2013年4月24日
先日、考古学ファンにとって、胸をときめかすようなビッグニュースが、紙面を飾った。日本やイギリスの専門家チームが、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に発表したもので、日本国内の凡そ1万5000年〜1万2000年前の縄文時代草創期の13箇所の遺跡から出土した土器を調べたところ、魚の油成分由来と見られる脂肪酸が見つかったというものだ。これは当時の縄文人が調理をしていた証拠だ。ただ、研究者の中には「儀礼に使った可能性もある」との見方もあるようで、日常的調理していたかどうかは不明だという。
「何故そんなことが分かったか」と言えば、土器に付いていた炭化物、所謂「おこげ」にその痕跡が残っていたからだ。北海道の「大正3遺跡」と、福井県の「鳥浜貝塚」で発掘された土器に付着していた「おこげ」成分を分析した結果、魚などの水産物に含まれる脂質が見つかったという。しかも、海産系と淡水産系の成分が検出され、川を遡上したサケも調理した可能性があるらしい。
この様に土器を使って煮炊きをしていたことを示す出土品は、中国の江西省で見つかった、凡そ2万年前のものもあるが、何を煮炊きしていたかの成分まで分析したものとしては今回の資料が世界で最も古いという。しかし、炭化していたとはいえ、こんなに古い食生活の痕跡が残っていたとは、凄いことだ。「我々の先祖」と言って良いのか、「先住民」と言えば良いのか分からないが、遥か昔の彼らは、一体どんな料理を作っていたのだろうか。味付けはどうしていたのだろう。想像すればするほど、ロマンは広がる。中学時代に考古学クラブに入り遺跡調査をしたことのある私としては、懐かしい思い出も蘇り、一層創造力が掻き立てられる。
そんな縄文時代草創期ほど昔ではないが、ほぼ時を同じくして、古代日本の謎解きをテーマにしたロマン溢れるある本に出会い、何十年振りかで日本史に俄然興味が湧いてきた。本の題名を「逆説の日本史 1古代黎明編」(井沢元彦著、小学館文庫)という。雑誌に連載していたものを本にしたものだから読んだ人もいるだろう。
私の主治医の一人T医師は、博学で勉強家だ。そのT医師が教えてくれたのが、今回取り上げた「逆説の日本史」だ。恒例となった診察後談議に花が咲き、「“卑弥呼”というのは、人の名前ではなく、社長や部長と同じ様なもので、太陽神に仕える巫女さんの意味だ」と説明しながら、それが書かれている本が「逆説…」の本だと教えてくれた。思い立ったが吉日とばかりに、早速買い求め、読んでみた。これが、先生の言うように面白い。これまでの通説を、ものの見事にひっくり返してくれる。しかも、「なるほど、そう考えればそうだな!」と納得させてくれるから、次へ次へと引き込まれてしまう。
第一章の「古代日本列島人編」から始まって、第二章が「大国主命編」、第三章が「卑弥呼編」と続き、第四章は「神功皇后編」、そして最後の第五章は「天皇陵と朝鮮半島編」で古代黎明編を仕上げている。それぞれ各章とも面白いのだが、序論として凡そ70ページも割いて「日本の歴史学の三大欠陥」論を展開しているのだが、これが実に面白い。タイトルに使っている「逆説の」の説明となっているのだ。
“織田信長”と、歴史学とは何の関係もなさそうな“中日ドラゴンズ”を題材に、一つ目の欠陥「史料至上主義」をやり玉に挙げ、史料に書かれていなければ「あたり前のこと」も認めようとしない、と強烈なパンチを繰り出している。次に、薬として認可されていないにもかかわらず、一時癌患者の一筋の光となっていた“丸山ワクチン”を題材に、「言霊の作用」という如何にも上品な表現を使って、日本の“学界”の儒教的師弟関係と閉鎖的な講座制度からくる「権威主義」を強烈に批判している。特に、この辺りを読んでみると、テレビドラマで見られる“大学病院における教授回診の異常さ”を彷彿とさせる内容に、憤りさえ感じてしまう。正に白い巨塔である。
そして最後に、「日本の歴史学最大の欠陥は、日本史の呪術的側面の無視ないし軽視だ」とし、福沢諭吉を矢面に立てている。考えてみれば、科学の未発達な時代であれば尚更呪術に頼っていた筈なのに、日本の歴史学はそういったものを軽視する傾向が強いという。その歪んだ歴史観を作った責任が、福沢諭吉にあるとしているのだ。何ゆえか?それは読んでのお楽しみとするが、著者の説明を読めば、成程と納得する筈である。
「聖徳太子が、“和をもって尊しとなす”を十七条憲法の第一条に持ってきた本当の意味は…」とか、「出雲大社の大国主命と伊勢神宮の天照大神の関係は…」、或いは「天照大神のモデルは卑弥呼」等の謎解きは、読む者を飽きさせない。これまで何となく曖昧模糊していたものがスッキリと晴れ、心地よく腑に落ちた思いだ。
とにかく読んでみれば、歴史学者とは違ったユニークな、そして案外あたり前な著者の考え方に引き込まれていく筈だ。著者は、「日本史は怨霊の歴史である」を基本的な考えに据え、日本の歴史を紐解いている。そんな見方をすると、「大国主命と天照大神の関係」も「卑弥呼にまつわる事柄」も、私などは簡単に「成程!」と納得してしまう。
「ヒミコは太陽神アマテラスのモデルであり、紀元248年9月に起こった皆既日食のために…」とするくだりなどは、松本清張との推理合戦も織り込まれ、読者を引き付けて離さない。今、一押しの一冊である。
【文責:知取気亭主人】

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逆説の日本史〈1〉古代黎明編
封印された[倭]の謎
【著者】井沢 元彦
【出版社】 小学館
【発行年月】 1998年1月
【ISBN】 978-4-09-402001-4
【サイズ】 縦16cm
【ページ】 488ページ
【本体価格】 \650(税込)
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