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知取気亭主人の四方山話
 

『防災の日』

 

2014年8月13日

残暑お見舞い申し上げます。まだまだうだるような暑さが続くのに、暦の上では早くも立秋(8月7日)が過ぎ、こんな、何となく違和感のある時候の挨拶をする季節となった。体感的にはとても秋の実感はない。ただ、日が落ちると、小さな声ながら我が家の庭からはコオロギの鳴き声が聞こえ始めていて、人間より格段に優れたセンサーを持つ自然界の生物たちは、既に秋の気配を感じ取っているのかも知れない。

そんな今頃の時期は、国を挙げて毎年多くの鎮魂行事が行われていて、私にとってもまた多くの日本人にとっても、心新たにする季節となっている。言わずと知れた、8月6日の「広島原爆の日」、9日の「長崎原爆の日」、――7月の地域もあるが――亡くなった人や先祖を供養する「お盆」、15日の「敗戦記念日」(終戦記念日とも)である。そして、8月が終わると、9月1日の「防災の日」がやって来る。この「防災の日」もまた、ある意味、国民的な鎮魂行事である。

「防災の日」は、皆さん知っての通り、今から91年前の大正12年に関東大震災が発生した日(1923年9月1日)である。この関東大震災は、死者・行方不明者が10万5千余人(出展:理科年表)にも上り、日本近代史の中で、最も多くの犠牲者を出した自然災害となっている。また、「大震災」の名前が付けられた、最初の地震被害でもある(その後、阪神淡路大震災と東日本大震災が加わった)。犠牲者の数だけ見ても、原爆によってその年に亡くなった犠牲者数(広島は約14万人、長崎は約7.4万人と言われている:両市のホームページより)に匹敵する大惨事だ。そういう観点からすると、防災意識を高める、或いは再認識する日であると同時に、矢張り“鎮魂の日”でもあるのだ。

また、「防災の日」創設に至った背景を調べると、9月1日が、関東大震災が発生した日であるとともに、暦の上では二百十日に当たり、台風シーズンを迎える時期であることも、考慮されていたらしい。1960年(昭和35年)6月11日の閣議で、9月1日を防災の日とすることが了承されたのが始まりらしいのだが、前年に、東海地方を中心に甚大な被害をもたらした「伊勢湾台風」(1959年9月26〜27日:理科年表)によって、戦後最大の台風被害(死者・行方不明者5,098人:理科年表)を被ったことも契機になっているという。

確かに、伊勢湾台風に限らず、日本には毎年の様に台風が襲来していて、多くの犠牲者が出ている。今年も先週末から台風11号が上陸して各地に大きな被害をもたらしているが、身の回りにどんな危険が潜んでいるか、日頃から注意・確認しておくことが重要だ。土砂崩れ、洪水、土石流など、せめて「どういった自然条件のところに自分は住んでいるのか」位は知っておくべきだと思う。そして、早めの避難が重要である。    

そこで、自宅の周辺に斜面がある地域の人達、特に南関東に住んでいる人達のそういった一助になりそうな、ある本を紹介しよう。「防災の日」制定の直接的な切っ掛けとなった「関東大震災」について、土砂災害に焦点を当てて、どこにどのような被害があったかを調査した、井上公夫編著による『関東大震災と土砂災害』(古今書院、2013年9月1日)である。編著者は生粋の技術者であり、作家が史実に基づいて書いた様な物語性は全くない。しかし、綿密な調査と豊富な資料によって、とかく本所被服廠跡での火災被害が代表的被害として扱われがちな「関東大震災」にも、実は多数の土砂災害が発生していること、そしてその被害者が千人を超えていることを明らかにした意義は大きい。対策工が施されているかどうかは別にして、当時土砂災害が発生した地域に、今も生活している人々がいる事を考えれば、極めて重要な示唆を与えていると言って良い。

編著者によれば、「166箇所以上の箇所で土砂災害が発生し、1053人以上の死者・行方不明者出ていたことはほとんど知られていない」という。正直、私も詳しくは知らなかった。また、土砂災害のみで1000人以上の死者を出したのは、この「関東大震災」と、「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる雲仙・眉山の山体崩壊と津波を惹き起こした地震(死者は約1.5万人、1792年)のみだというから、その甚大さが分かる。では一体、どんな地域で土砂災害は多発していたのだろうか。本書の中に井上がまとめた一覧表があるので、それを転記してみよう、次の表がそれだ。

こうしてみると、震源に近い神奈川県、静岡県東部、千葉県南部に被害が集中しているのが分かる。そして、これらの地域は、戦後になって、積極的に宅地開発が進められた地域でもあり、関東大震災当時に比べ遥かに人口が増えているのが容易に想像できる。もし、今、関東大震災並みの大地震が起こったら…。

自分の住む地区の災害史を知って、防災に役立てることも大切だ。そういう意味では、表中の地域の人達には、是非一読しておくことをお勧めする。

【文責:知取気亭主人】

  

 
関東大震災と土砂災害
【著者】井上 公夫 編著
【出版社】古今書院
【出版年月日】2013/09/20
【ISBN】 978-4772231534
【判型・ページ数】 A5・256ページ
【本体価格】 本体3,500円+税
 

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