いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『赤と白』

 

2013年9月25日

夜露の訪れとともに、今、ゆったりとした季節の移り変わりを実感している。あんなに暑かったのに、9月に入った頃から秋の虫が鳴き始め、夜の空気も随分と心地良くなって来た。最初は遠慮がちだった虫たちも、コオロギ、鈴虫、クツワムシなどと種類は徐々に増え、声も大分大きくなってきた。最近では、夜のウォーキングをしていると、「もっと速く歩け、もっと速く!」と声援してくれている様な大合唱だ。

それにしても、あの真夏の暑さはどこへ行ったのだろう。日中こそ30度近くになる日もあるが、夜も8時を過ぎればめっきり過ごし易くなって来た。「暑さ寒さも彼岸まで」と言われる(秋の)彼岸も、26日には明ける。そうすれば、いよいよ本格的な秋の訪れとなる。そこで、秋の味覚、葡萄から造られる葡萄酒にあやかった訳ではないが、今回は「赤と白」のタイトルを付けて、日本のゆく夏と来る秋の狭間に咲く、馴染み深い花を紹介したい。

まず、“彼岸”にまつわる花だ。「秋の彼岸」と聞けば、多くの人が思い浮かべるのは、まず“彼岸花”だろう。燃えるような真っ赤な花は、花の少ないこの季節に在って、草地の中で一際目立つ。遠く離れた所からでも直ぐそれと分かる。飛び切りの存在感だ。ひょっとすると、あの赤は、「球根には毒があるぞ」というメッセージなのかもしれない。そうでないと、余りにも目立ちすぎる。飢饉のときには「球根を粉にし、水に晒して毒を抜いて食べた」というが、あの色では、かなりの勇気が要った事だろう。

そこにいくと、同じ彼岸花でも“白”はそこまで押しが強くない。赤も花の形そのものは美しいのだが、あのど派手な色の毒気に中てられてしまって、花の形を愛でる余裕が無くなってしまう。しかし、白い彼岸花は、まるで白無垢を来た花嫁の様に、形の美しさも引き立って、色と形のバランスがとても良い。赤には悪いが、とても同じ種類の花だとは思えない。


赤い彼岸花

白い彼岸花

彼岸とは後先になったが、今年の9月19日は、俗にいう「中秋の名月」だった。直前まで大暴れしていた台風18号が雲と塵を吹き飛ばしてくれたおかげで、台風一過、澄み切った夜空に、とてもキレイな満月が浮かんでいた。虫たちの合唱をお供に、クッキリと浮かんだ月をウォーキングしながら観賞する、という滅多にない事を楽しませてもらったが、中々乙なものである。時々躓くのが欠点ではあったが…。

ところで、「中秋の名月」と言えば、“団子”である。そして、飾る花と言えば、“薄(すすき)”に“萩”だ。その“萩”にも、彼岸花と同様に“赤”と“白”がある。ただ、“赤”と言っても彼岸花ほどきつくはなく、紫がかった淡い色だ。マメ科独特の柔らかな形と相まって、赤も白も共に控え目だ。その佇まいは、「“中秋の名月”の主役はお月様、我々はあくまで引き立て役」と分を弁えている様にも見える。昔の人にとっては、そこが良かったのかもしれない。エッ、団子が主役ですって?誰だ、そんな無粋なことを言うのは…?


山萩

白萩

さて、それでは最後の“赤”と“白”の花を紹介しよう。夏の名残として選んだのは、この猛暑にもめげず頑張って咲いてくれている、サルスベリである。「百日紅」と書くこの花は、その字の如く花持ちが良く、7月に入ると咲き始め、10月の初旬頃まで楽しめる。我が家の近くにも何本か植えられていて、近くを通るたびに目の保養をさせてもらっているのだが、その多くは“赤い花”だ。ただ、“赤”と言っても、彼岸花ほど強烈ではなく、“赤紫”と表現したほうが似合う色合いだ。また、下の写真のようにピンクもある。

百日紅の花は、写真のように群生して咲く。それもあって、赤い百日紅は、集まると結構な存在感を示す。そこにいくと、白やピンクは、彼岸花と同様、赤に比べると随分と瀟洒で控えめだ。ところが、枝先で咲き誇っている姿はその様に色によって随分と違うのだが、散った花びらを拾ってよく見ると、縮れて波打ったレースに似た姿は、どの色の花でも、勿論赤い花でも、意外と奥ゆかしく可憐に見える。その在り様は、個人はか弱いものの集団になると俄然強くなる、そんな人間の習性と相通じているようにも見える。

考えてみると、意外と、そんなところが、暑い時期に100日間も咲き続けている秘訣なのかもしれない。


赤い百日紅

ピンクの百日紅

白の百日紅

【文責:知取気亭主人】

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.