2012年11月07日
NHK第一放送の朝のラジオ番組「あさいちばん」に、「今日は何の日」というコーナーがある。その日に起こった歴史上の出来事や記念日などを紹介していて、ズボラな私のお気に入りとなっている。日本史が苦手な私にとっては、短い時間で情報収集できる、大変重宝でありがたい番組なのだ。時間が合うとは、ハンドル片手に、本四方山話のネタを仕入れている。そのコーナーが耳に馴染んで以来、当該ラジオコーナーに限らず、新聞やテレビなどでも、たまに取り上げられる「今日は何の日」が気になるようになってきた。そして、結構知らない記念日があることに気づかされる。
先日も、その番組とは別のNHKラジオ番組からだが、微笑ましい名前の記念日があることを知った。確か全国の道の駅を紹介するコーナーだったと思うが、今週の金曜日に訪れる11月11日が「きりたんぽの日」だということが紹介されていたのだ。1が四つ並んだ「1111」の形が囲炉裏で焼いているきりたんぽに見えることから、秋田県鹿角市の「かづのきりたんぽ倶楽部」が制定したという。「無理やりに…」という気もしないではないが、町興しという観点からすれば、面白いアイデアだ。
このように“きりたんぽ”の場合は、「形が似ている」ということでその日が選ばれているのだが、すっかり全国区になった11月22日の「いい夫婦の日」のように、語呂合わせで記念日が制定されている日もある。こうして見ると、「○○の日」と呼ばれる記念日は、結構自由な発想で制定しているらしい。ただその一方で、例に挙げたように各種任意団体が勝手連よろしく自由に、悪く言えば勝手に決めたものではなく、11月3日の「文化の日」の様にしっかりと国が定めた記念日もある。そのことは皆さん知っての通りだ。しかし、今年からスタートした日があるのを、皆さんはご存知だろうか。11月1日がその日だ。
そのニュースソースは、くだんのラジオではなく、今度は新聞からだ。11月1日の朝日新聞朝刊の「天声人語」に、今年から11月1日が「古典の日」になった、と初めて聞く記念日のことが書かれていた。ところが、どこの団体が制定したのか書かれていない。「思い付いたが吉日」とばかりに、直ぐにインターネットで調べてみた。すると、ありました、ありました。文部科学省のホームページに、そのものズバリの情報源が載っていた。
平成24年9月5日付で、各都道府県教育委員会や都道府県知事などに宛てた、「古典の日に関する法律の施行について(通知)」の文書が掲載されていたのだ。文部科学副大臣高井美穂の名前で出されていて、9月5日に公布、施行されたと記されている。祭日でもないのに法律で定められた記念日があるとは、しかもたった今から始まったばかりだとは、知らなかった。ネタに苦労している私としては、全くもって迂闊だった!
その通知によれば、「11月1日は『紫式部日記』によって源氏物語の存在が確認される最古の日(寛弘5(1008)年11月1日)にちなむものであること」と書かれていて、ちょくちょく「世界最古の長編小説」と喧伝される――異論を唱える見解もある――あの「源氏物語」に由来していることが分かる。ただ、こう書くと、「古典文学」だけが対象のように思えるが、法律の定義には、「文学、音楽、美術、演劇、伝統芸能、演芸、生活文化その他の文化芸術、学術又は思想の分野における古来の文化的所産であって…」と書かれていて、幅広い分野を網羅している。良く「伝統○○」と呼ばれる文化は殆どが対象になりそうで、滅多にニュースにならない「和算」なども、学術としてその範疇に入るのだろう。
ところで、対象となる文化範囲は理解できたが、法律で制定するぐらい重要な日であるから、その目的も明確になっているに違いない。第一条には次のように書かれている。
第一条 この法律は、古典が、我が国の文化において重要な位置を占め、優れた価値を有していることに鑑み、古典の日を設けること等により、様々な場において、国民が古典に親しむことを促し、その心のよりどころとして古典を広く根づかせ、もって心豊かな国民生活及び文化的で活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。
つまり、「『古典の日』を新たに制定するから、これを契機に、国民にはもっと古典文化に親しんで、心豊かな生活を送って欲しい」ということである。さしずめ、祭り好きな私なら、全国各地の祭りを絶やすことなく守っていこう、ということになる。確かに、経済効率主義が標榜されるヨーロッパでも、伝統的な祭りや行事などの歴史ある文化が大事に守られている地域が沢山ある。そんな文化に触れることによって、郷土愛が育まれるのだろう。そう考えると、色々な意味で帰属意識が薄れる現代日本だからこそ、大切にしていきたい記念日だと言える。
折しも、今は全国読書週間(10月27日〜11月9日)の最中だ。古典文学にはあまり馴染みはないが、鎌倉時代に鴨長明によって書かれた「方丈記」でも読んでみるか。日本最古の災害ルポルタージュと称されているらしく、さまざまな災害や飢饉の模様が書かれているという。「ゆく河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず…」の出だしは、受験勉強用に覚えたが、恥ずかしながら中身は読んだことがない。「古典の日」にあやかって、長明さんが生きた時代(平安時代後期〜鎌倉時代初期)に思いを馳せるのも悪くはない。しかも、3.11大震災で明らかになったように、災害の歴史に学ぶことも多い。これこそ、“古典から学ぶ温故知新”なのかもしれない。
【文責:知取気亭主人】
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こんな季節になりました(金沢)
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