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知取気亭主人の四方山話
 

『想定内? それとも想定外?』

 

2011年9月21日

3.11以来、地震や津波に関する新たな痕跡や史実が発見・発表され、これまで考えられていた規模を遥かに超える地震災害がグッと現実味を帯びるようになって来た。そして、紀伊半島を中心に甚大な災害を発生させた台風12号絡みの豪雨災害に見られるように、台風やゲリラ豪雨といった大雨による災害も、これまで経験したことが無いような激しいものが増えてきた。今回の12号台風では、「深層崩壊」や「土砂ダム」など、一般の人にとって聞き慣れない言葉も頻繁に登場している。原因は許容限界を超える激しい雨なのだが、「観測を始めて以来…」や「これまでの観測記録を大幅に塗り替え…」など、かつてない程の雨量だったことを表す言葉がテレビや新聞を賑わしている。

そんな言葉が使われるという事は、ある意味「想定外」を言い表しているのだが、本当に想定することは出来ないのだろうか。以前であれば、過去の災害事例の最大規模が「想定の枠」という事になるのだが、最新の雨量観測レーダであるXバンドMPレーダに代表されるように、これだけ観測技術が発達し、加えてコンピューター性能が格段に進歩した現代であれば、ある程度の計算予測は可能になってきているのではないか、と私は思っている。暫く前から、海水温の上昇により台風やハリケーンなどの大型化が危惧されていることを考えれば、地球シミュレーターなどのスーパーコンピューターを使い、今後どの程度の激しい豪雨がどの地域を襲う可能性があるのか、これまでにも増してきめ細かな地域毎の予測が必要だと思われる。そして、出された計算結果を想定値とすれば、「想定外の事だったので…」という最悪の事態は避けられるのではないだろうか。

 

最近、そんな思いを強くしていたところ、防災科学技術研究所と岐阜大学の研究チームが、東京湾や伊勢湾を最大級の台風が襲った場合、これまで観測された潮位を凌ぐ高潮に襲われる恐れがあることを、コンピューターシミュレーションで明らかにした、というニュースを知った。9月12日の防災科学技術研究所のプレス発表資料によれば、「現在の気候」と「地球温暖化を想定に入れた2099年9月時点の気候」の二つの条件下での最大級の予測を行ったという。

その結果、まず現在の気候下では、東京湾(場所は葛南)の高潮潮位偏差は3.3mとなり1917年に東京湾台風で観測された2.3mを、また伊勢湾(場所は名古屋港)では5.6mにもなり1959年の伊勢湾台風で記録した3.5mを大きく上回ることが分かった。一方、気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の温暖化シナリオA1B(http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/GWP/index.html、2099年の世界平均気温が約2.8℃上昇するシナリオ)による2099年9月時点の気候を条件とすると、東京湾の葛南で4.1m、伊勢湾最奥部の名古屋港では6.9mにもなるという。

 

高潮は、@気圧が下がることによって吸い上げられて海面が上がる「吸い上げ」、A強い風によって作られた高い波が砕け散って起こる平均水面の上昇、B海水が強い風によって海岸に吹き寄せられ海面が高くなる「吹き寄せ」の三つが相互作用して起こるとされている。このうち、@はどこでも同じ「1ヘクトパスカルの低下で約1pの海面上昇」になるのだが、AやBは風の強さや地形、さらには水深が深く関与していて、同じ東京湾、或いは伊勢湾といっても、場所によって潮位は大きく異なる。例えば東京湾の場合、最大潮位偏差が予測されるのは葛南であるが、同じ東京湾でも横浜新港ではグンと低くなり2mを切る偏差になっている。それは、伊勢湾でも同じである。

そのことを念頭に置き、日経BP社が公開している「日本列島沈没地図」を見ると、予想される高潮が東京湾、伊勢湾を襲った場合のショッキングな姿が、おぼろげながら垣間見える(http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/267_data/index.html)。「日本列島沈没地図」では、予想された最大の潮位偏差に「海進(海面の上昇)」を合わせる事は出来ないが、例えば、東京湾であれば「海進3m」に、伊勢湾であれば「海進5m」にすることで大凡の被害は推定でき、それを見ると「如何に危険と隣り合わせで生活しているか」が良く分かる。

東京湾では3mの潮位上昇で荒川筋を中心に埼玉県の南部地域まで海進し、伊勢湾では5mの上昇で何と大垣市付近まで水没することになる。現在整備されている防潮堤は、予測されている3.3mや5.6mを超える高潮を防ぐことが出来るのだろうか。心配である。

くだんのプレス発表資料によれば、さらに潮位が高くなる2099年9月の将来予測では、中部国際空港が壊滅的状況に陥ることも懸念している。

 

東京湾や伊勢湾に限らず、海岸沿いの平地には海抜ゼロメートル地帯と呼ばれる低地が多く、防潮堤で辛うじて海水の侵入を防いでいるのが現状である。仮に、この防潮堤を超えるような高潮が襲ってきた場合には、そのような低地はいとも簡単に水没してしまう。そうならない為には対策が必要なのだが、その対策の根拠となる“襲いくる脅威”の規模予測が、被害規模を大きく左右することになる。言い換えれば、「想定外」ではなく「想定内」に収める事が重要となるのである。

そのための想定にはあらゆるものを駆使する必要があり、コンピューターシミュレーションも極めて大きな武器となる。そして、計算させるだけではなく、その結果を防災に役立てることがシミュレーションの重要な役目といえる。そのためのスーパーコンピューター開発であれば、厳しい国家財政の中でも、国民は納得する筈である。  

【文責:知取気亭主人】
  


想定外の根の鮮やかさ(青年の木)                                            
 

 

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