いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『アウトブレイク』

 

2014年8月20日

今、ギニア、リビア、シオラレオネを中心とする西アフリカで、エボラ出血熱の感染拡大が止まらない。ネット上での最新情報に依れば、WHO(世界保健機関)が19日発表した情報として、感染者は16日時点で2千2百人を超え、死者は1千2百人を超えたという。また、現地で医療活動に従事している各国の医療関係者へも感染が広がっていて、WHOや支援を続けている国・医療関係者に衝撃が広がっている。

過去の発生例からすると、その致死率は実に50〜90パーセントにも達する、というから恐ろしい。現地で医療活動をしていたアメリカ人の医療関係者にも感染者が出ていて、本国へ緊急輸送された患者の様子がテレビニュースで報じられていたが、その様子は、今から20年程前に観た映画、「アウトブレイク」そのものだ。その物々しい移送の様子を見ても、いかにエボラ出血熱が恐ろしい感染症であるかが分かる。

厚生労働省ホームページの「エボラ出血熱に関するQ&A」(平成26年8月11日作成 第2版)(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola_qa.html)に依れば、エボラ出血熱はエボラウイルスによる感染症で、2〜21日(通常は7〜10日)の潜伏期を経て、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、咽頭痛等の初期症状が出た後、嘔吐、下痢、胸部痛、出血(吐血、下血)等の症状が現れるという。初期症状は何やらインフルエンザに似ているが、エボラ出血熱は、インフルエンザの様に咳やくしゃみを介してヒトからヒトへの感染はしないという。致死率は極めて高いが、簡単にヒトからヒトへ感染する病気ではないというのは、せめてもの救いだ。しかも、一般的に、症状の無い患者からは感染しない、というのも多少なりとも安心できる情報だ。空気感染もしないらしい。

では、どういう状況だと感染するかというと、接触する相手が感染者である事に加え、症状が既に出ている患者の血液や体液などに、十分な防護なしに触れたりした場合に感染するのだという。無論、血液や体液が付着した衣類や医療器具も、むやみに触ってはいけない対象物となる。当然のことながら、遺体の取り扱いにも十分な防疫装備が必要だ。

ところが、報道に依れば、今回感染が拡大している地域では、死者を弔うのに、遺体を洗う風習があったり、参列者が遺体に直接触れる風習があったりして、これが感染拡大を助長しているというのだ。これだけ感染が拡大した今ではそういった風習も禁止されているとは思うが、公衆衛生が未発達の地域では、患者を死に追いやった病気がウイルスによる感染症である事の知識が乏しいばかりに、一番やってはいけない事がやられていた可能性がある。しかも、死者に対する最大限の敬意を払ってやっていた行為、だということは想像に難くないだけに、哀れを感じずにはいられない。

WHOの「世界保健統計2014年」(データは2012年時点)によると、感染地域のひとつシオラレオネの男女平均寿命は、46歳と日本(男女平均で84歳)の半分ほどしかなく、WHO加盟国194カ国の中で最下位となっている事からも、公衆衛生が未発達であることは容易に想像がつく。他の二カ国も似た様なもので、ギニアが58歳で172位、リベリアが62歳で156位であるから、三カ国共世界の最貧国の一つ、と言って良いだろう。また、流行地では、まだまだ熱帯雨林での狩猟を生業としている住民も多いと聞く。これらの住民の中には、エボラウイルスに感染した野生動物の死体やその生肉(ブッシュミート)に直接触れる人もいて、そういった人が感染することで、自然界から人間社会にエボラウイルスが持ち込まれている、と考えられている。今回もコウモリから感染した疑いが持たれているらしいが、こういった経路での感染も、エボラ出血熱に関する知識が無いばかりに起こる悲劇だ。  

そういった知識不足が、感染のみならず、感染の拡大を助長しているのだろう。厚生労働省のホームページに依れば、驚いたことに、西アフリカでの“流行”が確認されたのは、今回が初めてだという(リビアとギニアのお隣、コートジボアールでも一度だけ1人の患者が確認されているが、死者は出ていない)。これまでのエボラ出血熱の流行は、中央アフリカ諸国(コンゴ民主共和国、ウガンダ、コンゴ、ガボン、スーダン)に限られていたというのだ。ただ、そういった流行情報や病気に関する知識が、同じアフリカ大陸に位置していても、流行地以外の一般住民には伝わらなかったのだろう。或いは、貧しさ故に、明日を生きることに精一杯で、例えそのようなリスク情報が伝わって来たとしても気に掛ける余裕など無い、というのが本音なのかもしれない。

ところで、これだけ高い致死率の病に対し、治療はどのように行われているのだろうか。現在までのところ、エボラ出血熱に対するワクチン等の予防薬や特効薬、或いは効果的な治療法はないため、患者の症状に応じた対症療法が行われているだけだという。治療以外にも拡大を防ぐ防疫も大切だが、現地での防疫設備は余りにも心許無い。くれぐれも、「アウトブレイク」の映画のような大流行にならないように、と願っている。ただ、今のところ決め手となる特効薬はないが、必ず不治の病ではなくなると信じている。

これまでも、不治の病と恐れられた多くの病が、人類の英知によって克服されてきた。私の父の命を奪った結核然り、癌然り、エイズ然りである。癌とエイズについては、どんな患者も完治する、という状況にまでは至っていないが、以前に比べれば治癒率や生存率は飛躍的に伸びている。エボラ出血熱も必ずそうなると信じたい。

折しも、米国人の患者に投与した薬に効果があった、との報道がある。日本の医薬品メーカーが開発したインフルエンザ治療薬が、エボラ出血熱の治療にも有効ではないか、とも報道されている。一日も早く、これらの薬が特効薬となってくれることを願って止まない。また、アフリカの地で倒れた 野口英世博士も、日本の医薬がこの病魔に役立つことを、強く願っている筈である。

【文責:知取気亭主人】

  
ザクロ 
 

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.