2012年2月22日
私には、死ぬまでにどうしても行ってみたい国がある。元々旅行が好きな上に、まだ見ぬ景色や異文化への憧れも強く、訪れてみたい国は世界中に広がっている。歴史あるヨーロッパの史跡巡りも魅力だし、アフリカやアマゾンの大自然にも触れてみたい。中国の世界遺産巡りやシルクロードを旅して、往時を偲ぶ体験もぜひしてみたい。或いは、海に囲まれたパラオ辺りで、のんびりとリゾート気分を味わうのも悪くない。地球の鼓動を感じることが出来るであろうアフリカ大地溝帯を旅するのも魅力だ。挙げればキリがないくらい行ってみたい所は沢山ある。でも、「一か所だけに限って」と言われれば、迷わずこの国を挙げたい。それは、「私の聖地」と言ってはばからないマダガスカル共和国である。マダガスカル島と言えば通りが良いだろう。
首都のアンタナナリボがあるマダガスカル島は、アフリカ大陸の東側、インド洋に浮かぶ大きな島である。面積は約59万平方キロメートルで、日本の総面積の凡そ1.6倍もある、世界で4番目に大きな島である。ものの本によれば、6,500万年程前にアフリカ大陸から離れた島で、独自の進化を遂げた動植物の宝庫と知られ、ナチュラリストにとって垂涎の地になっているとも聞く。また、マダガスカル島の北側には、生きた化石と言われるシーラカンスが生息しているコモロ諸島があり、益々ロマンを駆り立てられる。
マダガスカルは独自の進化を遂げた動植物の宝庫だと書いたが、マダガスカル島を知らなくても、天空に向かって根を張っているようなバオバブの木や、日本の歌にも登場する原猿のアイアイ、或いは二本足で立ちながら横跳び移動する猿ベローシフォカ、そしてカメレオンなどの映像を、一度は見た事があるだろう。また、尾が白黒の縞模様のワオキツネザルに代表されるキツネザルは、その大半がマダガスカルに生息しているという。それ程、珍しい動植物の一大宝庫なのだ。中でもカメレオンは、世界最小のものから最大の種類まで、そして驚くなかれ寿命わずか数カ月のものもいるらしく、数多くの種類がマダガスカル島に生息している。アフリカやアマゾンの動植物に比べて映像になることが圧倒的に少ないこともあり、それらの珍しい動植物に会いたくて、マダガスカルに憧れているのだ。そんな憧れのマダガスカルが、嬉しい事に、主のカメレオンと共にニュースになった。
マダガスカル島の北部に位置する小島で、極めて小さな新種のカメレオンが見つかった、というニュースだ。世界最小級の爬虫類だという。マッチ棒の先っぽに乗せられたり、ヒトの手の指先に乗せられたりしている、小さなカメレオンの映像を見た人も多いだろう。その可愛らしいフィギアの様なカメレオンは、成長しても体長15o、全長でも30o程しかないという。写真やテレビに登場する一般的な大きさの種類に比べると、その違いは一目瞭然だ。映像で紹介されたこのカメレオン以外にも、新たに3種類が発見されたというが、いずれも31〜45oと小さいらしい。
「どうしてそれ程小さいか」というと、食糧事情が大きく拘わっているらしい。食べ物が限られた島に住むと大陸にいる近種に比べて体が小さくなる、「島嶼矮化(とうしょうわいか)」と呼ばれる現象が起こることが知られていて、今回発見されたカメレオンは、その現象の顕著な例とみられている。その小ささは、近くのマダガスカル島には体長70pにもなる世界最大のカメレオンがいるのに、えらい違いだ。尤も、そのマダガスカル島にも小さなカメレオンがいる事は知られているが、ここまで小さな種類は発見されていない。今回発見された島には余程食べ物が少なかったに違いない。
しかし、どんな餌を食べているのだろうか。他のカメレオンと同じように、矢張り生きた動物を餌としているのだろうか。例えば、ハエとかバッタなどである。しかし、体長が15oしかないとすると、口の大きさも自ら限度があろうというものだ。そんな小さな口が食するのに、バッタは端から無理だとして、ハエさえも大きすぎるような気がする。考えられるのは、ダニの様な小さな動物だ。仮に、その想像が違っていたにしても、世界最小級の爬虫類の食事風景には興味をそそられる。カメレオンの食事風景としてよく知られているように、長い舌が飛び出るのだろうか。眼も左右別々に動くのだろうか。何れにしても、実物を見てみたいものである。
ミニカメレオンとほぼ時を同じくして、「絶滅」とされた海鳥(ミズナギドリ類)が約20年ぶりに小笠原諸島で発見された、というニュースも流れて来た。毎年地球上から多くの種が絶滅していると言われている中で、まだ新たな生物が発見されたりするとは、以外や以外、地球の豊かさもまだ捨てたもんでもなさそうだ。地球環境の悪化が叫ばれて久しいが、環境悪化の影響が及びにくい孤島には逞しく生き延びている生物がまだいることを知っただけでも、何となく嬉しくなる。そして、益々マダガスカルに行きたくなってきた。待っててくれよ、マダガスカル!
なお、マダガスカルに興味を持たれた方は、山岸哲著「マダガスカル自然紀行
進化の実験室」(中公新書)の一読をお薦めする。本の中ではあるが、是非私と一緒にマダガスカルを旅しましょう!
【文責:知取気亭主人】
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