2013年9月11日
8日日曜日の朝、顔を合わせるなり、娘が嬉しいニュースを教えてくれた。7年後の2020年の夏のオリンピックとパラリンピックの開催地に東京が選ばれた、とのニュースだ。スペインのマドリード、トルコのイスタンブール、そして日本の東京の三つ巴の招致合戦に見事勝利したのだ。嬉しい限りである。招致合戦は、今年に入って熱を帯び、それぞれの国や都市で問題が起こる度に、やれこれでどこが“有利になった”とか“不利になった”とか下馬評が飛び回っていたが、この決着で、7年後のオリンピックに就いてはそんな下馬評が飛び回ることはもうないし、失言を心配する必要もない。ヤレヤレだ。後は、開催を成功裏に終わらせるための準備を、粛々と実行していくだけである。
それにしても、招致活動の動向がこんなに話題に上ったことは無かったのではないだろうか。古くは1988年の開催に立候補して招致に失敗した名古屋(この時の開催地はソウル)に始まり、次は2008年夏の大会に立候補した大阪が北京に破れ、そして今回招致に成功した東京も2016年の大会にチャレンジしてブラジルのリオデジャネイロに敗れているのだが、これほどまでに盛り上がっていた記憶がないのだ。振り返ってみると、失敗した何れの招致活動も、国民的な盛り上がりに欠けていた感がある。
国際オリンピック委員会(IOC)の委員が投票を決める大きな要素の一つとして、「オリンピック招致に向けての国民の支持率の高さ」が重要だ、と言われている。ところが、これまで日本の3都市が立候補して敗れた時は、経済情勢が悪かったのか、「オリンピックよりも経済の活性化に力を入れろ」とか「無駄な投資は止めろ」のネガティブキャンペーンが広く蔓延していたような記憶がある。立候補都市の市民すら冷めた意見が多かったのに加え、多額の事業費が掛かることへの批判から、多くのメディアもそのような論調が多かったのではなかっただろうか。
しかし、今回は違った。何かが、これまでと違った。敗れた当時と比べると、長い間冷え込んでいた国民のマインドが多少なりとも明るく、元気になりつつある、ということもあるだろう。昨年開かれたロンドンオリンピックでの“なでしこジャパン”を始めとする日本選手の大活躍が、大きな切っ掛けとなったことも、間違いない。しかし大本は、2011年3月11日に起こったあの「東日本大震災」がスポーツを見る目を変えさせたのではないか、とみている。
「東日本大震災」は、ある意味“平和ボケ”していた日本人に、衝撃の一撃を喰らわした大災害だ。その上、次々と難題が顕在化して終息の糸口も見えて来ない原発事故に代表されるように、未曾有の被害を蒙った被災地・被災者は、自分達の力だけではどうしようもない、厳しい現実を突きつけられた。時間が経つうちに、時間ばかりが過ぎて遅々として進まない復興に、疲労を覚え、失望感さえ感じ始めた被災者が増えて来ていたのではないだろうか。
そんな時、2012年に開催されたロンドンオリンピックで見せた日本人選手の活躍は、どれほど多くの人に生きる希望と勇気を与えた事か。「頑張ろう東北!」、「頑張ろう日本!」を合言葉に試合に臨んだ選手達は、スポーツを通じ、復興に向けて「もう一度頑張ろう!」の前向きな気持ちを被災者達に、そして何より、夢に向かって進む素晴らしさを子供達に教えたに違いない。勿論、私達にも大きな感動を与えてくれた。
この様な状況は、敗戦直後の混乱期に古橋広之進(1928年―2009年)の活躍に国中が熱狂した、あの時代と似ているのかもしれない。古橋は、次々と世界新記録を打ち立て、戦勝国アメリカの新聞記者に“フジヤマノトビウオ”と言わしめ、敗戦に打ちひしがれて下向き勝ちだった日本人に大いなる勇気と希望を与えたと聞いている。これこそが、スポーツの持つ力だ。
人は困難に立ち向かう時、同じように困難に立ち向かう他人の姿に自らを重ね、その人の頑張る姿を見て、乗り越える原動力を貰うことが良くある。オリンピックという大舞台で、世界の一流アスリート達と真剣に競い、活躍する日本人選手に自分を重ねた人も多いに違いない。想像でしか知らない血の滲むような努力もさることながら、真剣に、必死で戦う彼らの姿は、本当に輝いている。汗と躍動美、一瞬の静寂と歓声、そして涙、どれをとっても偽りがない。スポーツに限らず、偽りのない姿には人を動かす力がある。
ところで、「2020年東京オリンピック決定」のニュースを見ていて驚いたが、試算によれば、経済波及効果が3兆円もあるという。それが実際あるとすれば、素晴らしい事だ。ただ、手放しで喜んでばかりはいられない状況もある。安倍首相がプレゼンテーションで明言したように、福島原発の汚染水問題をきっちりと確実に処理しなければ、世界の不信感を買うのは必定だ。それは、日本の安全性そのものに影を落とし、外国人観光客や外国企業の日本離れを顕著なものにするだろう。そして、日本の信頼を根底から失う事になる。
また、2020年のオリンピックには、東日本大震災からの復興を成し遂げた日本をアピールする、という側面もある。多額の援助をしてくれた世界の国々に感謝の思いを伝えるためにも、この7年間で何としても東北の復興を成し遂げなければならない。開催中の安全確保も重要課題だ。加えて、パラリンピックを開催するのに相応しい国や都市なのか、という事も見られるだろう。
こういった事を考えると、「大震災からの復興」と「国土強靭化」に加え、「障害を持つ人達に優しい国づくり」も重要な課題だと言える。英知を結集して、これらの難題に取り組んでいってもらいたい。そして、閉会式の時に、「さすが日本、有難う東京!」と言ってもらいたいものである。
【文責:知取気亭主人】
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ルリマツリ
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