2014年6月25日
先日の土日、姉夫婦が、甥っ子親子を連れて、入院中の母の見舞いに来てくれた。姉が暫くの間病気治療に専念していたため、凡そ1年半ぶりの見舞いだ。今年で93歳になった母の色つやの良さに驚き、喜んでいたが、言葉を発しなくなった母の手をさすりながら声を掛ける姉の姿を見ていると、つくづく「母に似て来たな」と思う。そして、勿論私もそうだが、歳も取ってきた。その歳のせいではあるまいが、くだんの姉が帰る間際に珍騒動を巻き起こして帰って行った。
日曜日のことだ。我が家で大人7名、幼児3名の賑やかな昼食を食べた後、「母の見舞いに行ってから帰る」ということになった。私と長男、孫娘同伴の見舞いが終わると、「昨日から何だか市内の裏道ばかり走らせる」と姉夫婦が乗って来た車のカーナビに不信感を持っていたこともあって、途中まで先導することになった。「この道に乗れば否が応でもインターに行ける」という道に向かったのを確認して、我々三人は我が家に戻ってきた。
やれやれとソファーに腰を下ろし、お茶を飲み始めた途端に、携帯電話が鳴った。「誰だ?」と発信元を見ると、別れたばかりの姉からだ。「無事高速に乗ったよ」との連絡に違いないと思い込み、電話に出た。ところが、どうも声の様子がおかしい。電話の声が上ずっているのだ。しかもその第一声は、思いがけない、「そっちに私の財布無いよネェ〜」の慌てた声だ。車の中で財布が無いのに気が付いた、というのだ。「ホテルじゃないの?」と聞くと、「ホテルではチェックインの時しか財布を出していない。その後で買い物をしているから、その時のマーケットではないか」と思い、電話をしてきたという。「じゃあ俺の方でマーケットに聞いてみるから、そっちはホテルに確認してみて」と言って電話を切った。
直ぐに娘がマーケットに電話を掛けて聞いてくれたのだが、財布の落し物は無いという。交番に拾得物として届けられているかも知れない、と思い当たる近くの交番にも電話を入れたのだが、パトロールに出ているのか、一向に出ない。気が気ではないだろうと、交番との連絡が取れないまま、姉に電話を入れ、こちらの状況を説明した。
途中経過を知らせると、「そう〜」と心配そうな声の返事だ。「ところで何処にいるの」と聞くと、「インターの発券機の手前に駐車している」という。畳み掛ける様に「ホテルに電話した?」と聞くと、「今調べてくれていて、連絡をくれる事になっている」と、心配そうな声で答える。「じゃあ俺はもう一度交番に掛けてみる」と伝え、電話を切った。
しかし、交番は矢張り出ない。姉にその旨を連絡すると、ホテルからもまだ連絡が無いという。免許証やクレジットカード類が入っていたというから、心配だ。
井上陽水の歌ではないけれど、無くしたものをいくら探しても見つからない、という災難に会うことは、誰しも一度や二度は経験しているだろう。そして、大概思わぬところで見つかる。私も、会社の中で携帯電話をなくし、往生したことがある。
ズボンのポケットに入れておいた筈の携帯電話が、忽然と消えた。電話を掛けようとしてポケットに手を入れたのだが、無い。在る筈の所に無い。またどこかに置き忘れたのかな、と日常よくする失敗を思い出し、これまで時々置き忘れているトイレも含め、何気なく置きそうなところを真剣に探したのだが、無い。座っていた椅子にも落ちていない。“もしや”と思いながら、机の下も覗いて見たが、矢張り無い。
午前中に使用しているから、時々置き忘れる車の中にも家にも在る筈がないし、外出もしていないから、残る可能性は会社の中だけだ。しかし、心当たりを幾ら探しても見つからない。それまでは、恥ずかしくて一人黙々と探していたのだが、とうとう諦め、会社の友人に電話してもらうことにした。
ニヤニヤしながら電話を掛けてもらうと、どこかで聞き慣れた着信音が鳴っている。ところが、この辺が発信源だ、と思われる机の周辺を幾ら見回しても、携帯電話らしきものは無い。耳を澄ませると、何回も探した筈の椅子の辺りから聞こえてくる。さっき見た筈なのに、と思いながら音を辿ると、なんと、携帯電話は見えないのに音は鳴っている。よくよく探すと、座面と背もたれの間から聞こえて来る。隙間を押し広げてみると、在りました、在りました。見覚えのある携帯が、元気良く鳴っている。しかし、よくこんな所に落ちたものである。
知らないうちに落とした訳で、置き忘れたわけではないから、こんな所に隠れているなんて思ってもみない。座ればお尻に隠れてしまうし、椅子から立ち上がれば隙間に隠れてしまうし、これでは見つけられる筈がない。多分、座っている時にズボンのポケットから滑り落ち、体重で開いていた隙間に更に落ち込んだのだろうが、こんな所に隠れてしまうなんて、まるで“神様の悪戯”だ。悪戯好きの神様は、時々こんな悪戯をするから困る。
今回の姉の騒動も、退屈しのぎにした“神様の悪戯”だったのかもしれない。ただ、神様は、悪戯はするけれども人に被害を与えるようなことはしない。そこが悪戯たる所以なのだが、探し物であれば、苦労するけれど、最後には見つけさせてくれる。
そう、姉の財布もとうとう見つかった。場所は、ホテルの部屋だ。ただ、ホテルの従業員が清掃した時は無かったらしく、姉からの電話で、改めて探してくれたらしい。すると、思わぬ所に落ちていたという。何と、ベッドの下だ。何かの拍子に落とした財布を、知らない間に蹴り入れたのではないだろうか。私の携帯電話同様、普通の探し方をしていては、見つけられる筈がない場所だ。偶然に偶然が重なった結果だろうが、偶然を重ねたのは、きっと悪戯好きの神様に違いない。
でも、“神様の悪戯”で良かった!
【文責:知取気亭主人】
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ヤマボウシ
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