2012年5月2日
先月の10日、今年の本屋大賞が発表された。全国の書店員が大賞に選んだのは、直木賞作家三浦しおん氏の小説「船を編む」である。私にとっては初めて聞く題名なのだが、女性ファッション誌に連載されていた小説で、「辞書づくり」という珍しいテーマを描いていることもあって、掲載当時から話題を呼んでいたらしい。勿論、私はまだ読んだことは無い。ただ、辞書の編纂に携わる人々を扱う、という私にとっては未知の分野の小説だけに、是非読んでみたいと思っている。
しかし、小説家というのは、実に発想が豊かなものである。凡人には思いもつかないものまで小説にしてしまう。流石である。そんな著者にあやかろうという大胆な発想で、今回の四方山話は、辞書作りにチャレンジしてみた。「辞書を作る」などと大上段に構えてはいるが、そこは所詮素人、過度の期待は平にご容赦願いたい。しかも扱っている内容は極めて個人的な内容であるから、子供の日、或いはゴールデンウィークの“暇つぶし”として読んでいただければ幸いである。
「幼児語辞書」などと大仰なタイトルを付けたが、要は、“孫言葉の一覧表”みたいなもの、と思ってもらえば良い。孫は先月で1歳7ヶ月になったばかりなのだが、最近になり言葉の数が急に増えてきた。しかも、僅かではあるが、幼児語を卒業しそうな発音もできるようになって来た。今のところ家族全員が孫言葉に癒されているのだが、このままでいくと、そう遠くないうちに“癒しの幼児語”からあっさりと卒業しかねない勢いだ。周りの大人をこれほどまでに癒してくれるこの幼児語を何とか残したい、と思っていたところに、本屋大賞の「船を編む」を知った。そして、無謀にも、三浦しおん氏の向こうを張ってしまった訳である。
さて、「一般的な日本語表現」と孫が喋る「幼児語」を左右に並べ、比較できるようにしたものを以下に示すが、恥ずかしながら、これをもって「癒しの 幼児語辞書」としたい。はなはだ語彙が少ないのだが、周囲の大人が理解でき、思い起こせる言葉が少なくて、こうなってしまった。しかし、幼児語を文字に表わすことがこんなに難しいとは、思いもよらなかった。どう表現しても、幼児語が持つ独特のイントネーションや発音は言うに及ばず、最も伝えたいその場の愛らしい雰囲気が、どうしても伝えられないのだ。編集に参加した家族全員がもどかしさを覚えたのは、言うまでもない。しかし、それは文字の限界、能力の限界、ということで諦めた。ただ、なるべく正確に伝えたいという思いから、普通ではありえない表記にチャレンジしてみた。したがって、「こんな表記有り得ない!」と思わずに、想像を働かせ、可愛らしい姿を思い浮かべて頂ければ大半の目的は達した、というものである
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それでは、拙い辞書を篤とご覧あれ。
一般的な日本語表現 幼児語(孫に限定)
「○○して!」とお願いする時 カチテ
探し物を見つけた時の「あった!」 アッタァタァ
動物の「あひる」 カッカ(始め)→ ガァガァ(最近)
「あやちゃんもやりたい!」 アァチャンモ
「要らない」とか「いやだ」 ノンノン
どこかにぶつけて「痛いよ!」 イテェオ
料理の時付ける「エプロン」 エプーン
バナナを食べて「美味しい!」 オイチィ
寝てないで「起きて!」 オチテ
料理に出て来る「お魚」 オカナ
お椅子に「お座り」 オッタリ
テーブルから物が「落ちちゃった」 オツィチャッタ
幼児なのに大好きな「お茶」 オチャチャ
転びそうになって「オットット!」 オットット
大好きな「お風呂」 チャプチャプ
「おめでとう」 オメトゥ
梅雨の頃に大合唱の「蛙」 クァクァ(始め)→ カイル(最近)
誰かを迎えて「お帰り!」 カイリ
長女に向かって「カヨちゃん」 カォタン
次女に向かって「クミちゃん」 クータン
大好きな「かぼちゃ」 カボ
みんな一斉に「乾杯!」 パイ(始め)→ カンペィ(最近)
お花が「綺麗!」 キエイ
「熊さん」のぬいぐるみ クータン
「靴」を履いて大好きな散歩 クチュ
自分で穿きたがる「靴下」 クチタ
「ご馳走様でした」 ゴチタ(始め)→ ゴチタッタ(最近)
指をさして「これ」 コウェ
箸よりも「スプーン」 プーン(始め)→ チュプン(最近)
スカートよりも「ズボン」 ヴォン(始め)→ ヂュボン(最近)
痛くないもん「大丈夫!」 タイチョウプ
それ「頂戴!」 カチテ(「○○して」と同じ)
砺波の「チューリップ」 チューイップ
明かりが「点いた」 シィタ
風邪予防に「手洗い」 アワワ
お先に「どうぞ」 ドゥジョ
大好きな「バナナ」 バナァ
「パン」も大好き パンパン
服の「ボタン」 ヴォタァン
如何だろう。以上、孫が喋る言葉を書き並べただけのものだが、今でしか聞けない貴重な言い表し方だ。後数カ月もすれば、もっと語彙も増え、大人と変わらぬ発音も少しずつできる様になってくる。そうなると、大人にとっての癒し言葉も残すところ後僅か、という事になる。そんな貴重な癒し言葉を記録に留めておきたくて、拙文に登場させてみたのだが、この他にも、寝かしつけるときに家内が何時も歌って聞かせる子守唄の、「♪ネンネンヨ おころりヨ アヤちゃんは良い子だ ねん寝しな♪」を最近では自ら歌うようになって、周囲を驚かしている。しかし、私の聞き取り能力不足から、残念ながら今回は文字に表わすことを諦めた。覚えたての言葉は、総じて理解不能なことが多い。ただ、それがほんの暫く経つと、周りが理解できる癒し言葉に成長していくのだ。そして、タップリと周りを癒してくれる魔法の言葉となっていく。
幼児が身近におられる方は、一所懸命に喋っている、今の言葉を書き留めておくことをお勧めする。特に我が子の場合は、是非に、と強くお勧めしたい。きっと家族の宝になる筈である。
【文責:知取気亭主人】
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