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知取気亭主人の四方山話
 

『PM2.5』

 

2013年3月6日

2013年が一年を終えるにはまだ9ヶ月もあるのに、既に今年の流行語大賞の有力候補間違いなしと思われる言葉が、連日メディアを賑わしている。環境汚染物質として俄かに表舞台に登場した「PM2.5」である。しかも、この汚染物質の発生源が海を隔てた国にあって、我が国ではどうにもコントロールできない状態にあり、被害者意識が拭えないことも加わって、かなりセンセーショナルに報道されている。

「PM」とはParticulate Matterの頭文字をとったもので、日本語では粒子状物質と言われている。一般的にはマイクロメートル (μm:1/1,000ミリメートル) 単位の極めて小さな微粒子の事で、大気中を浮遊している。主に石炭や石油などの燃焼によって発生する煤塵などからなっていて、その大きさによりPM10、PM2.5などと数値が添えられている。今話題となっている「PM2.5」は、直径が2.5μm以下のものを指す。

このPM2.5の濃度(単位:マイクログラム毎立方メートル μg/m³)が、お隣の中国やインドなどで、環境基準を遥かに超える事態が頻発するようになって来た。北京を始めとする中国主要都市の環境汚染状況は、度々ニュース映像で流れていて、見るからに深刻だ。「一寸先は闇」ではないが、吐き出されるこれらのスモッグによって、視界が極端に悪い様子が映し出されている。当然、健康への悪影響が強く懸念されている。この何とも厄介な環境汚染物質が、東シナ海を超え、西日本を中心とした日本各地に飛来するのではないか、と今危惧されているのだ。

粒子状物質については、昔の「四日市喘息」に代表されるように、住民の健康リスクが危惧されることから、世界各国で環境基準が設けられている。例えば、PM2.5に関する日本の環境基準は、「1年平均値が15μg/m3以下、かつ1日平均値が35μg/m3以下であること」(2009年9月9日環境省告示)となっている。朝日新聞によれば、この基準はアメリカの基準に倣ったものらしく、調べてみると、世界保健機構(WHO)が定めているガイドラインの「大気質指針」では「1年平均値が10μg/m3以下、24時間平均値が25μg/m3以下」――24時間平均は、99パーセンタイル値(この値を超えない日は年間365日のうち99%、超える日は1%=3日間まで)――、と日本の環境基準より厳しく設定されている。ただ、WHOは世界各国の異なる事情を考慮して、もう少しゆるい「暫定目標」も設けている。この暫定目標は1から3まで3段階あって、現行の日本の基準は、最も厳しい「暫定目標3(24時間平均 37.5μg/m3、年平均 15μg/m3)」に近い数値となっている。とは言うものの、まだ日本も、“WHO大気質指針”の一歩手前の“暫定目標”に合わせている状態なのである。

ただ、一歩手前と言いながらも、今のところ、(日本の)環境基準を大きく上回ったという報道はされていない。ところが、中国における汚染の酷さが頻繁にテレビニュースで流れる様になり、それに呼応するかのように日本への飛来が危惧されるようになって来た。そういった世論の高まりを受け、環境省は27日、PM2.5の濃度に関する“注意喚起の暫定指針”を発表した。それが、外出を減らすなどの注意を必要とする暫定的な指針値で、「1日平均で1立方メートル当たり70μg/m3」である。環境基準1日平均値の2倍である。

この汚染物質濃度、中国では冬季に悪化する傾向にあるそうで、“WHO暫定目標3”の24時間平均 37.5μg/m3より1桁多い数値も、ニュースでは報告されている。汚染の酷さは中国政府も認識していて、花火や爆竹、或いは露天串焼きなどの自粛規制までもが取り沙汰させられた。最近では、中国で暮らす邦人家族の心配げなインタビュー映像が流され、日本との違いをいやがおうにも煽っていた。しかし、本当に日本まで飛来していないのだろうか。私の住む石川県ではどうなのだろうか。乳幼児がいるだけに心配である。

そこで、石川県のホームページに公表されている観測データを調べてみた。県内数カ所の観測地点の内、石川県内で最も交通量の多いと思われる観測地点(国道8号御経塚交差点)のデータに着目した。当該地点の1月と2月の1日平均値をグラフ化したのが、以下の図である。

野々市自動車排出ガス測定局 野々市市御経塚(国道8号御経塚交差点)

石川県ホームページで公表されている速報値を使い作成(単位は、縦軸がμg/m3、横軸が日)

グラフで分かるように、1日平均値が環境基準の35μg/m3を超える日はない。しかし、WHO大気質指針である「24時間平均値が25μg/m3以下」を破った日が、1月に2日も出現していることが分かる。中でも1月30日は、1時間の値ではあるが、朝の5時から12時までの7時間に亘り35μg/m3を超え、9時から10時までの1時間には53μg/m3の最高値が観測されている。これだけでは中国からの飛来によるものかどうかは判断できないが、少なくとも、日によってはWHO大気質指針(24時間平均値)を超える日があることが分かった。しかも、既に2日超えている。こうなると、残り9ヶ月で「24時間平均が指針を超える日は3日まで」に残された日は、たった1日となってしまった。このままのペースで行くと、3日超は時間の問題のような気がする。しかも、石川県内では交通量が多い観測地点とはいえ、三大都市圏や政令指定都市に比べれば遥かに経済活動が低い地方都市で、この状況である。多分、100万人を超す大都市やその近郊では、中国の影響を受けなくても、日本の環境基準を超える観測地点もあるのだろうと思う。

こうして見ると、中国からの影響がない状態では“注意喚起の暫定指針”に従って外出を控えるほどの汚染は考えられないものの、綺麗になったとはいえ、日本の空もまだまだ“手放しで喜べる状態”ではなさそうである。ましてや、中国から飛来してそれが加われば、一気に暫定指針を超える可能性は高い。

折しも、5日に熊本県や山口県などで暫定指針値を超えた、との報道がなされた。多分、中国からの飛来の影響なのだろう。これから黄砂の季節の到来とともに、こういった迷惑を被る可能性は高くなる。

こんなニュースに接すると、温暖化防止も含めた地球環境に優しい生活がこれからますます必要になってくる、と感じずにはいられない。防衛費増大が際立つ中国だが、その数分の一でも地球環境改善予算に振り向ければ、中国国民の健康リスクもかなり改善されると思うのだが……。

【文責:知取気亭主人】

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