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知取気亭主人の四方山話
 

『生命の神秘』

 

2014年2月5日

また、生命科学の分野で、日本人科学者が金字塔を打ち立てた。しかも、その中心にいるのが30歳のうら若き女性研究者、という事もあって、巷ではこの話題で持ちきりだ。新聞でも、テレビでも、ネット上でも大々的に報じられているから、恐らく、日本に住んでいる人ならこのニュースを知らない人はいないだろう。加えて、今回の研究成果がこれまでの生物学の常識を覆す大発見だと聞けば、日本中が歓喜に沸くのも無理からぬことである。皆さんご存知の話題の主は、理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーである。そして、世界の生命科学者の目を白黒させたのは、これまでの方法と全く違う、そしてあっと驚くほど簡単な方法で成功した、“新型の万能細胞作製”のニュースだ。

一昨年ノーベル賞を受賞した山中教授が開発したiPS細胞の報道がなされた時も、生命の不思議を教えられ、「万能細胞を作り出すのは並大抵ではない」と思っていたのだが、今回小保方さんの説明を聞いていて、説明が上手いのか、あまりの簡単な方法でビックリしてしまった。これまでの常識を疑う、そんな科学研究の基本を改めて教えられたビッグニュースでもあった。

若いこと、女性であること、白衣でなくお婆ちゃんから贈られた割烹着を着て研究をしていることなど、小保方さんに関しては、話題に事欠かない。しかし、世界中の生命科学者を驚嘆させたのは、何と言ってもその驚くほど簡単な作り方にあるらしい。

新聞とネットを情報源としてまとめると、筋肉や臓器、あるいは脳など体のあらゆる細胞に変化できる「万能細胞」の作り方は、受精卵を使う「ES細胞」と、ご存知山中教授の「iPS細胞」の二つの方法がこれまで知られていた。しかし、「ES細胞」には倫理的な問題が、また「iPS細胞」にはがん化の危険性が指摘され、その上、どちらも人工的に作られたもので、自発的に初期化(どんな細胞にも変化できる状態の頃に戻る事を言うらしいが、私的には“若返り”と呼びたいところだ)したものではなかった。ところが、「STAP細胞」と名付けられた今回の「万能細胞」は、これまでの方法に比べて、とにかく簡単で、しかも自発的に初期化するところが大きく違うという。

その作製方法をおさらいしてみる。「研究グループの説明による…」と書かれた新聞報道に依れば、「STAP細胞」は、マウスのリンパ球などの細胞を紅茶程度の弱酸性の溶液(pH5.7、温度37度)に30分ほど浸け、上澄みを取り除いて、その後3日間培養するだけで作製できるというから、何とも驚きだ。全てが初期化するわけではないし、大人のマウスのリンパ球を使うと初期化もし難くなるというが、そんな説明だけ聞けば、素人の私でも出来るのではないか、と錯覚してしまう。しかも、これまでの方法に比べて、より効率的に作れるというから、再生医療を目指す研究者や、難病に苦しむ患者にとっては何よりの朗報だ。

しかし、山中教授を始めとする世界の名だたる研究者が幾多の苦労を乗り越えてやっと辿り着いた「万能細胞作製」を、これまでの常識を覆すアプローチで成し遂げるとは、恐らく、――小保方さん当人を除けば――世界の研究者の誰一人として予想できなかったことだろう。その柔軟な発想と執念には、本当に頭が下がる。インタビューに答えて、「眠れない日も、涙を流した日も数知れない」と明るく語っていたが、そんな苦労を微塵も感じさせない朗らかさに、日本の明日は明るい、と感じた人も多かったのではないだろうか。

次は、これまでの方法には無い、自発的初期化についてだ。細胞初期化のトリガーは、ストレスだという。細胞に厳しいストレスを与えると、まるで幼子に弟や妹が出来ると赤ちゃん返りするかのように、初期化するのだという。細胞分裂自体も私にとっては神秘だが、分裂したものがどんな細胞にも変化できる状態の頃に戻るとは、本当に神のみぞ知る領域だ。

知らなかったが、細菌や植物では、厳しい環境にさらされると自発的に初期化することが、以前から知られているのだという。確かに、体を切り刻まれても、夫々がひとつの個体として生命を維持できる下等生物も知られてはいるが、哺乳類では有りえない、と考えられていたらしい。そんな科学界の常識がよもや間違っているとは、その分野の専門家は誰一人、思ってもみなかったのだろう。今回の研究論文の投稿をイギリスの科学雑誌ネイチャーに初めて投稿したときに、「何百年にわたる細胞生物学を愚弄している」との厳しい意見が付けられて突き返された、とインタビューで語っていたが、それほど常識破りらしい。そんな常識破りを成し遂げたのが、日本人研究者だというのは、何度聞いても嬉しいものだ。

ヒトの体は、1個の受精卵から1→2→4→8…と細胞分裂を繰り返し、凡そ60兆個もの細胞で成り立っているのだと言われている。そして、細胞の分裂できる回数は、細胞の種類によって違い、繊維芽細胞は何と50回ほども繰り返すのだという。一方、神経細胞や骨細胞などのように分裂できないものもあれば、血球を作る造血幹細胞などのように何回でも分裂できる細胞もあるという。元を糺せば同じ受精卵から分裂した兄弟なのに、こうも違うとは不思議なものである。尤も、脳や目、鼻、口、手足など、全く違う器官や部位になるのも不思議なのだが…。そして、もっと不思議なのは、ストレスを与えられるだけで初期化するという事だ!まさに生命の神秘である。

【文責:知取気亭主人】

  
焼酎ビンの自動販売機(常識を疑え!)

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