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知取気亭主人の四方山話
 

『木も病から』

 

2014年6月11日

先週、東京に出張した際に、奇妙な物を見つけた。街路樹として植えられている桜の木の幹に、ヤクルト大の白いプラスチック容器が、幾つも突き刺さっているのだ。高さ的には丁度私の胸の高さ辺り、そして本数としては、1本の木に対しほぼ3本の割合で刺さっている。白い大きな虫が取りついているようにも見えるのだが、容器の下には黄色いタグがぶら下がっていて、遠目からもかなり目立つ。最初は「誰かのイタズラか?」と思ったのだが、近づくと、その黄色いタグには「注意!」の大きな文字と共に「―注入中―」の文字が書かれているのが見え、イタズラではない事が分かる。

「イタズラではないとすると、この摩訶不思議な物体は何だ?」と、いつもの“知りたがり病”が、頭をもたげてきた。訪問時間にほんの少し余裕があったこともあり、出張仲間に手伝ってもらい携帯で写真を撮って来た。遠目の写真が無いのが残念だが、その不思議な物体のアップ写真をご覧いただこう。

こんな風に突き刺さっていたのだ(写真-1)。私には、何とも不思議な光景だった。ただ、暫く歩くうちに、殆ど全ての桜の木に刺さっていて、しかも高さや本数に規則性がある事も分かり、維持管理の一環である事が容易に想像できた。とすれば、施肥か病害虫対策のどちらかだろうと思い、容器のラベルに目を近づけた。すると、写真-3にも映っているが、ラベルには、聞いたことも無い名前の溶剤が書かれている。しかも、隅々まで読んでも、肥料で良く見かける窒素やリンなどの文字は無い。情報はたったそれだけだったのだが、そうなれば病害虫予防の薬剤しかないな、と勝手に決め込んだ。

ただ、桜の病害虫と言えば、アメリカシロヒトリしか思いつかない。しかも、町会役員の時に実施したアメリカシロヒトリ対策は、業者に頼んで行った薬剤散布である。当然、「アメリカシロヒトリ対策=薬剤散布」の短絡式しか頭にはなく、この奇妙な光景が病害虫対策であるとの確証は掴めない。そこで、金沢に帰り、早速調べてみた。

何はともあれ、まず、ラベルに書いてあった商品名、「アトラック」で調べてみた。すると、真っ先に、アメリカシロヒトリの名前が出てきた。対象となる害虫の神経の伝達を阻害して駆除する方法で、他にも松の病気である“マツカレハ”などにも効果がある、と書かれている。どうやら、私の勝手な思い込みは、間違っていなかったようだ。しかし、これで害虫が駆除できるとは、優れた方法である。商品紹介のウェブサイトにも書かれていたが、私の経験した薬剤散布では必ず問題となる、薬剤の飛散やそれに伴う歩行者や近隣住民への影響が殆ど無いのが、何より良い。もし、あの当時出回っていたら、間違いなくこの方法を選んだと思う。カタログ通りであれば、「効果は3年続く」という優れものだ。

ところで、調べているうちに、桜には、他に「サクラてんぐ病」と呼ばれている病気がある事を知った。病原菌に感染して発症するらしいのだが、随分変わった病気があるものである。そう言えば、丁度関東地方で桜の花が満開の時期を迎えた頃、梅の名所として知られた、東京都青梅市の「梅の公園」に植えられている全ての梅の木1,266本を伐採する、とのニュースが報じられて話題となった。果樹の病気である「プラムポックスウイルス(PPV)」の広がりを防ぐ為だというが、全ての梅の木伐採とは、かなり大胆な対応である。しかし、この外来種のウイルス、2009年に国内で初めて感染が確認されて以来、少しずつ広がりを見せているらしいのだが、伐採以外未だ対応策が見つかっていないのだというからたちが悪い。

樹木の病害虫に因る被害は、桜や梅の木ばかりではない。暫く前には、“松くい虫”が全国的に猛威を振るい、あちこちの松林が被害に遭った。酸性雨の影響だとか、排ガスの影響だとかも取り沙汰されたが、調べてみると、カミキリの成虫がつけた傷から線虫が侵入・増殖して枯死させていたのだという。勿論、酸性雨や排ガスによる影響が、ない訳では無いだろう。多分、それらの影響に因って、樹勢が衰え、免疫力や自然治癒力も低下しているのだろう。弱った時に病気に罹り易いのは、ヒトも木も一緒である。

“松くい虫”の話題が下火になって、代わって新たに報じられるようになったのは、ナラの木の被害だった。3〜4年前だったか、北陸で“ナラ枯れ”と呼ばれる森林被害が、蔓延したことがある。夏の終わり頃、周辺はまだ青々としている山林に広がる、立ち枯れして赤茶けたナラ・カシ類の群落は、「こんな時期に紅葉か?」と思わせるほど異様な光景だった。北陸自動車道沿いの山林が、見るも無残な姿を晒していた。樹幹に穿孔するカシノナガキクイムシと、これと共生関係にある(通称)“ナラ菌”の仕業だというが、“松くい虫”による被害しか知らなかった私にとって、改めて自然の厳しさを教えられた事件でもあった。

そして、“ナラ枯れ”が話題に上らなくなった最近、新たに「石川県の木アテ」の被害報道を知った。今年の春頃、石川県でアテ(別名アスナロ)の病気が広がりを見せている、とのニュースを聞いたのだ。この病気の嫌らしいのは、商品価値の出て来る樹齢10〜30年の木に発症しやすいという事らしい。この病気の予防のひとつは枝打ちや間伐を適切に行う事だというが、密生して、しかも単一種類が植えられている植林地は、人による世話がどうしても必要である。原生林でもない限り、木もそれを待っているに違いない。

 「病は気から」を捩る訳では無いが、「木は病から枯れる」と心得て、病害虫にやられない様、木を健康に保つための世話を心掛ける必要がある。環境を悪化させた分、そして我々が健康に暮らすためにもそれが人間の責務だ、と改めて思った次第である。
 

【文責:知取気亭主人】

  

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