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2010年12月15日
2010年、今年一年を表す漢字として「暑」が選ばれた。私としては、もう少し違う字を想定していたのだが……。昨今の政局の混迷から想像すると「混」か「迷」、あるいは“尖閣諸島事件”や“ロシア大統領の訪島問題”に象徴される領土の「領」、もしくは“日本国民を感動させたハヤブサの帰還”と“チリ鉱山での奇跡の生還”に敬意を表して「還」のどれかだろうと思っていたのだが、見事に外れてしまった。尤も、今夏の猛暑を思い出してみれば、「暑」が選ばれて当然と言えば当然なのかも知れない。ただ、人によっては「暑」よりも「熱」の方が相応しいのではないか、と思っている人も多分沢山いるだろう。かくいう私もその一人だ。それ程までに今年の夏は暑かった。
そんなことを思い起こせば、「暑」が選ばれたことに関してはそれなりに納得できる。しかし、本当のところを言うと、「暑」であろうが「混」であろうが、あるいは「還」であろうがどちらでも良く、実は毎年恒例になったこの“一年を表す漢字”について、今年はこれまでと違って別な意味で気になっていたのだ。というのも、今年は常用漢字が1981年以来29年ぶりに改訂されていることから、ひょっとしたら文部省国語審議会に敬意を表し、「新たに加わった196字の中から選ぶのではないか」と深読みしていた部分もあったからだ。ただ、残念ながら読みはすっかり外れてしまった。
ところでこの常用漢字の改訂、それまで1945字だったところから5字が削除、196字が新たに追加されて、都合2,136字となった。これまでよりも約1割増えたことになる。2,136という文字数だけを聞けば凄く多いように感じるが、これでも、日本工業規格(JIS)で定められている第一水準漢字(2,965字)と第二水準漢字(3,390字)を合計した6,355字のやっと約34パーセントに過ぎない。「書ける、書けない」、あるいは「読める、読めない」は別にして、――私自身は、多くが読めなくて殆どが書けなくなってしまったのだが――6,355字とは、凄い数の漢字があるものだ。しかし、「6千を超える漢字がある」といっても、日頃から使っていたり目にしたりする数は限られていて、おおよそ半分は滅多にお目に掛からないものが多い。したがって、日常的に使うには多すぎる漢字の中から、生活上常に使っていて良く目にする漢字を「常用漢字」として定めたのだろう。
ところが、である。普段でも良く使い、テレビや新聞に毎日のように登場してる字であっても、改定前には常用として指定されていなかった漢字があることを知った。今回常用漢字となった字を調べて分かったのだが、「エッ、この字って常用漢字ではなかったの!」とビックリするような見慣れた字が結構ある。しかも、決して見栄ではないけれど、私でもまだ書くことができるような比較的簡単な字が多いのだ。
例えば、静岡や岡山の「岡」、大阪の「阪」、あるいは鹿児島の「鹿」などだ。これらは、府県名や都市の名前に使われているのに、今回新たに常用漢字に加わって、やっと大手を振ることができるようになった漢字だ。この他に、奈良の「奈」、熊本の「熊」、山梨の「梨」、岐阜の「阜」、埼玉県の「埼」、茨城県の「茨」、栃木県の「栃」、そして愛媛県の「媛」も新たに加わった仲間だ。何れも県名に使われながら、不思議なことにこれまで常用漢字として扱われてこなかった。今回の改定内容が発表になり初めて知ったのだが、このように府県名に使われていて常用漢字でない字があったとは驚きだ。公用文書はどうしていたのだろう。
そういった疑問はともかくとして、これまで常用漢字以外も使って表記せざるを得なかった12府県が、これで目出度く全て常用漢字で表記できることになった訳である。私の田舎がある静岡県もこれでやっと一人前になった、といった気分だ。しかしながら、府県名ではなく市町村名に使われながら、まだ常用漢字として認定されていない漢字がある。そういったある種の不公平を無くし、少なくとも日本に住んでいる以上、宛名や差出人の住所に使われる日本の地名は、常用漢字で全て網羅できるように考えてもらいたいものである。
ところで、一人前と言えば、常用漢字表以外の漢字を使った熟語も今回追加されたのだが、その中に人の体に関する熟語が意外と多いことに気が付いた。気が付いただけで、
骸骨(がいこつ)、嗅覚(きゅうかく)、血痕(けっこん)、梗塞(こうそく)、股間(こかん)、挫傷(ざしょう)、腫瘍(しゅよう)、腎臓(じんぞう)、頭蓋(ずがい)、脊髄(せきずい)、脊椎(せきつい)、脱臼(だっきゅう)、唾液(だえき)、瞳孔(どうこう)、捻挫(ねんざ)、浮腫(ふしゅ)、閉塞(へいそく)、眉間(みけん)、涙腺(るいせん)と、18もある。中でも、腎臓と脊髄、脊椎、そして眉間、涙腺には驚いた。いずれも体の部位や器官を表す熟語で、我々素人でも時として使う事がある。医療の専門用語としては勿論、事件や事故の報道でもチョクチョク耳にする単語だ。驚いたことに、こういった身近な単語も、これまで常用漢字として扱われてこなかった事になる。洒落ではないが、これで人の体もやっとこさ一人前になった事だろう。
【文責:知取気亭主人】 |