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知取気亭主人の四方山話
 

『百薬の長』

 

2014年6月4日

1週間ほど前から、日本中が急に暑くなってきた。ここ金沢でも、梅雨入りさえも未だだというのに、先月の後半には早くも真夏日を記録した。例年より随分早い、と感じているのは気のせいだろうか。お蔭で、夏服の準備も整わないうちの急な気温上昇で、家内も私もあたふたとしている。身体の方もあたふたとしていて、ひと月ほど前に袖を通したばかりの夏用スーツの上着は、早くも“我慢ならん”と脱ぎ捨て、堪らず半袖のYシャツを引っ張り出してきた。今からこれでは、この先が思いやられる。

とは言うものの、基本的に汗を掻くのが好きなこともあって、夏は、どちらかと言うと好きな季節である。加えて、ビールが格段と美味しく味わえる季節、というのも夏を好む密かな理由の一つである。ビアガーデンでよし、バーベキューでよし、キャンプでよし、休みの時の昼寝前の一杯でよし、それから…、とまあこう言った具合で、暑い時に飲むキンキンに冷えたビールは、男女を問わず、呑兵衛にとっては格別の存在だ。また、どんなに酒の上での失敗を重ねていても、「喉元過ぎれば“失敗”を忘れる」ではないが、一口飲めば、在った筈の苦い記憶はどこかへ飛んで行ってしまう。ところが、同じ“苦さ”でも、あの“喉越しの苦味”だけは、幾つ齢を重ねても堪らない。毎年夏になると、都合の良い事に喉の記憶だけは蘇ってきて、手は自然とビールに伸びる。

しかし、酒好きが手を伸ばすのは、夏のビールに限ったことではない。多少の好き嫌いはご愛嬌で、夏であれ真反対の冬であれ、兎に角一年中、あらゆる手立ての御託を並べ、日本酒、焼酎、ワイン等々、手が届く物であれば何でも飲んでいる。正直、飲む理由も、種類も何でも良くて、楽しく飲めればいいのだ。かく言う私がその口だ。

ただ、楽しい気分を通り越し、己をコントロールできなくなるほど大量に飲んでしまったり、長年にわたって大量飲酒を繰り返したりしていると、体を壊してしまい、「百薬の長」も「百害あって一利なし」になってしまう。良く聞く飲酒による肝機能障害ばかりでなく、人によっては、精神に支障をきたす場合もある。そこまで飲み続けると、いわゆる「アルコール依存症」と診断される事になるのだが、深刻な場合には、暴力事件を惹き起こしたり、家庭崩壊の引き金になったりしている。

酒は、使用が禁止されている覚せい剤や麻薬と違い、二十歳以上なら誰でも簡単に手に入れる事が出来るため、一旦依存症になってしまうと、断ちきるためには大変な苦労が必要らしい。古くから「断酒会」というアルコール依存症から抜け出るための患者の会があるくらいだから、日本にもかなりの数の依存症患者がいるのだろう。昔に比べるとストレスが増え続けている現代社会であることを考えると、患者数は増えている可能性すらある。過度な飲酒に起因する家庭崩壊もきっと多いのだろう。

そんな背景があってのことだと思うが、昨年の年末も押し迫った2013年12月13日、「アルコール健康障害対策基本法」なる法律が公布された。WHOが2010年5月の総会で“アルコールの世界戦略”を決議したことを受けてのことらしいが、覚せい剤などの薬物と同様、アルコールも依存性が高く、世界的に問題となっているということの表れなのだろう。その辺のところは、アルコール依存症を専門に扱っているサイト、ASK(特定非営利活動法人アスク)(www.ask.or.jp/index.html)に詳しく載っている。また、呑兵衛にとって気になる法律は、全文がアルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク、略して「アル法ネット」に掲載されている(http://alhonet.jp/law.html#law-3)。朝のうちは「今日こそ酒を抜こう!」と決めていたのに、夕方になると自然と手が伸びてしまうという御仁は、是非一読することをお勧めする。どちらのサイトも呑兵衛には必見だ。

「アル法ネット」に掲載されている情報に依れば、2004年にまとめられたWHOの報告では、「世界で250万人がアルコールに関連した原因で死亡していて(32万人の15〜29歳の若者を含む)、アルコールの有害な使用は、すべての死の3.8%を占める」とされたという。年間250万人とは、凄い数である。また、「アルコールの有害な使用」は、世界の健康障害の最大のリスク要因の1つ、そして精神神経疾患や心血管疾患、肝硬変、種々のがん、その他の非伝染性疾患の回避可能な主要な危険因子である、とも指摘している。

危険因子である、というのは良く分かる。「アルコールの有害な使用」も凡そ想像がつく。端的な例では「一気飲み」が直ぐ思いつくし、“飲みたいという欲望”を抑えることが出来ずに飲んでしまう、というのもそうなのだろう。後者が所謂アルコール依存症ということになる。

さて、このアルコール依存症、呑兵衛の皆さんは大丈夫だろうか。私には縁の無い事だと思っていた。ところが、「ASK」に掲載されているセルフチェックをしてみたところ、意外と近い所まで来ているのではないか、と不安になってしまった。「ASK」に掲載されているのは、4つの質問のうち2項目以上当てはまる場合はアルコール依存症の可能性が大、というものだ。私が当てはまると判断した質問だけ書き出してみると、

〇あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思った事がありますか?
というものだが、如何だろうか。私は、二日酔いの度に、「酒を減らさねば!」と後悔していて、この設問は度々経験している。幸いな事に、他の3つはまだ経験していないので、依存症まで行っていないと思われるのだが、気になる方は、是非お試しを!

なお、先月の28日、日本精神神経学会が、心の病の名称や用語について新しい指針を発表した。その中で、「アルコール依存症」は「アルコール使用障害」に変更されたという。確かに、「…有益な使用」が出来ずに「…有害な使用」になってしまうのだから、「…使用障害」と言うのも分からないでもないが…。

【文責:知取気亭主人】

  
グミ

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