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知取気亭主人の四方山話
 

『公共事業って?』

 

2014年6月18日

13日の日本経済新聞に掲載されていたある記事に、目が留まった。世界の自動車大手の中で日本メーカーの強さが目立ってきた、という記事だ。ドイツのBMWやダイムラー、或いは韓国の現代自動車や米国のGMやフォードなど、2013年度における純利益上位10社を選び出し、2014年度の予想利益率を比較すると、日本メーカーは相対的にかなり高い利益率が予想されるという。比較したのは、各国で会計基準が違うことから、“売上高利払い前・税引き前利益(EBIT)率”という指標を採用している。その結果、1位がBMWで10.60%、2位がトヨタで9.72%、以下日本のメーカーだけを拾い出すと、ホンダが5位で6.56%、日産が7位に入って5.31%となっている。

私の記憶にある建設大手と比べると、かなり立派な利益率だ。日本の会計基準での比較だったが、確か、建設最大手でさえ利益率は3%前後しかなかった、と記憶している。また、以前、日本の建設最大手の売り上げがトヨタ1社の利益を下回っている時があって、大きなショックを受けた記憶もある。安倍政権になって、久し振りに建設投資が活況を呈していることから、2013年度の決算は自動車メーカーに少しでも近づいたのではないか、と他人事ながら興味を持っている。

そこで、「会社四季報」(東洋経済発刊)を買い求め、次表に示した3分野に限ってではあるが、分野毎に大手3社を選び、2013年度の“営業利益率”を比較してみた。なお、前出の“EBIT”と多少異なるのかも知れないが、“営業利益”は、借入金の利払いなど本業以外の損益、更には累積赤字などの特別損失処理費用も含まれない為、純粋に当該期の本業の儲けを表している。したがって、「会社四季報」に掲載されている各種指標の中では、比較するのに最適、と判断した。また、選んだ3分野のうち、自動車と建設は話の流れから必然であるが、電気は業績回復途上の分野として選んでみた。ただし、各分野の代表として選んだ3社は、大手と認識している会社の中で目についた会社を選んだだけで、全く他意はない。ただし、自動車は、記事に載っていた3社である。なお、順番はアイウエオ順とした。

 

 

表を見ると、3分野の中では、建設の利益率が極端に低いのが分かる。最高の利益率であった大成建設でさえ3.5%で、掲載した他分野の最低である3.9%にも及ばない。名だたる大手の3社を選べば、多少のバラつきはあっても、その分野の凡その傾向は表しているものだと思う。そういう意味からすると、建設業は、自動車と電機に比べ[営業利益率=収益力]が明らかに低く、薄利多売に近い商売である、と言える。加えて、スーパーゼネコンと呼ばれる、この分野でのトップ企業がこの現状では、同じ建設分野に身を置く者として、何ともやるせない。

利益率を押し下げている要因としては、最近言われている、“資材の高騰”や人手不足による“人件費の高騰”などがあるのかもしれない。また、企業数の過多による過当競争も一因として考えられる。しかし、それにしても低い。率にして3%程度以下など、自動車メーカーのリコールのように、ちょっとした失敗が重なれば直ぐに消し飛んでしまう、誠に心許無い数字である。

こうした低い収益力にも拘らず、(公共事業では)設計金額近くで落札すると「スワッ、談合だ!」と決めつける風潮がある。しかし、本当にそうなのだろうか。「エンジンが○○万円」、「ブレーキシステムが△△万円」、「ドアが4枚で□□万円」などと、数万点にも及ぶ車の部品単価を、車を購入する我々は一切知らない。ましてや、エンジン製造に携わった人の単価や何人必要だったかなど、知る術もない。したがって、購入する際には、その車の値段が妥当なのかどうかも分からない。その購入価格で、メーカーとディーラーが幾ら儲けているかなど、雲の上の話だ。ただ、トータルで言うと、建設業より随分利益率が良い、という事だけは確かだ。

他方、公共事業は、工事に使う材料の単価や数量、或いは工事に携わる人の人件費単価と人工、などなど殆どの単価と数量が公にされている。したがって、慣れた人であれば、誰がやっても同じような積算金額になる。今仮に、建設業が自動車メーカー3社と同じ利益率(平均で6.7%)を稼ぎ出そうとすれば、建設業の3社平均2.3%を4.4ポイント上げなければならない。落札率にすると、5%位の底上げが必要になる勘定だ。90%の落札率だったら95%に、95%だったら100%に、という事である。

今の建設業の落札率がどれ程かは知らないが、車に関して言えば、これだけの利益率で稼いでいても、消費者が「高すぎる。メーカーは不当な利益を上げている」と文句を言っている、とは聞いた事が無い。だとすれば、建設業が自動車メーカー並みの利益を稼ぎ出しても、一向に構わない気がする。もっとも、自動車メーカーは儲け過ぎだ、と言うのであれば別なのだが…。

公共事業に対する否定的な見方への不満の一端を吐露させてもらったが、最近、そんな私の俗物的な視点とは全く違う切り口で公共事業を扱った、面白い本を読んだ。山岡淳一郎著「インフラの呪縛 ―公共事業はなぜ迷走するのか」(ちくま新書)である。ある総会で頂いたものだが、今現在利用しているインフラ施設の歴史、道路や鉄道整備の歴史などにも踏み込んでいて、国土発展の物語としても中々面白かった。

問答無用で「公共事業悪玉論」を展開する諸氏には、冷静になって是非読んでもらいたい本である。また、むやみやたらと「公共事業必要論」を説く諸氏にも、事の良し悪しを判断する参考に、是非読んでほしい本である。

【文責:知取気亭主人】

  

 
インフラの呪縛 ― 公共事業はなぜ迷走するのか

【著者】山岡淳一郎著
【出版社】筑摩書房 (2014/3/5)(2014/3/5)
【発行年月】2014/3/5
【ISBN】 
978-4-480-06771-5
【サイズ】 
17.2 x 10.8 x 1.8 cm
【頁】 288P
【本体価格】 \:本体880円+税
 

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