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知取気亭主人の四方山話
 

『増刷出来』

 

2011年12月7日

数年前から、テレビでクイズ番組が花盛りだ。趣向を凝らした番組作りで何とか視聴率を上げよう、と躍起になっているのがよく分かる。視聴者に楽しんで貰うためにも正解率を或る程度のところで抑えておきたいのか、平易な問題ばかりでなく、難問・珍問の類も結構多い。また、くだらない番組も少なくはないが、中には、「頭の体操代わりに」と気楽に見ていると、ついつい引き込まれて真剣になってしまい、興奮するわ、自信は無くすわ、結局頭に力が入って疲労回復どころではない番組もある。しかし、総じて、知識の無さと記憶力のひどさを再確認させられる番組でもある。

そんな中で、結構気に入っている番組がある。2チームに分かれ、ハワイ行きを掛けて争うクイズ番組「Qさま」だ。その番組の中でも、漢字に関する問題が気に入っていて、それこそ、「頭の体操に」と見ることが多い。何故気に入っているかと言えば、問題の半分程度は理解できて古い記憶を呼び戻す訓練になることと、漢字検定の高位合格者でも解けない様な超難解な問題が有って、新しい記憶の引き出しを使う訓練になるからだ。尤も、気持ちの上では“機能回復訓練”のつもりで見ているのだが、実際機能が回復しているかどうかは、大いに怪しいところではある。今知った筈の解答は次の問題を出された途端に片っ端から忘れるし、何時訓練したかも殆ど覚えていないのだから……。

 

しかし、番組を見ていると、60余年を日本人として生きていながら如何に語彙が乏しく漢字を知らないか、思い知らされることが多い。勿論、以前は読めたり書けたりしたのに、歳と共に増える雑多な情報に埋没してしまい、記憶の引き出しから引き出せなくなったものもあるが、そのクイズ番組で初めて知った漢字表記が結構多いのだ。そんな“あれやこれや”も含め、番組で正解率がグンと落ちる問題は、殆どが「へぇー」と感心するものだ。

その一方で、「今時そんな漢字は使わないだろう」と違和感を持つものも少なくない。外国の国や都市の漢字表記等はその部類に入る。その手の表記は、夏目漱石や森鴎外等、明治・大正の文豪の小説でお目に掛かった記憶はあるが、今時の文章には殆ど登場しない。クイズだから別に構わないのだが、分かっているのに思い出せない悔しさもあり、「今の時代に使わないような問題を出してどうするのだ!」、と腹立ち紛れに「違和感」などと書いている。しかし、正直言えば、そんな自分も情けない!

 

それはさて置き、事かように、長いこと漢字文化の元で生活してきたアラ還世代の我々でも戸惑うように、日本語の表現には、以前は日常的に使われていたのに今は殆ど使われなくなった漢字表記が結構多い。先ほどの国名や都市の名前を始め、無理やり漢字表記にしていた外来語は、殆どカタカナで表記されるようになったし、どうかすると、万葉の昔から愛でていた草花の名前も漢字を避け、カタカナで済ましている出版物も増えてきた。

また、折角あった日本語が、西洋化の流れで横文字になってしまったものもある。私が以前から「無くなってほしくないな」と思っている、「お誂え」という言葉だが、今では、和服を扱う店以外では殆ど目にしなくなり、それこそ横文字の「オーダーメイド」が一般的になってしまっている。「お誂え」は、最早、仕立屋さんの専門用語になってしまっているのかもしれない。そういう意味では、タイトルの「増刷出来」に使った「出来」も、専門用語化している言葉の一つだと思われる。

 

仲間のI氏から、「増刷出来」と書かれた紙を見せられて、「これをどう読むか」と質問された。「ぞうさつでき?」と首を捻りながら答えると、違うと言う。これは「ぞうさつしゅったい」と読むのだ、と教えてくれた。増刷が出来上がった、という意味だという。漢和辞典を調べてみると、確かに、「出来(しゅったい)」は「できあがること」という意味だと書かれている。「“しゅつらい”から転じて“しゅったい”になった」ともあるが、少なくとも今まで、「ほうこくしょしゅったい(報告書出来)」などと、言ったことも聞いたことも無い。したがって、一般的な言葉でない事は確かだ。「お誂え」と同じように、昔は一般的に使われていたのだが、徐々に使われなくなってしまい、辛うじて印刷業界に生き残り、専門用語化した可能性が高い。我々、建設業界で言えば、法面の小段などを表す「犬走り」の類だ。犬が走っているわけではないので、多分一般の人には何の事だか分からないだろうが、建設業界では今でも立派に通用している。と、信じているのだが……。

 

ところが、そういった専門用語化した言葉の中に、日本の伝統文化が受け継がれている場合が多い。そんな言葉には、成り立ちや発想の原点が色濃く残っているからなのかも知れない。そういう意味からすると、孫が最近になって発するようになった意味不明の言葉は、成り立ちや発想の原点のそのまた原点である可能性が高い。新聞の折り込みチラシに載っていた犬や猫のペットの写真を見て、15分近くも延々としゃべり続けていた言葉は、ひょっとして、乳児同士だと会話が成り立つ乳児専門用語だったりして……。                      

【文責:知取気亭主人】

 


日本は良いなぁ!
 


  
 

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