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知取気亭主人の四方山話
 

『夢のノーベル賞候補』

 

2013年10月16日

今年のノーベル賞が発表された。期待された日本人の受賞は、毎年文学賞の有力候補として名前の挙がる村上春樹氏も含め、誠に残念ながら一人もいなかった。因みに、「物理学賞」はヒッグス粒子の存在を予言した、英エディンバラ大学名誉教授のピーター・ヒッグス氏とベルギー・ブリュッセル自由大学名誉教授のフランソワ・アングレール氏の2名が、また「化学賞」は、米ハーバード大学名誉教授のマーティン・カープラス氏と米スタンフォード大教授のマイケル・レビット氏、更に米南カリフォルニア大特別教授のアリー・ウォーシェル氏の3氏が受賞した。昨年、京都大学教授山中伸弥氏の受賞に沸いた「医学生理学賞」は、米エール大教授のジェームズ・ロスマン氏と米カリフォルニア大教授のランディ・シェクマン氏、米スタンフォード大教授のトーマス・スードフ氏の3氏だ。

また、ここ数年、毎年のように村上春樹氏に期待している「文学賞」は、村上氏自身が翻訳を手掛けた事があるという、カナダのアリス・マンロー氏が受賞し、村上氏はまたも選に漏れた。一方、「平和賞」では、史上最年少で受賞するのではないかと期待された、パキスタンのマララ・ユスフザイさん16歳は選に漏れ、「化学兵器禁止機関(OPCW)」の受賞となった。最後の14日に発表された「経済学賞」も、「化学賞」、「医学生理学賞」と同じく、米の大学教授3氏に決まった。

ノーベル賞は、ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルの遺言によって始まった、世界的な賞であることは良く知られている。ノーベルの遺言では、「私の遺言執行者によって安全な有価証券に投資で持って基金を設立し、その利子は、毎年、その前年に人類のために最大の貢献をした人々に、賞の形で分配されるものとする」と書かれているらしい。素晴らしい理念である。ただ、真に残念ながら、対象となるのは前述した6部門だけで、「地質学賞」や「生物学賞」、また「工学賞」や「数学賞」もない。先の遺言の中に書かれていないのが理由らしいが、6部門以外の分野でも目覚ましい業績を残している研究者も数多くいるだけに残念だ。

6部門とあまり関係の深くない分野で仕事をしていると、「ノーベルさん、片手落ちじゃないですか?」と文句の一つも言ってみたくなる。と言うのも、もし「地質学賞」があれば、最有力候補として押したい発見があるからだ。古くは、1912年に「大陸移動説」を発表したアルフレッド・ウェゲナーなどもそうだ。彼は1930年に亡くなっているから、1901年に始まったノーベル賞には十分間に合っていた。尤も、「存命中に彼の説が学会で受け入れられることは無かった」というから、「地質学賞」の分野があったとしても、多分難しかっただろう。ウェゲナーの名前を出したのは「大陸移動説なら専門家以外でも知っている」と思ったからだが、今私が一押しするのは、彼ではない。ある国際研究チームである。

NHKでも特集番組を組んでやっていたからご存じの方も多いと思うが、福井県の若狭地域にある三方五湖のひとつ、水月湖から、世界各地の気候変動などの出来事をほぼ正確に測定できる、「年縞」と呼ばれる泥やプランクトンが積み重なった堆積層が採取された。海や河川との接続が無く、その上深く、接続している三方湖、菅湖、日向湖との緩やかな水の出入りがあるだけ等の特殊な環境が幸いして、水月湖の湖底には、綺麗な「年縞」が出来上がったという。また、湖周辺の断層の影響で「堆積分だけ沈降する」という地質環境も、この美しい「時間の物差し」を現代に残す大きな役割をしている。その「年縞」を乱すことなく掘削し、凡そ5万年に及ぶ精密な「時間の物差し」を完成させた国際研究チーム、彼らが私一押しの「夢のノーベル賞候補」なのだ。

採取された「水月湖の年縞」は、総延長70mにも及ぶという。これは、過去約16万年分にあたるらしい。しかも、この約16万年分が欠けることなく連続している、というからまた凄い。国際研究チームは、この「年縞」に含まれる葉っぱなどから、炭素(C)の放射性同位体C14とC12の存在比率を調べて、年代決定の精度を高めていったのだが、10月1日の日本経済新聞によれば、約3万年前と約4万年前に起きた事象は、それぞれ300年から400年新しいことが分かったという。驚くべき精度である。

そんな高い精度を可能にしたのは、「水月湖の年縞」そのものの“奇跡的な保存状態の良さ”もさることながら、研究チームの精緻な分析も欠かせない。その結果、日本の「水月湖の年縞」が、過去5万年以内に起きた地震や噴火などの年代を決める正確な「時間の物差し」として、地質学的年代決定での世界標準に選ばれたのだ。凄いことである。

世界の歴史の「時間の物差し」が、地震が頻発し台風や豪雨に度々襲われ、しかも火山の多い、その上経済活動が活発で人為的に土地の改変が行われ易いこの日本で、5万年もの間、乱されることなく静かに歴史の証拠を積み重ねて来ていたとは、信じ難い事だ。奇跡だ、と言っても過言ではないだろう。そして、何にも増して、水月湖に着目した研究者の先見の明にも頭が下がる。調査開始は1991年だというから、もう20年余も前になるのだ。この20年で、“若狭地方の水月湖”から、“世界の水月湖”へと躍進したことになる。

そんなことを考えると、水月湖自体の世界ジオパークへの道は、極めて近そうだ。ただ、このままでは、ノーベル賞受賞への道は私の夢だけに終わってしまう。そこで提案だが、放射性炭素年代測定法(炭素14法)の理論的限界が約6万年前までで、実際には5万年程度とされている測定限界、これを打ち破る方法を見つけ「水月湖の年縞」として採取された16万年間分全ての「時間の物差し」を見事確立させた暁にはノーベル賞の門戸を開く、というのはどうだろうか。ノーベル財団の方々には、是非、検討して頂きたいものである。

【文責:知取気亭主人】

  
ガマズミ

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