2013年4月17日
今、お隣の中国で、世界が注視する感染症が広がりを見せている。H7N9型鳥インフルエンザだ。一時騒がれた高病原性鳥インフルエンザウィルスH5N1型に比べれば弱毒性だと言われているが、患者は徐々に増え、17日朝のNHKニュースでは、中国全体で感染者が78人、死亡は16人にも上るというから侮れない。何と、2割を超す致死率だ。しかも、野生の鳩からもウィルスが見つかったという。それもあってか、上海周辺に限られていたものが北京でも感染者が見つかり、徐々に中国全土への感染拡大の様相を呈してきている。加えて、キャリアである鳥には症状が殆ど出ないため、接触する鳥が感染しているのか分からず、被害の拡大を助長するのではないか、と危惧されている。
今のところパンデミックには至っていないが、4月14日の朝日新聞朝刊では、上海市で感染者の夫が感染したとの記事も報じられ、人から人へ感染した可能性も示唆している。もし、人から人への感染が実際の事だとすると、“対岸の火事”と悠長な事を言ってはおれない。世界的大流行の可能性もあるのだ。お隣の国の出来事とは言え、境界の概念が無く自由に飛び回る野鳥の習性や今のグローバルな人の行き来を考えると、早晩日本にも感染者が出るような気がしてならない。最近の流行言葉となった「想定外をなくす」を意識すれば、鎮静が確認されるまでは、今暫く注意深く見守っていく必要がありそうだ。いずれにしても、一日も早く鎮静化してほしいものである。
さて、中国で危惧されているのはこの鳥インフルエンザだが、日本では違う小動物が介在する危険な感染症がジワリと広がりを見せ、厚生省は注意を喚起している。その小動物とは、都会では殆どお目に掛かれない“マダニ”だ。この“マダニ”がこれまで聞いたこともないような病を感染させ、亡くなる人まで出てきている。
病の名前は、マダニ媒介性疾患「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」と言い、特に九州など西日本での被害報告が多い。新聞報道によれば、16日には、山口県で今月上旬に死亡した患者がこの病に感染していたことが確認されたという。これで、日本国内での感染者は12人、死亡が確認されたのは8人目に上るらしい。致死率は驚愕の高さだ。
私も多分見たことはないが、“ダニ”とひと口に言ってもこの“マダニ”は、最近増えてきていると言われている家ダニよりも大きく、吸血前の大きさで体長3〜4o、吸血後には30oにもなる事があるらしい。そして、固い外皮に覆われていて主に山野に生息しているという。本来はノネズミや小鳥、或いはウサギなどの動物に寄生・吸血するのだが、山菜取りや野山遊びなどでたまたま人間が接触すると、これ幸いと吸血されることになる。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、2011年に初めて特定された新しいウィルス、SFTSウィルスによって引き起こされる病気で、このウィルスを保有しているマダニに咬まれることによって感染するのだという。それにしても、特定されたのが2年前とは驚きだ。極最近になって特定されたという事は、特定前にも既に感染・発症していた人がいたものの、違う病気、と片付けられていた可能性が強い。或いは、寄生していた小動物が減ったことが原因なのか、ヒトが無防備に野山に入り込むようになったのが原因なのか、あるいは両方なのか、いずれにしてもマダニと人の接触する機会が増えた、ということも考えられる。また、恐ろしいことに、感染者の血液・体液との接触感染も報告されているという。
この感染症の症状は、咬まれてから6日〜2週間後に発熱、倦怠感、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が現れ、重症の場合は死に至ることになるという。これまでのところ、発症報告は九州地方が圧倒的に多いが、SFTSウィルスを媒介すると考えられているマダニ類は国内に広く分布するらしく、全国どこにおいても発生する可能性があると考えられている。
調べたところ、マダニが媒介するのは、SFTSばかりではない。日本紅斑熱やライム病など多くの感染症が、マダニによって媒介されることが知られているという。童謡の「ふるさと」で「♪いかにいます 父母 つつがなしや 友がき…」と詠われたツツガムシ病も、ツツガムシと呼ばれるダニの一種が媒介する病だ。ツツガムシは主に東北、北陸地方に生息していて、こちらの新聞には、時々、「ツツガムシ病の患者が発生した」との新聞記事が載ることがある。いずれにしても、ダニ類は、厄介な病を感染させる宿主として古くから知られている。数ミリの小さな動物だが、決して侮ってはいけないのだ。
マダニ類の多くは、人や動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いもので10日間)吸血するという。そう言えば――マダニではなかったと思うが――、幼児の頃、脇の下に吸い付いていた、タップリと血を吸って丸々と太ったダニを母が取ってくれたのをおぼろげながら覚えているが、かなりの時間吸われていたのだと思う。また、噛み付き方も過激らしく、厚生労働省は、「無理に引き離そうとすると、マダニの一部が皮膚内に残ってしまうことがあるので、吸血中のマダニに気が付いた際は、自分で取ったりするのではなく、できるだけ病院で処置してもらってください」と注意を呼び掛けている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html)。これを読んだとき、ネパールで苦しめられた黒いヤマビルも、タバコの火を近づけ自ら離れるのを待つように、と先輩から教えられたのを思い出した。ヒルもダニも、吸血動物は執拗で嫌いだ。
このマダニ、春から秋にかけて活動が活発になることから、野山で草むらに分け入る時などは、長袖、長ズボンを着用し肌の露出を控えるのをお勧めする。少々暑苦しいかもしれないが、蚊や毛虫、或いはヒルからの防御にも役立つ筈だ。転ばぬ先の杖ならぬ、咬まれぬ先の服である。
【文責:知取気亭主人】
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イカリソウ
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