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知取気亭主人の四方山話
 

『責任は誰にある?』

 

2012年2月29日

長引く不況の中でも「老後の為に」とせっせと蓄えてきた企業年金資産が消えた、と耳を疑うような報道が世間を騒がしている。主に中小企業が加盟している年金基金や一部の企業年金などから運用を任されていた、ある投資顧問会社の運用形跡が確認できないらしい。証券等監視委員会の検査で発覚した、と報じられている。今朝(2月29日)の朝日新聞朝刊によれば、委託していたのは確定型企業年金と厚生年金基金合わせて84団体に上り、現役の加入者数は約54万人、その金額は約1,850億円もの大金になるという。その渦中の投資顧問会社の名前を、AIJ投資顧問株式会社という。ホームページによれば、それなりの規模の会社で、資本金は2億3千万円である。しかも、高利回りで人気があったという。

ニュースでも報じられているが、AIJに運用を任せた顧客の多くは建設業者や電気工事業者、運送業者ら地域の中小企業や業界団体でつくる厚生年金基金で、確定型企業年金では大手企業の名前も出て来る。この先どういう展開になるのか良く分からないが、予定されていた年金が減額される可能性も出てきた。年金を頼りにしている老後の生活設計を狂わせてしまう可能性のある、預託企業の職員にとってはとんでもない事件なのだ。

新聞やインターネットの配信ニュースによれば、少なくとも近年は株式などでの運用実績が確認できないらしく、不正がハッキリすれば、資産運用会社としての登録を取り消す方針だという。しかし、不正を働いた方の当事者はどう罰せられても仕方ないとしても、預けた方はたまったものではない。例えこの先AIJの経営陣が逮捕されたとしても、預けた資金が戻ってくる保証は何もないし、その可能性はいたって低い。そうなると、支給額の減額や掛け金のアップなどもあり得るわけで、老後の生活を年金頼りにしているごく普通の市井の人達にとっては、重大事件なのだ。基金の運営そのものにも多大な影響を及ぼすことになるだろう。年金資金に穴を空けるという事は、そういう事なのだ 。

ただ、責任の所在はハッキリしていて、刑事責任が明確になれば、――どういう形で取らせられるか、また預託者が納得できるかどうかは別として――責任は取ってもらう事になる訳で、AIJ以上の損失を発生させても誰も責任を取らなかった公的年金流用問題に比べれば、まだマシなのかもしれない。

 

近年の政治の不作為にあきれ返り、あの無責任ぶりをもう忘れてしてしまった人もいるかも知れないが、今から8年前の2004年(平成16年)、グリーンピアで名を馳せた年金福祉還元事業の損失が大問題になった。主役は、当時の社会保険庁だが、何をトチ狂ったのか、多くの国民から預かった年金資金を「自分達で自由になる金だ」と勝手に歪曲をして、厚生年金会館(ウェルシティー)や老人ホーム、厚生年金病院、スポーツセンターなど、表向きは福利厚生施設、実際は仲間の天下り先確保と私は見ている施設を次々と造り、巨額の損失を発生させたのだ。これら官営の施設は、民業圧迫との批判も強く、施設運営により多額の赤字も出していたことも明らかとなり、非難の嵐に晒された。ところが、驚くなかれ、誰も責任を取らなかったのだ。

ネットでの情報収集によれば、1兆円以上もの巨費を投じて建設されたこれらの施設を売却したところ、回収できたのは2割程度留まり、9000億円以上の損失を出したとされる。今回の1850億円が霞んでしまう程の、天文学的巨額損失だ。ところが、この問題がテレビや新聞を賑わした当時、これらの損失の責任を取って「誰それが辞任した」だとか、「ボーナスや退職金を返上した」などの話を聞いたことが無い。当時、事業の損失や失敗の責任が問われ、責任の所在を明らかにすべきだと批判されたが、結局ウヤムヤにされてしまった。そんな報道を聞くにつけ、他人の金を勝手に使い込んだ上に損失を出して責任を取らないとは何事か、と地団太踏んだ方も沢山いただろう。

更に驚かされるのは、――ウィキペディア(http:// ja.wikipedia.org/wiki/公的年金流用問題)の情報が正しいとすれば――集められた保険料が年金給付以外の用途に使われた額が、56年間の累計で驚くなかれ6兆7000億円余に上るらしいのだ。多分、今から20年ほど前までは、ずっと右肩上がりの経済状態が続いていて、厚生年金保険料は溜まる一方だった筈だ。年々潤沢になっていく保険料を目の前にして、「これを放って置く手は無いな」と思ったのだろう。「自分の金でもないし……」とも考えたのだろう。

ある目的のために集められた資金が本来の目的と違う使い方をされ、しかも金を出した当人達の全くあずかり知らぬところで使途も金額も勝手に決められ、その結果が、「5兆6千億円も使っちゃって、御免、もう戻って来ません!」では済まされないだろう。その上、「責任も取れません」がまかり通ってしまうとは、恐るべし“霞ヶ関伏魔殿”である。

 

AIJの経営者は、間違いなく法的責任を追及されることになるだろう。虚偽の報告は犯罪だから、それは仕方ない事だ。しかし、それはそれとして、随分と時間が経ってしまっているが、公的年金流用問題に関わった連中に責任を取らせる方法はないものだろうか。ところが、自分たちが加入している公務員の共済年金については、「グリーンピアなど、そんな危なっかしい事業に大切なカネを注ぎ込める筈がない」と言ったとか、言わなかったとか、そんな話がまことしやかに聞こえてくる。火の無いところに煙は立たないと言うが、幾ら何でもそこまで酷くはないだろう、と思っているのだが……。  

 

【文責:知取気亭主人】  

 

 


 窓ガラスに残る、痛々しいハト(?)の衝突跡

  

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