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知取気亭主人の四方山話
 

『衛生管理』

 

2014年3月19日

先日、家内が懐かしい名前の病気に罹った。子供の頃よく耳にしていた病だが、最近は殆ど耳にする事も無く、そんな病気が在った事すら忘れていた。ただ、“忘れた”と言っても、他人の名前や顔や物の名前さえ忘れる健忘症とは違い、病気の名前を忘れるのは、そんなに恥ずかしい事ではない。“忘れた”という事は、それほど長い間聞いたことがないという事であり、私や家族がその病気と縁遠くなったという意味でもある。

したがって、聞かなくなって久しいのは、私自身が長い間罹っていないこともあるが、「根絶した」とまでは言えないものの、日本国内の患者が減ったため病院や保健所などで注意喚起をしなくなったからではないか、と素人判断している。何時頃からだか記憶はないが、病院で良く貼られていた注意を促すポスターも見られなくなった。私が定期的にお世話になっている、主治医お二人の病院でも見かけない。また、私の家族もそうだし友人や知人でも、随分長い間、その病を発症したという記憶がない。ではどうしてそんなに患者数が減ったのだろうか、と考えてみた。素人考えでは、恐らく、医療の進歩は勿論、衛生的な生活を送られるようになったお蔭であろう。

私の子供の頃、昭和20年代後半から30年代に掛けては、今の若い人には想像もできない様な、衛生観念の中で生活をしていた。尾籠な話で申し訳ないが、便所でお尻を拭くのは“ちり紙”の大きさに切りそろえた新聞紙か、そうでなければ、原料となった新聞紙の残骸がそこかしこに見え隠れするネズミ色の粗末な“ちり紙”がいいとこだった。今皆さんが何気なく使っている、トイレットペーパーなどという便利な物が出て来るのは、ずっと後になっての事だし、ましてやウォシュレットなどは考えもつかない時代だった。また当時は、現代の様に蛇口を捻ればお湯が出るような事も無く、真冬の手洗いは、必然的に敬遠しがちになっていた。今日本に住む殆どの人が当然の様に送っている便利で衛生的な生活に比べると、当時のそれは、月とスッポンほどの大差があった。

それは見た目にも表れる。我々が子供の頃は、特に小学生ぐらいまでは、青っ洟を垂らした子が多く――勿論私もその一人である――、着た切り雀の袖口は、青っ洟を拭いたお蔭で黒光りしていたものだ。しかし、今はそんな子をとんと見なくなった。当時はポケットティッシュなどという洒落たものは無かったから、男の子も女の子も子供は皆、洟は袖口で拭いていたものだった。

一方、洗濯機も田舎では殆ど見かけない時代だったから、洗濯はタライと洗濯板を使ってやっていた。当然のことながら、服、特に上着を毎日洗濯するなどという面倒くさい事は、多分、殆どの家庭ではしていなかったと思う。加えて、当時は家に風呂がある家庭も然程多くなく、「毎日風呂に入る」という今では多くの家庭で普通にやっている事も、――我が家も含めて――まだ一般的でなかったと記憶している。何しろ、風呂にしろ、煮炊きにしろ、薪を燃料にしていた時代で、灯油だ、ガスだ、電気だ、といった新しいエネルギー源を使う便利な瞬間湯沸し設備が出て来るのは、随分後の事である。したがって、多くの家庭が“銭湯”を利用していた。必然的に金が要る。となると、貧しかったあの時代では、“毎日”という訳にはいかなくなるのだ。

そんな塩梅だから、子供の“体”も“着ている服”もそれなりに汚れていて、着ている服の袖口が黒光りしていても何の不思議もなかった。前置きが随分長くなったが、そうした不衛生な子供時代に良く罹り、今の衛生的な生活のお蔭でとんと耳にしなくなった懐かしい病とは、結膜炎である。

結膜炎は夏に良く流行っていた、と記憶している。誰か一人発症すると、じゃれ合っているうちにうつったり、同じプールに入ってうつったりしたのだろう、結構身近なところで流行っていたように思う。加えて、汚れた手で目の周りを触れば、目の病気に罹る確率は、必然的に高くなる。衛生観念が未発達な当時としては、結膜炎の罹患はある種仕方ないところがあったのではないだろうか。

調べてみると、結膜炎には色々な種類があるらしく、原因となる物質やウイルス、細菌はとても幅が広いらしい。大きく、@ウイルス性結膜炎、A細菌性結膜炎、Bアレルギー性結膜炎の3種類に分類されるという。今回調べてみて、私が高校時代に罹った、感染力が強いと言われたトラコーマも、実は結膜炎の一種だったことが分かった。当時の我が家の衛生管理の悪さが原因で罹患したのだろう。この様に、感染しないBアレルギー性結膜炎を除けば、結膜炎は衛生管理の良し悪しが大きく関わっていると言える。

時々、発展途上国の子供達への支援を呼びかけるテレビや写真を見る事があるが、子供達に“目やに”が付いていることがよくある。明らかに、衛生状態が悪いのだ。結膜炎と雖も、失明に至ることもあるというから、十分注意しなければいけない。そういう意味では、発展途上国の子供達への支援もできる限りしたいものである。

なお、家内が罹ったのは感染力が比較的弱いA細菌性結膜炎で、インフルエンザと風邪に続けて罹り体力がすっかり弱っていたからなのだろう、珍しい病気になった。ただ、「風邪薬に」と貰っていた抗生物質で、直ぐに良くなった。家内の名誉のためにも言っておくが、多分、我が家の衛生管理が悪い訳では…。

【文責:知取気亭主人】

  
ロウバイ

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