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知取気亭主人の四方山話
 

『春雷』

 

2013年3月13日

10日の日曜日、ここ北陸の金沢――中でも私が住んでいる山沿いの地域――では、時ならぬ雷鳴に窓ガラスが激しく震えた。春雷だ。春の季語にもなっている春雷は、丁度今頃の季節に発生する雷の事で、「虫出しの雷」とも呼ばれていて、冬眠していた虫たちが雷鳴に驚いて目覚めるとも言われているらしい。ただ、冬場に嫌という程雷鳴が轟く北陸地方では、この季節になっての雷は珍しい。また、虫が地中から這い出すと言われる「啓蟄」がとうに過ぎているから、この日の雷で目覚めた虫はいなかった可能性もあるのだが……。ただ、土の中の虫たちは既に目を覚ましてしまっていたとしても、春の訪れを告げる雷であることに間違いはない。

この春雷も代表の一つだが、昔から「春に三日の晴れなし」とか「三寒四温」という諺を良く耳にするように、春先の今頃の季節は、全国的に天候の変化は目まぐるしい。どちらの諺もその変化の激しい様子を表したものだが、特に「三寒四温」は「三日ほど寒い日が続くと、次の四日間は暖かい日が続く」という意味で、寒暖の変化に体がついて行けない最近の天候にピッタリと当てはまる。

勿論、この季節の天候変化が激しいのには、それなりの理由がある。丁度今頃の季節になると、冬型の気圧配置が崩れ、大陸の高気圧が弱まってくる。すると、真冬には遥か太平洋上にあった前線帯が、太平洋上の暖かい高気圧に押され、次第に北上し、日本まで押し寄せることがある。そうなると、ある時はシベリアの冷たい高気圧に覆われ、またある時は、暖かい南の太平洋高気圧の影響を受け気温が上昇する事になるのである。

また、大陸で発生した高気圧と低気圧が、偏西風の影響を受けて、1時間当たり凡そ10〜55キロメートルと言われるほどの移動速度で交互にやってくるのも一因となっている。1日にすれば、240キロメートルから1,300キロメートル以上も移動することになる。一つの高気圧の大きさは、水平距離で凡そ1,000キロメートルから3,000キロメートルくらいと言われているから、仮に移動速度を1日当たり1,000キロメートル、大きさを3,000キロメートルとすると、同じ地点をたった3日で駆け抜けていってしまう事になる。これでは、くだんの諺が生まれるはずである。先週の週末から今週の週明けにかけての天候は、正にそれを地で行く感じとなった。

金沢では木曜日頃から冬とおさらばするような暖かい気温が続き、9日の土曜日はポカポカ陽気となり20度を超えた。タップリと太陽も顔を出し、車の中は初夏を感じさせるほどだ。お蔭で、久し振りに車の窓を開け、上着を脱いで運転することが出来た。

気温はそのように高くなったのだが、その一方で、この季節の風物詩となってしまった黄砂も大量に飛来し、8日夕方から翌明け方に掛けての雨に混じり、辺り一面を激しく汚していった。特に、翌日目にした車はどれも激しく汚れていて、一目で黄砂の影響と分かる程だ。その上、前話で懸念したことが現実となって、PM2.5も観測され、環境基準を上回る観測地点が各地で報告された。どちらも発生源が大陸だけに、日本国内で如何ともしがたいところが、何とも歯がゆしい。自然現象が相手だと、どうしてもこんな感じになってしまい、人間の非力さを感じずにはいられない。

そう言えば、2年前の3月11日も、人間の非力さを嫌という程見せつけられた日であった。早いもので、あの日から2年が過ぎた。1年前にも同じことを思ったが、「もう2年」なのか「まだ2年」なのか、人によって感じ方は様々あるのだと思う。「あの時から時間は止まったまま」という方も、まだ大勢いることだろう。しかし、それでも時は確実に刻まれ、再び鎮魂の日を迎えた。

「春雷は“虫出しの雷”とも呼ばれている」と書いたが、豊作を予想させる有難い見方もあるらしい。2年前の被災時と同じように、被災地に本格的な春の訪れは遠い。しかし、昔の日本人が春雷に豊かな季節を感じたように、被災地にも必ず笑顔で迎える春が訪れることを信じ、希望を持ち続けていてほしい、と願っている。

最後に、こういった数字を書くのは悲しいことだが、あの悲惨な大災害を忘れないためにも、今年も改めて記載しておくことにする。3月6日現在、亡くなった方は1年前に比べて27人増えて1万5881人になり、行方不明者は懸命の捜索にも拘らずまだ2676人もいる(警察庁調べ)。また、避難を余儀なくされている人達は、1年間に比べて2万8739人減ったものの、未だに31万5196人と、中核都市並みの人数を数えている(2月7日現在、復興庁まとめ)。

犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に一日も早く安寧した生活が戻ることを願ってやみません。【合掌】

【文責:知取気亭主人】

  
福寿草とミツバチ

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