2012年10月17日
「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がある。皆さん良くご存知のこととは思うが、念の為におさらいをすると、こういうことだ。風が吹くと、砂埃が舞い上がって目に入り、目がつぶれる人が大勢出る。すると、三味線を弾いて門付けをする人が増え、三味線が沢山必要となる。三味線には猫の皮を使うので、猫を大量に捕獲することになる。猫を取り尽くしてしまうと、猫を天敵とするネズミの天下となり、食物を入れておく桶をかじる。かじられると修理をしたり、買い替えたりする事になる。結果、桶屋が儲かる、という理屈だ。
つまり、「ある出来事が回り回って意外な結末になる」という事を言い表したものだが、余りにも屁理屈が過ぎて、日常生活で使ったことは殆ど無い。多分、大多数の人もそうだと思う。こんな諺を使う情景も思いつかない。尤も、深謀過ぎて、私の単純思考を得意とする脳ミソでは及びもつかないのも実情ではあるのだが……。
ところが、何時の時代にも深謀を巡らす事に長けた御仁が居るもので、「風が吹けば…」顔負けの屁理屈理論が国家レベルで明らかになり、メディアを賑わしている。我々庶民が思い付かないような屁理屈をこねて、大切な国家予算を当初目的とはかけ離れたことに使い、世間のひんしゅくを買っているのだ。しかも、その屁理屈が、多くの国民が一日も早い復興を願っている東日本大震災の被災地に用意された予算、我々が今後25年間も所得税率の上乗せなどで税負担をしなければならない予算、この大切な予算の“争奪”に使われていた、というから腹が立つ。
報道によれば、今回の震災復興とは凡そ縁がないと思われる、法務省などの事業や被災地以外の官庁施設(例えば、国立競技場や税務署など)の耐震化事業などに、多額の復興予算が使われているという。震災復興との関連性を考えると,「ドサクサ紛れに…」の感が拭えない。それでも、官庁施設の耐震化工事となれば、例えそれが京都や長崎など被災地から遠く離れた地域で行われたとしても、――被災地の復興第一に考えれば本末転倒も甚だしいが――まだ多少の関係はありそうな気がしないでもない。ところが、刑務所における職業訓練や反捕鯨団体への対策費、外国人向けの言語バリアフリー化や官邸ホームページのリニューアル、更にはコンタクトレンズ工場への補助金などになると、縁もゆかりも無いと誰でもが思うだろう。しかし、それが実際行われていたというのだ。一体どんな詭弁を弄したのだろうか。報道によれば、驚くような屁理屈がこねられている。
刑務所の職業訓練用に使われたケースの法務省の理屈はこうだ。「建設機械を購入したのは職業訓練をして被災地への就労を支援する為だ」ということらしい。ただ、被災地で働くかどうかは本人の自由意志だ、というから恐れ入る。
また、反捕鯨団体シーシェパードの妨害活動への対策費を計上した農林水産省は、「彼らの活動を阻止しなければ、鯨肉加工施設のある石巻に鯨の肉が届けられない。ひいては再建もままならない」と、実しやかな理屈をこねる。まるで、「風が吹けば桶屋が儲かる」の諺そのままだ。
岐阜県のコンタクトレンズ工場などへの補助金を実施した経済産業省の理屈は、「被災地から材料を調達しているから」というものらしい。こんな屁理屈が通ってしまえば、どんな事業も復興予算を当てに出来てしまう。やる側にとっては便利な話だが、恐ろしい事だ。とても、国家国民のことを思っての施策だとは思えない。こんな非常事態なのに、被災地そっちのけの「まずは省益ありき」の発想が見え隠れするのは、本当に情けない。
こうしてみると、予算要求をする各省庁の担当者は、「理屈と膏薬はどこへでも付く」という諺を、先輩から嫌という程叩き込まれているのかもしれない。そうでなければ、例え公共事業費が大きく縮減され耐震補強が遅々として進まない現状があったとしても、多くの国民が被災者や被災地のことを思い、一日も早い復興を待ち望んでいるこの非常時に、その大事な予算を流用するなんてことを思い付く筈がない。ましてや、耳を疑うような屁理屈など、恥ずかしくてとても言えないだろう。ところが、悲しくて腹立たしいことに、そんな屁理屈もまかり通ってしまう国になってしまった。最早、各省庁におけるチェック機能や自浄能力を期待することもできないのだろうか。
省庁内部で無理ならば、省庁のトップである大臣にその役目を期待してみてはどうだろうか。しかし、こうコロコロ変わっていては、お目付け役など務まる筈がないのは国民の多くが知っている。しかも、こんな時にこそ活躍して欲しい「事業仕分け」は、一体どこに行ってしまったのだろうか。
とは言うものの、どこかで誰かが襟を正さなければならない。今太閤ではないが、今水戸黄門と称される人が出てきてくれないものだろうか。さすれば、印籠一つで不正を正してくれる筈だ。「風が吹いたくらいで桶屋は儲からぬよ!」と…。
【文責:知取気亭主人】
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コスモス
(花言葉のひとつに、今回の話題で忘れられた感のある“真心”がある)
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