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知取気亭主人の四方山話
 

『思わぬ天敵』

 

2014年7月23日

我が家は、風致地区に指定された、金沢市内の中でも比較的自然豊かな環境の中にある。朝は鳥の鳴き声で目が覚めるし、モリアオガエルの合唱で寝苦しい夜もある。秋の夜長を虫たちのコーラスで楽しませてもらうこともある。時には、育てている僅かな果物や野菜を狙って、メジロ、ヒヨドリ、モズなどが愛らしい姿を見せてくれる。また、招待状を出していない筈なのに、晩春になるとカラスも訪れ、食べ頃になった貴重なビワを失敬していく。悔しいけれど、鳥たちとの争奪戦は、大体我が家の負け越しになっている。やはり、“生き死に”が掛かっている彼らには、到底敵わない。

そんな豊かな自然を少しでも孫娘に感じ取ってもらおうと、1歳半を過ぎた頃から散歩に連れ出している。私に似たのか、小さいのに歩くのが大好きで、まだ4歳にもならないのだが、これまで、途中で駄々をこねる事も“抱っこ”をおねだりすることも殆どない。それほど散歩が大好きなのだ。お蔭で、よく散歩をせがまれる。そんな孫娘と、20日の日曜日、散歩に行ってきた。

上の町会にある公園で遊んだ帰り道に、珍しい光景に出合った。「クマ出没注意!」の看板を横目に、連絡路として使われている、林の中にある薄暗い110段余りの階段を中程まで下りて来た時のことだ。孫娘が、珍しく、「何かいる」と大きな声を出して身を寄せて来た。小さな孫娘だからこそ気が付いたのだが、黒い小さな生き物が足下でうごめいている。良く見ると、20o程の大きさの甲虫が、黄色のヒルらしき細長い生物(多分、オオミスジコウガイビル)に虫乗り(?)になり格闘している。暫く観察していると、どうやらヒルを食べようとしているらしい。生憎カメラを持っていなかったのでその様子を皆さんにお見せできなくて残念だが、ヒルが襲われているのを見たのは初めてだ。私としてはもっと見ていたかったのだが、気持ち悪がる孫娘に急かされて、泣く泣く現場を後にした。

しかし、ヒルの天敵はカエルとばかり思っていたが、甲虫の中にも天敵がいるとは驚きである。ましてや、その採餌の様子を見られるとは、何たる幸運だろうか。これも、孫娘が散歩に引っ張り出してくれたお蔭、まだ足下が覚束ない彼女のお蔭、そして目線の低いお蔭である。何はともあれ、彼女の散歩好きに感謝、である。

ところで、甲虫と言えば、カブトムシやクワガタ、或いはコガネムシを代表選手と思っているところもあって、甲虫の餌は樹液や葉っぱなど植物性ばかり、と思い込んでいた。ところが、今回の一件で、それは見事に覆された。自然界の中には、私にとって思ってもみなかったものが餌になっている可能性がありそうだ。餌側から言えば、“思わぬ天敵”である。

本来の意味の天敵とは多少横道にそれるが、少し寄り道をしたい。産業革命以降、地球環境の悪化が急速に進み、多くの動植物が絶滅している。日本でよく知られてところでは、日本カワウソ、日本オオカミ、そしてトキ然りである。動植物絶滅の原因は環境悪化が最大の要因だと思われるが、人間という天敵が異常に増加して、駆逐されていった例もある。また、最近になって報道される事が増えてきたが、シカやイノシシなどの獣害によって、高山植物などが絶滅の危機に瀕している例もある。このように、それまで天敵とまでは呼ばれなかったものが、増えすぎて天敵になったり、思わぬ天敵に変身したりするケースがかなりある。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」で注目されるようになった農薬などの化学物質も、ある意味“思わぬ天敵”と呼べるだろう。

稲の害虫のひとつにカメムシが知られている。地域のラジオニュースを聞いていると、カメムシが異常発生しそうだ、との注意報を聞くことが良くある。カメムシの仲間の中には稲に取り付くものもいて、葉や茎から汁を吸うほか、若い籾から汁を吸われると米粒が茶色になるらしい。この害虫駆除として殺虫剤が散布されているのだが、散布されたその薬剤がカメムシの天敵ばかりでなく、思わぬ昆虫の天敵にもなっているのではないか、と以前から懸念されている。所謂、二次被害である。
 カメムシの自然界の天敵としてよく知られているのは、「カメムシタマゴトビコバチ」などの寄生蜂で、カメムシの卵に産卵して、産まれた蜂の幼虫がカメムシを食べるというものだ。カメムシによる農業被害を防ぐために、殺虫剤ではなく、これらの寄生蜂をうまく利用してカメムシを減らそうという「生物農薬」としての利用も研究されているという。こういった天敵利用であれば、二次被害も無いし、「沈黙の春」を心配する必要もない。

しかし、実際には殺虫剤が広く使用されている。そしてこれまで、ミツバチの大量死と殺虫剤の因果関係が、度々取り沙汰されてきた。中でも、田畑の害虫駆除として使用されているネオニコチノイド系農薬に、疑いの目が向けられていた。そんな中、農研機構畜産草地研究所(茨城県つくば市)は、18日、夏に北海道などで多発しているミツバチの大量死は水田に散布される殺虫剤が原因の可能性が高い、という調査結果をまとめた。良かれと思って散布していた殺虫剤が、カメムシばかりでなくミツバチの天敵になっている可能性が高い訳である。それこそ、ミツバチにとっての“思わぬ天敵”である。

人間が作り出した化学物質は、誕生してまだ間もないだけに、二次被害の検証は十分調べ尽くされたとは言い難い。生物多様性が叫ばれている中、“思わぬ天敵”とならない為にも、自然界の本来の天敵を利用した「生物農薬」の研究を進め、化学物質の農薬は極力頼らない方向に進んでほしいものである。そうしなければ、孫娘が体験した貴重な自然界の出来事が、いずれ本や映像の中だけでしか見られなくなってしまう可能性すらある。

【文責:知取気亭主人】

  
ネジバナ
 

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