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知取気亭主人の四方山話
 

『睡魔』

 

2012年12月5日

12月2日の日曜日、長く居座っていた風邪のウィルスがやっと退散して体調が戻ってきたことや、この季節には珍しく太陽が顔を覗かせたこともあって、久し振りに孫娘を連れて散歩に出かけた。「お日様の下で散歩を…」と期待していたのだが、歩き出した途端にどんよりと曇ってきた。こうなると、もうすっかり北陸の冬空だ。天気予報でも言っていたが、空気は冷たく肌寒い。握っている孫娘の手も冷たい。子供は風の子と言うけれど寒くないかな、と心配していたのだが、歩き始めて30分程経った頃から、握っている手が暖かくなってきた。睡魔のサインだ。「そろそろかな」と思っていると、俄かに足元が覚束なくなってきた。フラフラし始めたのだ。

「抱っこしようか?」と聞くと、無言で「抱っこ!」の格好をする。それでは、と抱っこをすると、待っていましたとばかり直ぐに肩に顔をうずめてきた。余程眠たかったのか、10歩も歩くか歩かないうちに、気持ちよさそうな寝息を立て始めた。目をつぶった瞬間に熟睡できるとは、まさに幼児の真骨頂だ。

幼児は体力のないせいもあるのだろうが、本当に睡魔に弱い。遊び疲れていると、半分眠りながら食事することもある。食べていたと思ったら何時の間にやら眠り込んだり、このまま眠りこむのかなと見ていると突然また食べ始めたりと、その様子はとても微笑ましく、見ている者をホンワカとした気持ちにさせてくれる。この眠りながらの食事は、幼児には良く見られる光景で、我が家の子供達も大層得意だった。

中でも次男は、どこでも眠れる特技を持っていて、寝付きの早さも子供たちの中では群を抜いていた。イヤ、今もそうだとすれば、「…抜いていた」ではなく「…抜いている」が正解かもしれない。特に車の振動が麻酔代わりになるのか、車に乗った途端に眠ってしまう子だった。そんな次男が、大好きな車、しかも乗用車ではなくバスの中で寝てしまい、とんでもない騒動を巻き起こした事がある。確か、彼が幼稚園の年長さんの時だ。

今から20年程前、5年生の長男に連れられてワンマンバスに乗った。長男が通っている耳鼻科に、お供で付いて行ったのだ。30分程の乗車時間だったのだが、例に漏れずで、直ぐに眠ってしまったらしい。それを見ていた長男は、気が気ではなかったらしく、降りるバス停が近づいたところで弟に声を掛け、目を覚ましたことを確認したという。やがて目的のバス停に止まった。降りるバス停を間違えないようにと緊張していた長男は、後ろから弟が付いて来るものと信じ、確認しないままバスを降りたという。ところが、降り立って待っているのだが、一向に弟は降りてこない。そのうち、ドアは閉まり、驚く長男を残したままバスは出発してしまった。

年端もいかぬ長男の驚きと心配が生半可でなかった事は想像に難くない。今と違って携帯電話が無い時代だったから、連絡手段も固定電話しかない。バス停近くの公衆電話から家内に、焦った声で電話を掛けて来た。家内もビックリ仰天だ。事の顛末を聞いた家内が、慌ててバス会社に連絡を取ると、(当時の)ワンマンバスは連絡の取りようがない事、そして次男が乗っているのが巡回バスであるからいずれ戻ってくる事を聞かされ、降りる予定だったバス停で待っているように、と言われたという。

家内と長男、特に長男は責任も感じ、二人とも心配で待っていたに違いない。ところが、そんな心配をよそに、バスから降りてきた次男の顔は満面の笑みだった、というから面白い。一番前の席に座らせてもらい、初めて見る景色に、バスの運転手の気分を楽しんでいたのだろう。人騒がせな冒険をしたものである。

ただ、この騒動、よくよく考えてみると彼の責任だけではないような気がする。どうも、私の遺伝子を着実に受け継いでしまったせいではないか、と思っている。と言うのも、私も大学生の時に同じ様な経験をしたことがあるのだ。当時住んでいた寮の近くから金沢駅行に行くため、バスに乗った時のことだ。金沢駅に無事に着き、バスは駅近くの車庫に入った。最後の確認をするため車内を巡回した運転手が見つけたのは、最後部のシートでグッスリ寝入っている私だった。そう、私もバスの中で眠ってしまい、目的のバス停で降りそこね、ご丁寧に車庫まで運ばれた経験があるのだ。しかも、当時の私の寝入るスピードが可也のものだったことを考え合わせると、遺伝子のなせる技、というのが偽らざるところである。

ただ、「遺伝子のなせる技」とは言うものの、私や次男に限らず、どんなに寝ても睡魔と仲良しの人は結構多い。つまらない授業や講演会などで睡魔に襲われ、コックリコックリした経験は、多分誰でも持っている筈だ。ところが、少ない睡眠時間で事足りる人もいて、彼のナポレオンは「1日に3時間しか眠らなかった」と言われている。惰眠をむさぼるのが大好きな私にとっては、それこそ夢のような話だ。本当に、3時間程度の睡眠で大丈夫だったのだろうか。私などは、襲いくる睡魔にはどんなに抵抗してもダメ、とはなから諦めている。還暦を過ぎた今では、孫娘と同じように眠たい時に眠る、の境地に入ってしまった。そして、布団に入る度に、母が口癖の様に言っていた「寝るより楽なことは無い」を有り難く噛みしめている、今日この頃なのである。

【文責:知取気亭主人】

  
物干し竿の滴
 

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