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知取気亭主人の四方山話
 

『都市の衰退』

 

2013年7月24日

19日の金曜日、驚きのニュースが飛び込んできた。アメリカの大都市デトロイト市が財政破綻をした、というものだ。デトロイト市と言えば、車社会のアメリカに在って“車産業の中心的都市”と高校時代からずっと思っていたし、子供の頃テレビを観て憧れた“繁栄するアメリカ”を象徴する都市の一つだと思っていただけに、俄かに信じがたいニュースだ。しかも、その負債総額は途方もない金額で、180億ドル(約1兆8千億円)を超えるとみられていて、アメリカの地方自治体の財政破綻としては過去最大となるらしい。

俳優のシュワルツェネッガーがカリフォルニア州知事選挙に立候補した当時、州の財政再建が争点となったことから、アメリカでも地方自治体の財政破綻が危惧されていることは承知していたが、まさか本当に起こるとは、しかも遠く離れた日本でも馴染があって、一時は栄華を極めたであろう大都市で起こるとは、ビックリである。加えて、アメリカにおける車の販売台数が好調だというニュースを最近聞いていただけに、二重の驚きだ。

地方自治体の財政破綻は、日本でも夕張市が良く知られるところだが、今回のデトロイト市にしても夕張市にしても、その町の基幹産業の衰退が引金になっている。産業の衰退に伴う人口の減少、人口減少に伴う税収の減少、そして最終的に財政破綻へと至った構図は、多分同じなのだろう。そこで、手元にある2冊の地図帳のデータと2010年の国勢調査結果を比較して、両市の人口の変化を調べてみた。なお、比較のために、2冊の内の高校時代に使った地図帳(昭和40年3月25日発行)で人口100万人以上の日米の都市も、経年変化を見ることにした。その結果が次の表である。
 

人口の経年変化(万人)

アメリカ

1950年代(1

1970年(※2

2010年(※3

全国

18,067

20,884

30,875

ニューヨーク

780

790

818

シカゴ

379

337

270

ロスアンゼルス

224

282

379

フィラデルフィア

216

195

153

デトロイト

190

151

71

サンフランシスコ

120

72

81

日本

1960(1

1974年(※2

2010年(※4

全国

9,342

10,958

12,806

東京(23区)

831

848

895

横浜

138

251

369

名古屋

168

207

226

京都

129

145

147

大坂

301

276

267

神戸

111

131

154

北九州

104

105

98

夕張

11

6

1

      ※1 帝国書院「新詳高騰地図 最新版」(昭和40325日発行)

      ※2 帝国書院「新詳高騰地図 初訂版」(昭和53930日発行)

      ※3 2010年アメリカの国勢調査

      ※4 2010年日本の国勢調査


こうしてみると、デトロイト市の人口減少がいかに激しいか良く分かる。2010年までの過去約50年間で、アメリカの総人口は約7割も増えているのに、全米第5位だった190万人のデトロイト市の人口は、約120万人、率にして6割強も減少し、とうとう100万人を割ってしまっている。人口だけ見れば、2010年のデータで191万人の札幌市が、50年前(50年前の札幌市の人口は60万人)にタイムスリップしたようなものである。そんな凄い状況を皆さんは想像できるだろうか。

規模は小さいが、日本の夕張市にしても、その衰退ぶりは異常だ。2010年までの50年間で、日本の総人口そのものは約4割弱も増えているのに、11万人を数えた炭鉱の町夕張市の人口は、数にして10万人、率にすると実に9割も減ってしまっている。これでは、財政破綻するのも無理からぬことだ。どうしてこうなってしまったのだろうか。

経緯を知らない他人の勝手な推測を述べるならば、規模の違いはあれ、両市とも(多分)財政が好調だった時代を経験してしまっているだけに、立て直しの為という大義名分があったとは言え、財政引き締めへの行動が遅れてしまったのだろう。今流行の言葉ではないが、変調に気付いた時に、「何時やるか、今でしょ!」を実行できなかった、と勝手に想像している。地方自治体には、民間企業にある「組織の消滅」が――合併は別にして――無いだけに、職員や住民の中に強い危機意識を持った人が少なかったのではないか、とみている。どんな組織も同じだな、との思いは強い。


ところで、上記の表を整理していて、ある日米の差に気が付いた。2010年のアメリカの国勢調査で100万人以上の都市だったのは、表の4市以外にヒューストン(201万人)、フェニックス(145万人)、サンアントニオ(133万人)、サンディエゴ(131万人)、ダラス(120万人)の5市が増えて、計9市になった。ところが、総人口がアメリカの半分にも満たない日本では、札幌市(191万人)、仙台市(105万人)、さいたま市(122万人)、川崎市(143万人)、広島市(117万人)、福岡市(146万人)の6市を加え、都合12市にもなる。「都市部への人口集中は世界的な流れ」と思っていたが、アメリカと比べる限り、日本の集中度合いが際立って見える。一体、何がそうさせているのだろうか。

日本人が持つ“集団への帰属意識”がそうさせているのか、“可住面積の少なさ”がそうさせているのか、はたまた“中央集権化”が顕著なのか、あるいはそれら全ての結果なのか、いずれにしても、暫く前から叫ばれている「地方分権」と益々かけ離れていく動きに思えてならない。それとは反対に、総人口で日本の2.4倍もあるアメリカで100万人を超える大都市が日本に比べ少ないのは、可住面積が比べものにならないくらい広い事と、州の独立性が強い事、そして独立心旺盛な国民性ならではの結果だと思う。住居を移すことに多分日本人ほど悩まないのだ。その分、人口の流動もダイナミックなのだろう。すると、都市そのものもダイナミックな変化に常にさらされる事になる。結果、地方自治体の「破綻予備軍」は、全米で10近くに上るらしい(7月20日、朝日新聞朝刊)。

ただ、日本も“対岸の火事”などと悠長な事を言ってはおれない。人口集中によるリスクは高まる一方だし、実質赤字の地方自治体もかなりある、と聞く。その上、巷では国家そのものの破綻が取り沙汰されているのだから…。

【文責:知取気亭主人】

  
チロリアンランプ

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