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知取気亭主人の四方山話
 

『保全から防衛へ』

 

2014年5月28日

昨年11月に発見された、小笠原諸島西之島近くの海底火山噴火による陸地は、西之島を取り込みながら、今も成長を続けている。監視を続けている海上保安庁は、半年余り経った5月21日現在、東西約1300メートル、南北約1050メートル、面積0.86平方qまで成長している、と発表した。気になるマグマの供給もまだ続いているらしい。拡大のスピードは落ちるかもしれないが、どうやら、今暫くは成長してくれそうだ。

しかし、発見の時も話題になったが。「自然現象による島の出現」という世界でも珍しい現象を、生きている間に、その上我が日本で立ち会えるということは、本当にラッキーな事である。また、人が住めるようになるのかどうかは別にして、国土が増え、排他的経済水域(EEZ)が拡大するということも、国土が狭く資源に乏しい日本としては、誠に喜ばしい事である。ところが、そんな喜ばしい事が起こっている一方で、国土に関して懸念すべき事態が暫く前から報道されている。外国資本による森林買収だ。中でも、水源地となっている奥地の森林が含まれているというから、気が気ではない。

外国資本による森林買収に関する調査の結果については、林野庁がプレスリリースを発表している(http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/130412_1.html)。それに依れば、居住地が海外にある外国法人または外国人と思われるものによる平成18年〜24年の森林取得は、判明しているだけで68件、801ha(≒8.0平方q)に上るという。成長した西之島の約10倍もの面積が、外国資本によって買われている事になる。

その内訳は、以下の表に示すとおりであるが、見てのとおり北海道が突出して多い。

バブルの時に日本資本が海外の著名な建物を買い漁って物議を醸したこともあるとおり、外国資本が土地や建物を買う事自体、多くの国では違法でもないし、きっと日常的に行われている事だとは思う。しかし、これらの取引は、あくまでも、国民の共有資源や住民の健康・生活に悪影響を及ぼさない、という大前提の上に成り立っていなければいけない。

ところが、水不足に悩む国にとって、森林売買や地下水規制の緩い日本は、水の中でも特に飲料水確保のまたとない適地になっているのではないだろうか。何しろ、世界では制限している国が多いというのに、日本では自分の土地であれば自由に地下水が汲み上げられるのだから、土地さえ取得すればいいのである。

買収している海外資本としては、圧倒的に中国資本が多いらしい。伝え聞く、中国における水不足や水の汚濁を考えると、日本での水確保に奔走するのも、さもありなんと納得できる。しかし、仮に飲料水確保が目的であるならば、日本国民共有の財産を侵害しかねない訳で、納得はできるが迷惑な話である。

夏場になると度々水不足に陥る四国や九州、関東などの一部地域を除けば、日本は雨が多く水には困らない、と思われがちだが、決してそうではない。狭い国土に多くの人口、急峻な地形と急勾配な河川、忽ち流れ出してしまう激しい雨、こういった事を考慮すると、日本の水資源は有り余るほど余裕がある訳ではない。日本の一人当りの淡水資源量は4,430トン/年/人で、世界の中でも決して多くなく(世界の平均は7,690トン/年/人)、アメリカ(9,940トン/年/人)の半分にも満たない(※1)。ましてや、これからますます顕著になるであろう異常気象によって、水不足に陥る地域の拡大も考えられる。したがって、水源地は国民全体の財産、国民の命の源、といっても過言ではない。過言ではないのだが、先見の明のある政治家や役人がいなかったせいなのか、これまで、地下水など水資源を守る法律がなかったのだ。そこを突いての森林買収だったに違いない。

遅きに失した感があるが、外国資本による森林買収の特集番組が民放で放映されたり、各地の地方議会で取り上げられたりして、やっと水資源を保全するための法律が出来た。4月に公布された「水循環基本法」だ。報道によれば6年越しの成立だという。随分時間の掛かるものである。

この法律によって何とか水資源の保全が見えてきた。しかし、この水循環基本法には、土地所有者の責務についての規定が盛り込まれていない。民法の「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」(第207条)との兼ね合いがあるらしいのだが、集団的自衛権ばかりでなく、水資源の防衛についても真剣に考える時代になってきた、と感じているのだが…。

※1:人口は1990年のデータを使用。出典は、中西準子著「水の環境戦略」(岩波新書)。
 

【文責:知取気亭主人】

  
松の雄花

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