2012年11月21日
大概の日本人は、飛び上がらんばかりに嬉しい時や目出度い時に、両手を上げながら「万歳」を唱え、思い切り喜びを爆発させる。例えば、毎年2〜3月になると、大学の合格発表会場で、飛び切りの笑顔を振りまきながら万歳している受験生の姿を良く目にする。また、今ではあまり見掛けなくなったが、我々が若い頃には、新婚旅行に出掛ける新郎・新婦を駅のホームで見送る時も、友人達が人目をはばからず大声を出して良く万歳していたものだった。昔に限らず今でも、山頂や海岸でご来光を拝む時には、多くの日本人が自然と万歳をしている。別に、「こんな時には万歳をしなければいけない」などの決まりもないし、学校で教えられたわけでもないのに、自然と万歳をしたくなる。不思議なものである。
そんな日本人に馴染み深い「万歳」には、そもそもどんな意味があるのだろうか。大辞林によれば、「目出度い時や嬉しい時、長久を祈る時などに唱える語。多く、両手を高く振り上げる動作を伴う」と説明されている。また、岩波国語辞典には、「万年、いつまでも生き栄えること。祝うべきめでたいこと」と書かれている。さらに、新明解国語辞典(三省堂)では、岩波国語辞典と同じ解説とともに、「祝福の意を表す時、また勝負に勝った時(おおぜいで)唱える言葉」も書かれている。
そう、こういった辞典に頼るまでもなく、「万歳」は目出度い時に唱える言葉だと分かっているし、これまでズッとそう思ってきた。でも最近になり、あながち目出度い時ばかりではないのかもしれない、と思えてきた。何故かと言えば、そう考えなければ腑に落ちない光景を、目の当たりにしたからだ。
先週の16日金曜日、衆議院が突然解散した。大々的に報道されているから、皆さん周知の通りだが、テレビで流されたニュース映像を見て、頭の中に?マークが浮かんで消えなくなってしまった。議長が解散宣言した直後に撮られた議場の光景に、驚きとともに強い違和感を覚えたのだ。皆さんはそんなことなかったのだろうか。
横路衆議院議長が、「憲法第七条に則り、衆議院を解散する」と解散詔書を朗読し、解散が決定した瞬間、――流石に野田首相は神妙な面持ちだったが――(恐らく)議場にいた殆どの国会議員が「万歳」を三唱したのだ。この議長の朗読で、衆議院の解散と総選挙が決定したわけだが、現役の国会議員が万歳する程、解散・総選挙は喜ばしい事なのだろうか。どうも良く分からない。
とは言うものの、「野田総理が言った『近いうちに…』が今年の流行語大賞にノミネートされた」とか「約束を守らないのは嘘つきだ」などと言って、早期の退陣と解散・選挙を野田首相に迫っていた自由民主党や公明党などの議員にとっては、確かに目出度い事なのかも知れない。と考えれば、目的を達成したのだから、彼らが喜ぶのは良く分かる。しかし、与党民主党の議員までもが万歳していたのは何故だろう。少なくとも、任期途中で解散せざるを得なかった原因の多くは政府与党の彼らにあるのに、万歳をして喜びを表しているとは、どうしても私には理解できない。見間違いではないと思うが、現職の閣僚までもが諸手を上げていたのを見ると、政治家の多くは政治混迷の責任を感じていない、と思えてしまう。
確かに、かく言う私も、国民に信を問うべきだとは思う。したがって、解散・総選挙は仕方がないことだと理解はできる。しかし、だからと言って、「万歳」を三唱して喜びを体中で表すようなことではないと思う。皆さんはどのような感想を持っておられるのだろう。私の思いがひねくれているのかもしれないが、
「自分たちの責任で、政治の混迷を招いてしまいました」
「したがって、解散・総選挙を実施して、国民の皆さんの審判を仰ぐこととしました」
「この選挙で沢山の税金を使うことになりますが、決して無駄金にしないよう、国民の皆さんはしっかりとした候補者を選んでください」
ぐらいの気持ちを表してもらわないと困る。
しかし、とにもかくにもこれで、12月4日公示、16日投票・即日開票の選挙日程が決められた。ところが解散後の日程は速やかに決められたのだが、求心力のある政治家が少ないこともあって、二大政党どころの話ではなくまるで戦国時代の様相を呈し、選挙後の政局は早くも混迷の兆しさえ見せている。今の政治の混迷を表すかのように、「日本維新の会」や「太陽の党」、あるいは「みどりの党」など少数政党が乱立し、17日時点では16もの政党が雨後の筍のように作られているのだ。
そんな中で、第三極を目指す動きが活発化している。しかし、各政党間でどんな違いがあるのか良く分からない。その上、立候補者に資質が有るのかどうかも良く分からない。ただ、国民にとって万歳するような晴がましい状況でないときには、それなりの見識ある態度が示される議員を選びたいものである。
ところで、「万歳」には、「もう万歳だ」などの様に悪い状態を示す言葉として使う場合がある。「どうもしようがないこと。おてあげ。最後」という意味だが、衆議院の先生方はもしやそんな意味で使ったのではないでしょうね!顔が笑っていたから、そんなことはないとは思いますが……。
【文責:知取気亭主人】
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ドウダンツツジ
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