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知取気亭主人の四方山話
 

『誤差』

 

2012年5月30日

先週の21日月曜日、太平洋側の広い範囲で金環日食が観測され、日本中が日食フィーバーに沸いた。日本で金環日食が観測されたのは、1987年の沖縄以来25年ぶりの事だというから、天文ファンならずとも、多くの人が関心を寄せたのは無理もない。私の住む金沢ではどうだったかというと、朝から晴天に恵まれ、天体ショーの朝7時半頃も見事に晴れ渡り、 “金環”とまではいかなかったものの、綺麗な部分日食が観察出来た。私も、友人の日食専用グラスを借りて、小学校以来の日食を楽しませてもらった。

夕方のテレビニュースがこの話題で持ちきりとなったのは、言うまでもない。見事な映像も繰り返し放映され、観察できなかった人も、テレビ画面を通じ自然の神秘さを楽しんだに違いない。次に日本国内で金環日食が見られるのは、2030年の北海道だというから、この盛り上がり様も納得である。

 

ところで、今回の様な日食が観られるのは、見事な天体ショーを演じてくれた太陽と月、そして地球との関係が織りなす偶然のなせる業だという。月の直径(3,476q)が太陽(1,392,000q)の凡そ1/400、そして“地球と月の平均距離(384,400q)”が“地球と太陽との平均距離(149,598,000q)”の約1/389、この偶然の一致が、世紀の天体ショーを演出しているらしい。つまり、これらの偶然によって、地球から見ると、太陽も月もほぼ同じ大きさ(視直径)に見えることになる。

そして、地球との距離によって、月の視直径が太陽の視直径より大きくなれば皆既日食が起こり、小さくなれば、今回のような金環日食が起こることになる。月がもっと小さかったり、もっと遠かったりしたら、皆既日食も金環日食も観られないのだ。偶然とはいえ、何とも神秘的な一致なのである。

 

さて、この偶然の一致、太陽の観測にも役立っているらしい。しかも、微妙な距離のイタズラで、今回ある画期的な測定がなされたという。太陽と月の縁が重なった時に月表面の凸凹から光が漏れる「ベイリービーズ」と呼ばれる現象を利用して、「太陽の大きさを正確に測定できた」というものだ。

先ほど太陽の直径を1,392,000qと書いたが、実はこの値、国際天文学連合が大雑把な値として定めていたものだという。太陽自体が強い光に包まれて輪郭がハッキリしないため、これまでの調査では(半径の測定で)数百qの開きがあったことから、「大体これ位」と決めていたらしい。それが、今回の金環日食で、格段に精度よく測定できたという。天文学者らで作るプロジェクトチームが24日に発表したところによれば、くだんの「ベイリービーズ現象」を使って測定したところ、「これまでよりも半径が10q大きいことが分かった」という。つまり、太陽の直径は1,392,020qだったという事だ。しかも、これまでの測定では数百qもあった誤差が、“20q”まで抑えられたという。精度が1桁以上も向上したわけである。これは凄いことだ。

絶対量で考えても、また我々人間が生活している場を考えても、“20q”とはとてつもなく大きな数値だ。歩くのさえシンドイ距離で、通常の感覚では、とても誤差などと言える値ではない。しかし、巨大な太陽に対する誤差となると話は別で、20qもの値でも、約3/100,000という大変高い精度となる。しかも、輪郭がハッキリしない天体だから、精度を高めるのはなおさら難しい。そう考えると、今回の成果は画期的なものだ。

 

そんな画期的な成果が得られた金環食を、次回はぜひこの目で観てみたいものだ。何より、地球、月、太陽の神秘的で見事なまでの偶然の一致が凄い。この三つの天体が織りなす天体ショーを、太平洋側で観られたという今回の様な金環日食を、ノンビリと観てみたいものである。次回日本で見られる金環日食は、2030年だというが、後18年後だ。すると、…… 81か!

 

【文責:知取気亭主人】  

 

 

ピンホールカメラの原理を応用して、コピー用紙に穴を開け、後ろの紙に写した部分日食。
映りは今一だが、欲張って、3つ映してみた。
こんなやり方でも、欠けている太陽が観測できた。
  

  

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