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知取気亭主人の四方山話
 

『劣化』

 

2012年10月24日

今年もまた、文化庁による「国語に関する世論調査」が実施され、その概要が発表になった。平成7年度から毎年実施されていて、日本人の国語に関する意識や、間違い易い慣用句の理解の現状などを調査している。その平成23年度の調査結果の概要が発表になったのだ。全国の16歳以上の男女3,474人に対し個別面談調査を行い、2,069人(59.6%)から有効回収出来たという。

9月21日の朝日新聞にそのニュースが載った。「本来の意味知っていますか」の大きな見出しと共に、質問のつもりで書かれたであろう「にやける」や「失笑する」、そして「うがった見方」の慣用句が紙面を賑わしている。そして、これらの慣用句を本来の意味で使っている(本来の意味を理解している)人は3割を切る、という結果が記事として添えられている。携帯メールの普及と共に、若者文化として短縮表現が幅を利かせている現状を考えると、残念な事ではあるけれど、使用頻度の低い慣用句などが本来の使われ方をされなくても、ある意味仕方が無い事なのかも知れない。

そして、慣用句と共にいつも気になるのが敬語だ。私自身が敬語の使用に関して自信が無いだけに、そんな話題がニュースになる度に気になっている。また、敬語は美しい日本語の最たるものだと思っていることもあり、“使い方が乱れている”だとか“使われなくなって来た”などと聞くと、一抹の寂しささえも感じている。くだんの世論調査によれば、その敬語に関するアンケート調査の結果は、次の通りだ。

「日常生活で、どの程度敬語を使っているか」と尋ねたところ、「いつも使っている」と「ある程度使っている」を選んだ人が、全体の76.3%だったという。それしかいないのか、というのが素直な感想だ。凡そ4分の3の人達が敬語を使っているということになるが、昨年度の73.9%よりは増えているものの、残りの4分の1近くの人が“使っていない”、というのは正直ショックである。

また、「敬語を使うのは、どんなときか」と尋ねたところ、――選択肢の中から複数回答可として実施――上位3位までを並べると、①「年上の人と話すとき」(83.3%)、②「目上の人と話すとき」(81.9%)、③「知らない人(明らかに年齢が上と思われる人)と話すとき」(79.3%)の順になっている。①、②で100%にならないところが気になるが、ともあれ順当な順位だろう。なお、「知らない人」に関しては、「明らかに年齢が下と思われる人と話すときも使う」と答えているのは半分以下の36.2%に激減し、年上か年下かで使い分けている様子がうかがえる。

確かに、回答にも現れているように、敬語は年上の人や目上の人を敬うときに使われるのが一般的だ。ところが、敬語には「敬語の劣化」と呼ばれる法則があって、初めは丁寧な表現だけに使われていたものが、頻繁に使われるようになると劣化が始まり、遂には敬語とは逆に相手を見下したような使われ方をしたり慇懃無礼な表現になったりする場合がある、と言われている。

例えば、代表的なところでは「貴様」がそうだ。使われている字は見れば、当初は敬語であったことが一目瞭然だ。それが頻繁に仲間内でも使われるようになったのだろう、軍歌の中では戦友を呼ぶ言葉として使われているし、今では喧嘩の相手を恫喝する時に使われるようになってしまった。凄い劣化のスピードだ。

良く似た言葉で、「お前」もそうだ。「御前」と書くこの言葉は、元々は同等以上の相手に使っていた表現で、時代劇で時々登場する“様”を付けた「お前様」と聞けば、その感覚は分かるだろう。それが徐々に劣化してゆき、今では同等か目下の相手に使うぞんざいな言い方になってしまっている。

また、目上の人に使っていた「あなた」もそうだ。漢字では「貴方」とも「貴女」などとも書き、相手に敬意を払う言葉として使われていた。ところが、今ではちょっと違う場面でも使われるようになって来ている。「あなたの意見には賛成しかねる」などに使われると、敬意は全く感じられないし、「あなたね〜ぇ、○○しちゃいけないでしょ!」などと叱られようものなら、軽い敵意さえ感じてしまう。変われば変わるものであるが、手紙などではまだ敬意を持った使われ方をしていることを考えると、「貴様」などとは違って、未だ劣化の最中なのかもしれない。

ところで、この最後の例として挙げた「あなた」に関し、私には少々不安に襲われていることがある。何を隠そう我が家では、家内が、結婚以来私のことを「あなた」と呼んでいるのだ。この駄文を書きながら、呼ばれ始めてからの年数は「貴様」などが劣化するのに要したのに比べれば遥かに短いのだが、ひょっとして我が家の「あなた」はハイスピードで劣化が進んでいるのではないか、と不安になってきた。多分新婚当初は「貴方」の心境で使ってくれていた、と信じている。しかし、私の“度重なる不徳”が予想外に劣化を早め、暫く前から、「あなたの意見には賛成しかねる」と同じような使われ方をしているのではないか、と疑心暗鬼になってきたのだ。このままいくと、「あなたね〜ぇ、…!」まで進んでしまうかもしれない。どうしよう!

お母ちゃん、我が家に劣化はないよな…?

【文責:知取気亭主人】

  
コスモス
 

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