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知取気亭主人の四方山話
 

『閉所恐怖症への誘い水』

 

2012年5月9日

私は、高い所がやや苦手である。ただ苦手なくせに、子供のころから、――豚と違って――おだてられなくても木登りするのが結構好きであった。ところが、好きにも限度というものがあって、大体10mを超える辺りから、“敢えて”のチャレンジはしたくない面も持っている。所謂“高所恐怖症”というやつだ。ただ、「怖いもの見たさ」の思いも強く、ドキドキしながら、日本一高い人道吊り橋(大分県にある「九重“夢”大吊橋」)を渡ったこともある。でもやはり、どちらかと言えば、高い所は苦手である。

他方、高所恐怖症ではないが、私の知り合いに閉所恐怖症の人がいる。エレベーターなどの狭い閉鎖空間にいるのが苦痛だという。私は然程苦にならないからその圧迫感や恐怖感は実感できないが、その苦痛は相当なものらしい。私はというと、これまでに小さなトンネルの中に長時間入っていたこともあるので、閉所恐怖症とは無縁だとずっと思ってきた。ところが、つい先日、ある出来事を体験して、閉所恐怖症になる切っ掛けが意外なところに潜んでいることに気づかされ、愕然としてしまった。とあるところに、閉じ込められそうになってしまったのだ。その場所とは、我が家のトイレである。確かに、狭い空間ではある。その狭いトイレに、あろう事か、長時間軟禁されてしまったのだ。別に、噂の「花子さん」が居た訳ではない。ただ、一瞬、“ウン”に見放されそうになってしまったのだ。

 

4月の、とある日曜日。便意を催して、二階のトイレに駆け込んだ。気持ちよく出すものを出し、「さあ出よう」としたその瞬間、冷水を掛けられたようなアクシデントが私を襲ってきた。トイレにまつわる失敗談で良くある、「カミ」に見放された話ではない。さりとて、私の軽はずみな行動が原因の失敗談でもない。また、家族の悪ふざけでもない。ただ、ある出来事によって、トイレから出られなくなってしまったのだ。原因は、「過ぎたるは及ばざるが如し」の状態に陥ってしまった事だ。

 

最近のトイレはウォシュレットが主流で、我が家のトイレもご多分に漏れず、である。そしてこのウォシュレット、使い慣れて来ると、最後の締めとして使わないと何となく後味が悪い。勿論、私も毎回使っている。そのウォシュレットから「シューッ」と出て汚れを洗い流してくれるあの水が、あろう事か、時に恐ろしい凶器に変わることがある。

使いたい時に、使いたい量だけ、気持ち良い水勢で使えてこそ、便利で有難いのだが、使い手のコントロールがきかなくなってしまうと、トイレの水と雖も、ヒトの行動を拘束する程の力を持っている。今回私が経験した出来事が、正にそれだ。何時もはお尻に優しい水が、どうしたことか、洗い流した後も止まらなくなってしまったのだ。そう、“出っぱなし”になってしまったのだ。

用は足せたのに、立つに立てない。こんな経験初めてだ。お尻を上げるに上げられないのだ。上げれば、辺り一面水浸しになってしまう。ズボンも下着も濡れてしまう。「ン、ボタン間違えたかな?」と思い、確かめながら「止」のボタンを何度押しても、一向に止まらない。焦って、水の勢いを調節する「弱」のボタンを押してみた。すると、この制御は言う事を聞いてくれる。お蔭で、やや水勢は弱まった。しかし、一番「弱」にしても、まだお尻を上げられない。弱まったとは言え、まだ噴水状態が続いているのだ。

原因は、直ぐに想像がついた。犯人は、イヤイヤ原因は、下の写真に示したコントロールパネルの中にあった。中に単三電池が入っていて、それが弱って来ていたのだ。

 


いつもお世話になっているパネル

 

原因は直ぐに思いついたのだが、別の“重大な問題”にも直ぐに気が付いた。トイレの中に、頼みの綱の“電池”が無い。これでは、軟禁状態から抜け出せない。恥は捨て、迷わず家族に助けを求める事にした。こうなると行動は早い(?)。

「オーイ」と叫ぶと、時ならぬ大声にビックリしたのか、家内と次女が飛んできた。開け放されたトイレのドアから、便器に座ったままのあらぬ姿の私を見て、半分笑いながら心配そうに「どうしたの?」。ズボンを引き上げ大事なトコロを隠しながら、事の顛末を説明すると、二人に声を上げて笑われた。言った本人も笑えるのだから仕方ない事なのだが、三人で喋っている間にも水は出っぱなしで、とうとうお尻に当たる水が冷たくなって来た。ヒーターで温めていたタンクの水が無くなり、水道から直接流れる様になってしまったのだ。この状況の変化は、座っている私しかわからない。二度としたくはないが、滅多にない得難い経験だ。「温めるタンクの量は意外にある」を体験したのは、便器開発関係者以外では多分初めてだろう。お陰で、多少の“うんちく”は語れるようになった……。

それは兎も角として、トイレに逃げ込んだ“すねた子供”でもあるまいし、“用”もなしに、大の大人が便器に何時までも座り続けるわけにはいかない。妻に頼んで電池を持ってきてもらい、大急ぎで交換した。そして、ふやける寸前の水浸しお尻が噴水攻撃から解き放たれたのは、トイレに駆け込んでから、凡そ30分も経ってからの事だった。これ以上拘束されると閉所恐怖症になる、という寸でのところだ。危ない!危ない!

 

以上紹介したように、閉所恐怖症を発症しない為には、使い慣れたトイレと雖も、決して侮ってはいけない。時として牙をむき、開放感に浸ったその瞬間を見計らって、「閉所恐怖症への誘い水」を流してくるかもしれないのだ。これは、体験者だからこそ言える、教訓である。皆さん、努々注意を怠る事なかれ!

 

【文責:知取気亭主人】  

  

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