2012年3月28日
もう直ぐ入学式のシーズンだ。日本の各地で、子供たちの希望に満ちた新生活が始まる。幼稚園から大学、或いは専門学校まで、新入生にとっては、誰も彼もチョッピリ不安を抱えてのスタートだ。特に幼稚園児や小学生になる子供たちは、親子共々、真新しい制服姿に胸をときめかしているに違いない。そんな眩しい新入生がいる一方で、還暦を過ぎて、第二の人生として再び学生生活を送る人もいる。その前向きな行動には頭が下がる。しかし、「幾つになっても学ぶことが出来る」という事は良いものだ。
ところが、その学生生活、どんなに小さな子供でも、どんなに人生経験が豊富な大人でも、今の日本の制度では、大なり小なり金が掛かるようになっている。制服や教材であったり、給食や食費であったりするのだが、私立になると高額な授業料を徴収される場合もある。特に、大学や専門学校は、結構な費用が必要だ。そういった費用を全て家族や本人が捻出できればいいのだが、そんなに余裕のある家庭ばかりはない。そうなると、親の脛を思い切りかじったり、不足分を捻出しようとアルバイトをしたり、計画性のある人は資金を貯めてから入学したりするのだが、それでも足りない時には、多くの人が奨学金にお世話になることになる。尤も、最初に奨学金を検討する家庭が順当なのかもしれないのだが……。
その奨学金が今ピンチだという。奨学金と言えば、私が貰っていたように企業が出してくれるものもあるが、我々の世代ならば日本育英会、今ならば日本学生支援機構と名を変えた奨学金制度がよく知られている。ところが、その機構から借りた金を返済しない、そう返還滞納者が増えているらしいのだ。3月17日の朝日新聞朝刊によれば、機構が貸し出している奨学金の返還滞納が1万件を超え、3ヶ月以上の滞納額は何と約2660億円に上るという。もの凄い額だ。2010年度末時点での総貸出額が1兆118億円だというから、3ヶ月以上の滞納額は、実にその4分の1にもなる。滞納者がいることは私の学生時代から知られていたが、これほど酷いとは知らなかった。これだけ滞納者が多いと、我が家の子供たちもお世話になっていたこともあり、そのありがたい制度が破たんするのではないか、と心配になってしまう。
今、何らかの奨学金を受給する昼間の学部生が、日本学生支援機構の2010年度の調査で、50%を超えているのだという。要するに、それだけ家計が厳しくなってきている、ということなのだろう。私がお世話になっていた45年ほど前は、どうだったのだろうか。時代的にもそうだったが、貧乏学生が多い寮生活だったこともあり、寮仲間の多くは奨学金受給者だったと記憶してはいるが……。
当時は、ひと月千円の学費に対して、何と8倍、月8千円もの奨学金を貰っていた。アルバイト代とも比較してみよう。金沢という地方都市での話だが、バスの市内運賃が20円だった時代、私が稼いだ最初のアルバイト代は、1日8時間働いて800円だった。つまり、10日分の奨学金を貰っていたことになる。因みに、当時の学食での
“カレーライス”が50円だったから、1日のバイト代は凡そカレーライス16杯分に当たっていたことになる。では、45年後の現代はどうだろうか。
機構のホームページによれば、自宅外から通う国公立の学生に対する無利息の奨学金(第1種)は、現在月額5万1千円である。一方国公立大学の学費は、年額53万円、月に直すと約4万4千円になり、ナント45年前の44倍にもなっている。ところが奨学金の方は、8千円から5万1千円と、約6.4倍にしかなっていない。必然的に、月の学費に対する奨学金の比率は、1.2倍にも満たない事になる。45年前の8倍に比べると、雲泥の差だ。
では、アルバイト代とはどうだろうか。当時と同じ土木関連のアルバイト代は、時間給千円前後だろう。区切りよく千円だとすると、1日8千円になる。45年前の10倍だ。現在のバスの市内基本運賃も200円と、45年前の丁度10倍となっているから、想定したバイト代の相場も、「当たらずも遠からず」と言えるだろう。また、今の学食でカレーライスが幾らしているのか定かでないが、恐らく5百円前後だろう。仮定ばかりで申し訳ないが、アルバイト代とカレーライスの値段との関係も、今も昔も然程変わらないと思われる。だとすると、諸物価とアルバイト代の関係は45年前も今も然程変わらないのに、奨学金に対するアルバイト代の比率は、45年前の10倍から約6.4倍までに下がっていることになる。
以上をまとめると、こういう事だ。つまり、45年前に比べると、奨学金は生活費の上昇に追いつけず目減りしているのに、学費は逆に追い越してしまう程割高になってしまった、という事である。これでは、今時の学生さんが苦しいのも頷ける。しかも、昔に比べれば、携帯電話だのパソコンやインターネットなど、昔は無かった電子機器に掛ける月々の費用もバカにならない。今ではどれも必需品になっていて、「持たない」という選択肢は難しく、しかも若者にとってはかなり優先度が高いようにも見える。ただ、仕送りも無く、奨学金とアルバイト代だけで学生生活を送った私からすると、もう少し我慢したら良いのに、と思ってしまうのだが……。
しかもまずいことに、今の世の中を見ていると、学生生活を終え就職してからも、“我慢する”という選択肢がないように思えてしまう。奨学金の返済より欲求を満たすことが優先されていなければ良いのだが……。
【文責:知取気亭主人】
こんなイタズラで憂さを晴らすのも悪くない?
|