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知取気亭主人の四方山話
 

『天敵』

 

2012年5月23日

桜が終わり、新緑が美しい季節となってきた。我が家の庭にある椿も、越冬した深緑色の葉を押しのけて、赤緑色の見るからに柔らかそうな、そして如何にもチャドクガが好みそうな葉が勢いよく伸びている。冬には完全に葉を落としていたコブシの木も、起掛けに背伸びをするかのように、新しい枝がグングン伸びている。植物とは言え、上に上にと勢い良く伸びる様は、見ていて気持ちが良いものだ。随所で体力の衰えを実感させられている我が身だからなのかもしれないのだが……。

しかし、本当に新緑は気分が良い。ただ、先日の連休までは、「“新緑”と言えば“広葉樹”」のイメージしか持っていなかった。盆栽をやったこともないし、植物に対する知識も全く身に着けていないこともあり、針葉樹、中でも松や杉と新緑を結びつけることは、これまで一度もなかった。ところが、法事で妻の実家に行った際、あの堅そうな松にも新緑の季節があることを知った。

 

法事で来ていた叔父さん(義母の弟)が、庭の松の木に毛虫がいるのを見つけた。その原因は、新芽を伸び放題に伸ばし、剪定をしていないせいだという。針のようなあの松の葉を食べる毛虫がいるとは驚きだ。これを見逃す手はないと、早速毛虫探しに庭に出た。

出てみて驚いた。確かに、何やら肌色の、遠目には土筆の様な物体が空に向かってツクンつくんと伸び、枝ぶりが良かった松の木の面影はない(写真-1)。見るからにむさ苦しく、伸び放題に任せてきたのが良く分かる。このような情景は剪定されない山の松で見たような記憶はあるが、そばによって目を凝らしてみると、その物体はどうやら新しく伸びる枝、すなわち新芽らしい。先端には、何やらグミに似た木の実の様な赤褐色の丸い物体も付いている(写真-2)。グッと近づいてみると、色といい形といい、松の新芽に付いていると知らなければ、食べてしまいそうなくらい美味しそうに見える。

調べたところによると、このグミのような物体は、松の雌花らしい。雌花があるという事は、必然的に雄花もあるという事で、それが写真-3だ。そして雌花と雄花の結晶が、写真-4の球果、所謂“松ぼっくり”の幼児である。写真の球果は昨年結実したものらしく、松の実が出来て松かさとなって開くのは、開花後2年経った秋のことだという。結構時間が掛かるものである。

 

 

 

そんな新芽の写真を撮りながら目を凝らして見ると、お目当ての虫がいるはいるは、小指の太さほどの立派な毛虫が結構ついている(写真-5)。後で知った事だが、この毛虫、名前をマツカレハ、俗にマツケムシと呼ばれ、椿やお茶の葉を食害するチャドクガほど毒性は強くないが、触れると黒い毒針毛が刺さるらしい。刺されると激痛があって、あとが腫れ上がるという厄介者だ。そうとは知らず、 “毛虫退治”と称して、俄か庭師の真似事をし始めた。

 

 

バッサバッサと新芽を切り、目に留まった毛虫は、片っ端から剪定バサミで成仏してもらった。次から次へと駆除しながら、「天敵でもいたら良いのに」と思っていると、願いが通じたのか、いました、いました。アシナガバチがいた(写真-6)。しかも、同じ松の木に巣まで作っている。餌のすぐ近くに巣作りできるなんて、ハチにとったら絶好の場所に違いない。しかし、そこでハタと考えた。剪定バサミで駆除してしまったということは、ハチの餌を横取りしてしまったのではないか、と。そうなると、私はハチにとっての天敵になってしまう。毛虫の天敵に活躍してもらうためには、餌となる毛虫を人間様が勝手に駆除してはいけないのかも知れない。すると、剪定も控えるべきではないか? でもそうすると、松にとっては良くない! 一体どうしたら良い? 毒針毛が刺さったのか、答えの出ない珍問答が頭をグルグル回り始めた。考える事、これが私の天敵なのに…!

 

【文責:知取気亭主人】  

  

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