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知取気亭主人の四方山話
 

『本の力』

 

2011年5月11日

この駄文を書き始めて、早いもので8年目になる。三日坊主を自他共に認める私にしては珍しく、何とここまで皆勤賞だった。ところが、金子美鈴の表現を借りると、「“休もう”、と言うと“休もう”と言う」心の囁きに負けて、初めてお休みを貰ってしまった。本来ならば5月4日が409話目になるところだったのだが、その日が連休の真っ最中ということを良いことに、骨休み(?)を決め込んだのだ。お陰で、前半の3連休は昨年亡くなった義母の1周忌法要に余裕を持って出かけることが出来たし、後半の3連休はこまごまとした用事が有り遠出は出来なかったものの、久しぶりに読書を楽しむことが出来た。といっても、文庫本1冊だけなのだが……。

 

先々週、何年ぶりかで週刊誌を買った。東日本大震災関連記事のセンセーショナルなキャッチコピーが表紙を飾っていた「サンデー毎日」(5.8-15 GW合併号)だ。表紙を埋めるキャッチコピーにまさに“キャッチされて”購入したのだが、特に「言葉のプロ16人 絶望が希望に変わる本」と書かれたフレーズに目が留まった。良書が傷ついた心を癒したり勇気付けたりすることが出来ることは知っていたが、「被災された人達にプロは一体どんな本を推薦しているのだろう?」と興味が沸いたのだ。

金沢駅で買い求めたくだんの週刊誌は、いつもは睡眠タイムとなっている東京行きの電車の中で、格好の眠気覚ましグッズとなった。テレビでお馴染みの教育評論家尾木直樹氏を始め、各分野のプロ達16人が、被災者に向け一押しの一冊を推薦している。流石「言葉のプロ」と紹介された人達だ。どれも「成る程!」と納得の解説が書いてある。紹介されていた16冊の中で吉村昭の「三陸海岸大津波」以外の15冊はまだ読んだことが無く、時間があったらじっくりと読んでみたい本ばかりだ。中でも、精神科医の香山リカ氏推薦の本と、古書研究家・文筆家と紹介されていた岡崎武志氏の推薦本が、特に気になった。

前者は、米原万里氏の「魔女の1ダース 〜正義と常識に冷や水を浴びせる13章〜」(新潮文庫)であり、後者は辺見じゅん氏の「収容所から来た遺書」(文春文庫)である。解説を読むと、「魔女の…」は笑いを楽しめそうな洒脱なエッセイだというし、「収容所…」は過酷な状況下でいかに希望を捨てないかを問うノンフィクションと、全く異なるジャンルの本なのだが、どちらも文庫本という手軽さもあって出張帰りの日に東京駅で買い求めた。そして、この連休で読んだのが「魔女の…」である。

 

作者の米原万里氏は、元ロシア語の同時通訳者にして、エッセイスト、作家という多彩な顔の持ち主だ。通訳という職業柄、異文化との交流が否応なく付いて回るのだが、その長年に亘り体験したエピソードを洒脱に、そして時にドキッとするような内容を軽妙に、エッセイとしてまとめたのが本書である。

のっけから魔女の話で笑いを誘ってくれるが、この先どんな突拍子もないエピソードが待っているのか、早く読み進みたい衝動に駆られる大好きな導入部分である。そして予想通り、突拍子もないエピソードが満載されており、読み手を飽きさせない。飽きさせない理由は、面白おかしいことだ。プラス、女性作家でありながら下ネタが結構多いことだ。通訳としての経験上、この手の笑い話で盛り上がるのは世界各国共通らしいが、ともすると厭らしさが出てしまう内容を、軽妙洒脱に表現しているところは憎らしい程だ。語っている内容はドキッとするようなことなのだが、その表現はあっけらかんとしていて小気味がいい。一人、体を揺すって笑ってしまう。

  

確かに、香山リカ氏が推薦するようにこの本を読むと、肩の力がすっと抜ける。笑いの力だ。そして、笑いの世界に誘い込んでしまう表現の巧みさだ。それらを全部合わせて、「本の力」と言ってもいい。そういう意味では、第7話で紹介した柳家小三治の噺の枕を集めた本「ま・く・ら」(講談社文庫)も、肩の力がすっと抜ける上質な笑いを提供してくれる本だ。

肩の力がすっと抜けるような本、そんな本を被災地に送ることも有意義な支援活動の一つかもしれない。

【文責:知取気亭主人】



『 魔女の1ダース 
〜正義と常識に冷や水を浴びせる13章 〜』

【著者】米原 万里


【出版社】 新潮社
【ISBN】 4101465223
【ページ】 294p
【サイズ】 15 x 11 x 1 cm
【本体価格】 \500(税込)
 

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