのように思えるのだが……。長崎県では生きていれば200歳の人が戸籍上は生存していることになっていたり、石川県でも146歳の人が生存していることになっていたりする。戦中・戦後のドサクサが原因だったり、或いは身寄りの人が皆亡くなってしまったりといった事情は夫々考えられるのだが、100歳を越えた辺りから所在確認をしていたら、と悔やまれる。法律上の制約も色々と有るらしいが、「御免なさい、所在確認するのを忘れてた!」とアッサリ認めるのも必要なのではないだろうか。年金不正受給のために生存を装っていたのは全く以ってけしからんが、既に亡くなっているのに何時までも"戸籍上は生存"とされていたのでは、仏も浮かばれない。それこそ、何時までも「忘れてた!」では済まされない。
【文責:知取気亭主人】 |