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知取気亭主人の四方山話
 

『蝶が消える日』

 

2012年1月18日

佐渡トキ保護センターで飼育・放鳥されているトキに、災難が続いている。以前にも、ケージに入れられていたトキがテンらしき野生動物に襲われて死んだ、という悲しいニュースがあった。また、ドジョウの食べ過ぎによって異常をきたした身につまされる話題も、昨年暮れに四方山話で取り上げた。これらは何れも保護センターで飼育されていた時に起こった災難だが、今度は、放鳥されたトキが外敵に襲われ怪我をした、という驚きのニュースだ。どうやら猛禽類に襲われたらしい。ヒトの手で保護されてきた鳥にとって、自然界の掟である弱肉強食は、生まれて初めて味わう恐怖に違いない。放鳥されたトキは、初めて一人でお使いに行く子供と同じように、我々からは想像もつかない緊張感を持って、必死に生活していたことだろう。ただ、襲われるとは思ってもみなかったのではなかろうか。なぜって、そんな経験は無いのだから……。

トキについては、「カラスに苛められている」との報道も以前にあったと記憶しているが、今回襲ったのは猛禽類で、その有力な犯鳥のひとつとみられているハヤブサは、カラスさえも捕食するというのだから、ユッタリとした動きのトキにとってはたまったものではない。しかも、本能で外敵がいることを何となく感じていたとしても、育った飼育ケージの中では外敵がいる筈もなく、襲われる心配は一切ない。したがって、危機センサーの感度が鈍っていたとしても不思議はない。

しかし、幾らカラスより大きくて目立つとはいえ、カラスやカモに比べて極めて数が少ないトキがなぜ襲われるのだろう。ウェブニュースには、佐渡に飛来する渡り鳥が少ないのが原因ではないか、と書かれていたが、そんなに少ないのだろうか。そう言われて、一昨日(1月16日)の夕方、高速道路を走行しながら探してみた。ところが、福井と金沢間約70キロも走ったのに、カラス並みの大きさの鳥が目に入らなかったのには驚いた。たまたまかもしれないのだが、田畑や里山も多く、ましてや海岸近くやカモが飛来するとして知られている湖の近くを走るのだから、一羽や二羽見ても良いのに、である。

そんな景色を見ながら、10年ほど前に中国で見た、鳥が飛んでいない殺伐とした郊外の道を思い出した。あの時も、景色の中に動く動物がいなくて時間が止まっているように思えたのだが、今回も、北陸特有の鉛色の空もあって、車で走っているのにまるで時間が止まっているように思えたのは、実に不思議な感覚だった。やはり、人間以外の動物が共存している景色に囲まれていて初めて、我々人間は安心感を覚えるのだろう。

ところで、実際野鳥は減っているのだろうか。詳しいことは日本野鳥の会など専門家にお任せするとして、感覚的には、人間を然程怖がらないハトとカラスに限っては、子供の頃に比べるとかえって増えたのではないかと思っている。特にカラスは、迷惑なほど増えている。その一方で、サギやカモなど子供の頃よく見た野鳥は、確かに減った様に思う。特に、小川や田んぼでよく見たサギは、めっきり少なくなったと感じている。多分、餌も減ったからなのだろう。一時騒がれた環境ホルモンの影響や、開発による採餌場や営巣地の減少と環境悪化、そしてそれらが結果的に、餌の小動物減少へと連鎖的に繋がっていく。そう考えると、小動物などを餌とし、猛禽類が餌とする小型動物が、減ってきたとしても何ら不思議はない。勿論、連鎖の先にいる猛禽類も減っているのだが……。

野生生物減少の原因は、何も農薬の使用や森林などの乱開発ばかりではない。我々の日々の生活も、意図はしていないのに、大きく関与している。1月14日のYOMIURI ONLINEに、「高速道路の長いトンネル内では、二酸化窒素の濃度が環境基準の50倍を超えることがある」とのニュースが載った
(http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20120114-OYT1T00389.htm)。窓を開けたままトンネル内を走った時のあのイヤな臭いと息苦しさからすれば、50倍かどうかは別にして、容易に想像がつく結果である。私は、一般道路を走っている時でさえ、前の車の排気ガスが臭くて、外気を入れない様にしている。そんなガスが撒き散らされているのである。

大きな人間でさえ嫌がるのだから、野生生物にとったら排気ガスで汚れた空気が美味しい筈がないし、これだけたくさんの車が走っている日本の空気が鳥達にとって良い筈もない。車の排気ガスばかりではないが、私達も知らず知らずのうちに、環境悪化に荷担しているのである。

随分前になるが、「昆虫の研究 チョウが消えた!?」(原聖樹/青山潤三・著、あかね書房)という本を読んだことがある。小学生向けに書かれていて、蝶がなぜ少なくなったかを分かり易く教えてくれる本だ。その本に書かれているように、蝶の様に小さな生物は環境変化の影響を受けやすい。ドジョウなどの小動物も同じだ。そういった小さな生物の減少は、それらを餌とする動物を窮地に追い込むことになり、更に進むと、やがて食物連鎖の頂点動物へと進行していく。既に、猛禽類にも影響が及び始めている。必然的に、猛禽類のハヤブサがトキを襲うのも頷けるというものだ。そして、猛禽類も消えると、我々人間に取って代わる生物が地球生活を謳歌する日が、やがてやって来る。それが自然の摂理だ。

まだ、この日本でも蝶が舞っているのを見ることが出来る。しかし、やがて訪れる可能性のある日、蝶が消える日、それが、我々(ホモサピエンス)の消える日なのかもしれない。

【文責:知取気亭主人】



昆虫の研究  チョウが消えた!?』

【著者】原 聖樹/青山 潤三・著


【出版社】 あかね書房
【ISBN】 9784251064035
【ページ】 62p
【サイズ】 25 x 19 cm
【本体価格】 \1,890(税込)
 

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