2013年9月18日
久しぶりの3連休となった、老人の日(15日)と敬老の日(16日:ハッピーマンデー)に掛けて、大型台風18号が列島を暴れ回った。愛知県の豊橋付近に上陸した後、広い暴風圏を保ったまま東日本の太平洋側を足早に縦断し、各地に大きな被害をもたらした。近畿以東の広い範囲に大雨を降らし、台風を先導するかの様に、突風も吹き荒れた。京都では、観光名所として知られた嵐山も豪雨に見舞われた。
16日朝のニュースでは、桂川に架かった渡月橋が泥水に洗われる映像が流されていたが、付近の住人も記憶にない程の洪水だという。この桂川を始め、暴風域に入った各地で河川の増水が相次ぎ、土砂災害の危険性も高くなったため、8月30日から始まった「大雨特別警報」が京都、滋賀、福井の3府県に初めて発令され、テレビでは、「ただちに命を守る行動をとってください」の呼びかけが、繰り返し流されていた。
久しぶりに上陸した台風だったが、日本近海に来て衰えるどころか発達する、というこれまでにない特異な動きを見せた。その原因は、日本近海の海水温の高さにある。海水温の異常な高温は、今回の台風ばかりでなく秋の味覚サンマ漁にも影を落としていて、気象以外にも深刻な影響を与え始めている。「今夏の異常気象の原因の一つにも日本近海の海水温の高さがある」というが、ほぼ間違いなく地球温暖化の影響だ。一体、どこまで気温は上がり続けるのだろうか?
9月8日の朝日新聞朝刊に依れば、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書案に、「1986〜2005年の最近20年間と2081〜2100年の今世紀末20年間を比較すると、気温が0.3〜4.8度、海水面が26〜81センチ上昇する」との予測を盛り込むのだそうだ。予測は四つのシナリオで検討していて、最大の上げ幅ではあるのだが、それにしても4.8度の上昇とは物凄いことだ。しかし、今回の台風も含め、今年の異常気象ぶりを見ていると、この予想があながち絵空事ではない、と思わずにはいられない。そして、それを裏付ける本も出版されている。
最近読んだ、「2052 今後40年のグローバル予測」(ヨルゲン・ランダース著、野中香方子訳、日経BP社)という本だ。地球環境をグローバルな視点で取り扱った、我々への警鐘本である。著者は、1972年に、仲間と共に「成長の限界」(ローマクラブ)を著している。「今後130年間に、地球上では何が起こるか」との未来予測図をシナリオ分析によって描き、人類に警鐘を鳴らした本である。それから40年が経ち、その間の検証と共に、更に40年経った2052年の世界がどうなっているかを予測したのが、今回紹介する本書である。
気温上昇について見ると、本書では、工業化前の時代と比べると2080年には2.8度上昇する、と予測している。理科年表(国立天文台編)に依れば、「世界の年平均気温は、統計を取り始めた1891年以降、100年あたり0.67度の割合で上昇している」というから、“気温の統計を取り始めた”のと“工業化が始まった”のとほぼ同じ時期だとすれば、これまで既に凡そ0.7度上昇している事になる。そして、これからの約70年間で更に2.1度も上昇する、との予測だ。また、海面は、2010年から2050年の間に36センチ上昇し、工業化前の時代に比べると56センチ高くなる、との予測を立てている。
こういった著者の警鐘シナリオを読むと、今回ICCPが報告書に盛り込むという予測値の最大値(気温の4.8度上昇、海面の81センチ上昇)も有り得ない事ではない、と納得させられる。勿論、我々地球人が温暖化防止に向けて何の手も打たなければ、更にもっと手厳しいシナリオが用意される事になるのだろう。
著者の言葉を借りれば、「成長の限界」を発表した1972年当時には、「グローバル社会が地球の環境収容能力を超えて成長することを誰も想像していなかった」という。しかし、40年経った現在、「地球に生存する生物に対する人類の需要は、生態系から生産される供給量、つまり地球のバイオキャパシティを約40パーセントも超えている」ことが明らかになったという。そして、「温室効果ガスの年間排出量は、すでに世界の海洋と森林が吸収できる量の2倍になり、大気中濃度が上昇している」とも述べている。しかも、海水温の上昇によってサンゴの死滅が各地から報告されており、海洋の吸収能力は衰える一方だ。また、熱帯雨林の減少に代表されるように、森林の吸収キャパシティの衰えも明らかだ。こういった衰えによって、我々が「天然資源」と呼んできた「自然資本」が失われる、と著者は警鐘を鳴らす。
「自然資本」とは良い呼び方だ。この「自然資本」の減少は、「需要超過」の結果として起こり、それは「政府の“決定の遅れ”が惹き起こす」と厳しく指摘している。正鵠を射た言葉だ。私もその通りだと思う。一旦「需要超過」が起きると、漁獲量や漁獲時期を制限した漁業に代表される「管理された衰退」か、北海道のニシン漁に代表される「自然任せの崩壊」のどちらかによって、持続可能なレベルまで引き下げるしか方法はないのだという。もう既に「需要超過」は起こってしまっている、と著者は見ている。私もそう思う。
では、私達はどうすべきなのだろうか。気温の上昇を閾値であるプラス2度以下に保つためには、「地球社会は、①エネルギー効率を上げ、②再生可能エネルギーに切り替え、③森林破壊をやめ、④CO2の回収・貯留(CCS)を行わなければならない」と本書は指摘している。そして、最後の12章に「あなたは何をすべきか?」と題した提案を行っている。是非一読して頂きたい!そして、せめて“「自然資本」を「管理された衰退」に留める工夫”を、見つけようではないか!
【文責:知取気亭主人】

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2052 今後40年のグローバル予測
【著者】ヨルゲン・ランダース
【訳】野中香方子
【出版社】 日経BP社
【発行年月】 2013年1月
【ISBN】 978-4-8222-4941-0
【サイズ】 縦21cm
【ページ】 510ページ
【本体価格】 \2,310(税込)
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