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知取気亭主人の四方山話
 

『恥をさらすようですが…』

 

2011年8月17日

凡そふた月前、金沢随一の歓楽街、片町の裏通りにひっそりと佇む小料理屋に、少し疲れた様子のアラ還世代8人が集まった。10年ほど前なら夕方6時を過ぎた頃ともなればアフターファイブを楽しむサラリーマンで賑やかだった片町も、ここ数年飲み客は減り徐々に寂しくなってきている。そんな街の雰囲気に溶け込むかのように、やや背中を丸めた8人の後ろ姿は、どこか人目を忍んでいるようにも見える。実は、彼らが密かに集まったのには訳がある。これから他人には聞かせたくない話を、額を突き合わせて……。

てな事は全くなく、「ただ酒を楽しむために呑兵衛が8人集まった」という事なのだが、この飲み会で、人生経験豊富な筈のアラ還連中が思わぬ勉強をさせられた。今回はその話題を提供したい。

 

酒が進み皆さん大分舌が滑らかになって来た頃、『国会でさる代議士が「もくと」と言っていたがあれは「めど」の間違いで、漢字の読み間違いで名を馳せたアノ総理大臣と似たような間違いをしている』と、Aさんが面白おかしく話題を披露してくれた。私も『ヘー、そうなんだ』と納得したのだが、Aさんと同年齢のBさんが『イヤ、目途は「もくと」とも読むんです』と自信ありげに薀蓄を語ってくれた。

『エーッ、そうですか?』とAさんと私。Bさん以外の皆に、『違いますよね!』の同意を求める哀願の眼差しを送ったのだが、誰も首をかしげるばかりで明快な回答が無い。そこで私、『“めど”は「目処」、或いは「目途」と書いて“それ以外の読みはない”とばかり思っていたのに、「もくと」とも読むんですか?』と思い切り疑って見せた。すかさず、『そうですよ!』とBさん。こうなると、もう頭から離れない。唯一人ウーロン茶で覚醒していた脳は、どう解決するかのメドも立てないまま、「もくと」を未解決事件簿の引き出しにしっかりと仕舞い込んでくれた。

 

しっかりと仕舞い込み過ぎたのか、脳が覚醒していなかったのか定かではないが、薀蓄を聞いた日から随分と経った先週、突然この未解決事件を思いだした。早速、Aさんと広辞苑を引っ張り出し、「目処」と「目途」を調べてみた。すると、「目途」の読みは確かに「もくと」と書いてあり、他方「めど」の項目には「目途」の漢字表記はない。意味は同じようなものなのだが、何度調べ直しても「もくと」の読みしかない。目から鱗の大事件だ。

もう随分前から「“めど”は“目処”、或いは“目途”、どちらでも良い」、と思い込み続けていただけに、ビックリ仰天だ。広辞苑だけでは未だ信じられない私は、文化庁が編集した――言葉に関しては最も権威あると私が勝手に思っている――、「言葉に関する問答集 総集編」を頼ることにした。

流石、私一押しの本、ありました。しかも、そのものズバリのタイトルである。「第三 漢語、漢字の読み方」の章に、「目途」は「モクト」か「メド」か、の項目があるではないか。早速中身を読んでみた。文化庁が調べた統計データもあって、64種類の大小国語辞典を調べた結果が書かれている。

それを要約すれば、

 

@ 「もくと」の見出しに対しては、59種が「目途」としていて、残りは採録されていない。
A 「めど」に関しては、「目処」が50種と一番多く、両方併記の「目処、目途」が5種、「目途」だけも2種あり、2種は採録されていない。
B 同じく「めど」に関して、残りの5種の内、「目途」としているが“意味によっては「針孔」とも書く”としているのが3種、仮名書きが2種ある。

 

となる。数は少ないけれど、私が思い込んでいたように、「めど」の見出しに対して「目処、目途」の両方併記もあるではないか。ところが、「ウン、矢っ張りな!」と自信を深めて読み進んでいくと、思わぬ表現が目に飛び込んできた。次の文章だ。

『「目途」を「メド」と読む場合は、湯桶(ゆとう)読みとなり、これは(※「途」には)そのような読みくせが認められていない以上、不適当であろう』

と書かれているではないか。つまり、「目途」は「モクト」と読むべきで「メド」と読むのは適当でない、ということである。すると、悔しいかな、Bさんの意見が正しくてずっと信じて疑わなかった私の記憶が間違いだった、ということになる。ただ、そうは書かれていても、この文章を書きながら「めど」を変換すると「目処」も「目途」もでてくるのを見ると、釈然としないものも残る。

 

釈然としないものは、胸の奥にしまっておくとして、この先恥をかかなくて済むようになったのは有り難いことである。このように、ひょんなことから長い間信じていた知識の間違いに気付かされたが、誰が言ったか「一生勉強」の大切さを、改めて思い知らされた次第である。

 

※筆者加筆

【文責:知取気亭主人】



『言葉に関する問答集・総集編』

【編集】文化庁

【出版社】 国立印刷局
【発行年月日】平成7年3月31日
【ISBN-10】4171960452
【ISBN-13】978-4171960455
【ページ】 804p
【サイズ】 単行本(21.6x15.8x3cm)
【本体価格】 \3,885円 (税込)

 

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