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知取気亭主人の四方山話
 

『時を経て…』

 

2012年6月20日

6月の第三日曜日、17日は父の日だ。手紙を貰ったり、声の便りが届いたり、プレゼントを貰ったりと、色々な形で心地良い時間を過ごしたお父さん達が多かったのではないだろうか。幾つになっても、感謝されるという事は嬉しいものである。特に、小さな子供達から貰うと、たとえモノでなくてもウルルと来るほど嬉しい。そして、子供の成長に目を細めることになるのである。

その子供達が成長して、やがて社会人になって給与を得るようになると、プレゼントの中身も様変わりして、「超ウルトラチュッチュ」と言って抱きついて来ることも無くなり、モノが増えてくる。そのモノも、何を送れば喜んでくれるか良く知っていて、貰ったお父さん達は忽ち相好を崩す。かく言う私も例に漏れず、である。 欲張りの私は貰えるのなら何でも嬉しいのだが、「特に」と問われれば、小さな声で「酒かな?」と答えることにしている。何せ、貰っても、貰っても、不思議な事に何日か後には必ず胃の中に蒸発してしまうから、何時でも大歓迎なのだ。その大歓迎の酒を、今年もプレゼントしてくれた。

 

貰ったのは、洋酒と日本酒だ。洋酒は、自分では買ったことが無い15年物のスコッチウィスキーだ。箱のパッケージを見た途端に、思わず頬が緩む。関税の関係で洋酒がまだ高かった頃、洋酒を初めて飲んだ沖縄返還の頃に重なるのだが、当時は「洋酒の高級品と言えば“ジョニクロ”」と思っていた。今回送られたのは、それと同じメーカーの銘柄で、初めて知るグリーンウォーカーだ。しかも、15年物ときた。

洋酒に限らず、酒は年数が経てば経つほどまろやかさが増し、美味しくなる。焼酎もそうだし、私の好きな泡盛も例に漏れずで、3年以上熟成せたものを古酒と書いてクースと呼び珍重している。ウィスキーも勿論長く熟成せたものほど、旨味が増してくるのだ。

 

他方、日本酒はどうだろうか。「今年の新酒」などと銘打った利き酒会が良く催されるから、暫く前までは、搾りたての日本酒が最高だろう、と思っていた。ところが、どうやらそうでもないらしい。10年ほど前から、日本酒でも「古酒」を見るようになって来たのだ。また、インターネットにも、日本酒の古酒の情報が載るようになって来た。

父の日に合わせた特集なのだろう、6月17日の朝日新聞の日曜版、朝日新聞グローブは「日本酒サバイバル」のタイトルで特集を組み、その記事の中で日本酒の古酒を紹介している。何年も寝かせ、熟成させた日本酒だ。一番高いのは、我が石川県の酒造会社“菊姫”の酒で、「菊理媛( くくりひめ)」だという。1升5万円もするというから凄い。10年以上熟成させているというからきっと美味いに違いないが、どんな味がするのだろうか。舐める程度でもいいから、味わってみたいものである。

1升5万円もする高価な酒は無理だが、庶民にうってつけの方法で古酒を楽しめる情報を最近手に入れた。情報源は、近くの酒屋さんである。そこの店員によれば、安い日本酒でも新聞紙に包んで冷暗所に保管し、3年ほど寝かせておいて飲むと、味はまろやかになりそれはそれは美味しくなる、と言うのだ。素人考えでは、「酒の熟成は、呼吸ができる木の樽とか壺でやらないと駄目だ」と思っていたのだが、間違いないとすれば、存外手軽な方法でできる事になる。

尤も、呑兵衛の私は既にその手軽な方法を実験していて、3〜4年前に妻が買ってきてくれた5年物のクースを、1升ビンのまま新聞紙に包み台所に置いて、10年物のクースにグレードアップさせようとしている。半信半疑ではあるのだが、どんな味わいになるのか、今から楽しみにしているところである。ただ、台所に入る度に新聞紙に包まれたビンを目にしても、グッと我慢しなければいけないのが少々辛い!

 

酒のことばかり書いてきたが、食べ物、特に発酵食品は、時を経るに従い旨味が増すようだ。いつも変わらぬ“時の流れ”と“冷暗所の環境”が、ゆっくりと進む熟成に合っているのだろう。そういう意味では、時を経て人間に味わい深さが備わってくるのと似ているのかもしれない。ただ、熟成が何時も上手く行くというわけではなく、酒造りにも勿論失敗がある。ヒトも然りである。

 

昨年暮れに出頭した平田信被告を皮切りに、17年間逃亡を続けてきたオウム真理教信徒の3人が相次いで逮捕されたが、彼らは熟成がうまく進んだ人生とはとても言い難い。時だけは我々と同じように過ぎ、同じ分だけ齢を重ねているはずなのに、6月15日に逮捕された高橋克也容疑者は、いまだにオウム真理教や麻原彰晃教祖への信仰心を捨てきれないでいるらしい。確かに長い時は経たが、“逃亡”という自ら選んだ環境が彼らの熟成を拒んだのかもしれない。

【文責:知取気亭主人】

  

下野(シモツケ)

 

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