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知取気亭主人の四方山話
 

『新たな病?』

 

2012年5月16日

5月は、この時期特有の“ある病気”が流行する。インフルエンザや風邪の流行が治まり、気温的にも夏に向かって暖かい日が多くなるこの時期に、しかもは色々な花が彩りを添え気分も晴れ晴れとする新緑が美しいこの時期に、一体どんな病が流行するのか、直ぐには思い浮かばない人も沢山いる事と思う。かく言う私も、つい先日の新聞で、これに関する記事を読まなかったら、恐らく思い出すことは無かっただろう。その病とは、「五月病」だ。

この病、大学に入りたての学生に5月頃に多く見られたことからこう名付けられ、慣れない環境の中で知らずしらずのうちに蓄積されていた心身の疲れや、新しい学校や人間関係などに馴染めないストレスのせいで、「やる気が出ない、ふさぎこんでしまう」などの症状が出るという。今は、新社会人にも増えてきているらしい。

調べてみると、「適応障害」の一つだとか、「気分障害」という精神疾患ではないか、などの記述も見られるが、「病」の字は付いていても正式な病名ではなく、きちんとした定義もないらしい。要するに、連休明けにリセットしなければならない学業や仕事への“やる気スイッチ”が、なかなかONになってくれないのだ。誰しも罹りそうな病だ。しかし、病名だけにスポットを当てると、この症状で苦しんでいる本人や家族には大変申し訳ないが、誰が名づけたか、結構洒落た名前である。高血圧症や糖尿病などの直接的な表現より、ずっと良い。しかも、表現文字の感じ良さも私は気に入っている。

 

病名で気に入る、入らない談義もあまり聞いたことはないが、先日、義弟が私の症状に面白い病名を付けてくれた。そして、結構気に入っている。「症状」と言ってもどうと言ったことはないのだが、その病名で指摘されると、まだ滅多に症状が出ない子供たちにも大受けだから面白い。高血圧症と同じように直接的な単語も含まれているが、却ってそれが面白さを醸し出している。義弟が命名した病名とは、「あれツハイマー」である。お分かりの事と思うが、「アルツハイマー」をもじったものだ。

くどくなることをお許し願って説明すれば、会話をしていて思い出せない単語の代わりに「アレ」と表現して、相手の逞しい想像力に頼る、会話としてはすこぶる高等なテクニックを駆使する病だ。しかも、40代半ば当たりからぼちぼち出始め、50代に入ると殆どの人が発症する厄介な病でもある。俗に「健忘症」とか「物忘れ」とか言われ、所謂老化のバロメーターにもなっている。症状が症状だけに、「病」と呼ぶか否かは意見の分かれるところではあるが、「きちんとした定義はなく誰しもが罹る」という点からいえば、「五月病」と同じく立派な病だと思っている。

 

しかし、「五月病」と違うのは、必ず誰かとの会話中にその症状が現れる、ということだ。
しかも、

 

 「アレ、取って!」

 「アレって何だ? ああコレか!」

  「そう、ソレソレ!」
 
などの様に、固有名詞が出てこなくても会話を成り立たせてしまうプラスの側面も持っている。言い換えれば、「あれツハイマー病」は、固有名詞をど忘れしても無理やり会話を成り立たせてしまう病、と言えなくもない。症状としては、「あれ」ばかりでなく「それ」と表現する場合があり、そういった類似表現も全て含んで「あれツハイマー病」と分類しようと思っている。考えるに、どんな固有名詞にも「あれ」で変わりが出来てしまうこの病は、衰えていく脳の代わりとして、神様が与えてくれた有難い機能なのかもしれない。そう考えれば、これらの症状が出ても、そう深刻にならずに済む。尤も、面白がっている人はいても、深刻に悩んでいる人は、少なくとも私の周りにはいそうもない。  

 

ただこの病、プラスの側面の便利さばかりに頼っていて、症状を抑える努力しないと、短絡的に「アレ」を使えない“かしこまった相手”との会話で窮してしまうことになる。多分、「思い出す」という機能の衰えが、加速されてしまうのだろう。「思い出したくないものだけ出てこない」となれば良いのだが、世の中そう都合良くはいかない。思い出す努力をしないと、「あれツハイマー」は静かに、そして確実に重症化していくことになる。

重症化すると、愛しい奥さんの名前も直ぐには出てこなくて、――心ならずも――「オイ」と呼ぶことになってしまう。最初から「オイ」だったら問題は起こらないのだが、今までは名前で読んでいたのに、急に「オイ」などと声を掛けると、「私はオイじゃありません。ちゃんとした名前があります」とたしなめられてしまいそうだ。尤も、「あれ」と呼ばないだけ良いのかもしれないのだが……。

 

しかし、義弟に命名されて面白がっていると、不思議なもので、「あれ」が気になって仕方がない。意識しながら聞いていると、私の周りにもいるはいるは、結構みんな便利に使っている。しかも、年齢に関係なく発症しているようにもみえる。更に観察していて気が付いた。「あれ」と言われて、「これ?」と答えてしまうのが、どうも良くないらしい。その「阿吽の呼吸」が、思い出す努力を妨害しているのだ。つまり、「あれ」と言われても、「“あれ”ってなぁーに?」ととぼけてしまうのが、この病の特効薬らしいのだ。

とすれば、私も家族に頼んでおいてみるか。「あれ」と言っても分からない振りをしてくれ、と。ただそうすると、会話が成立するのにどれだけ時間が掛かるか、少々心配なところではあるのだが……。

 

【文責:知取気亭主人】  

 

 


 タンポポ

  

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