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知取気亭主人の四方山話
 

『彼岸に想う』

 

2014年9月24日

9月23日は「秋分の日」だ。違う言い方をすれば、「秋の彼岸のお中日」ということになる。23日を中日として前後1週間を「秋の彼岸」と呼んでいるからだが、この「彼岸」を国語辞典(旺文社、第八版)で調べると、「彼(か)の岸の意味で、此岸[(しがん)=迷いの世界]に対して、煩悩を超越した悟りの境地」と説明されている。つまり、我々がいる煩悩渦巻く世界とは対極的な世界、とも解釈できる。

彼岸の時期になると、お墓参りなどをして先祖供養をする習わしの地域が多い。そんな習わしからすると、どうしても、「彼の岸は死後の世界」と連想しがちになる。しかし、最近世界で起こった事件のニュースを聞いていると、現世にも「彼岸」と「此岸」の様に対極的な世界がある事を実感させられる。例えば、イギリスからの独立を問うスコットランドの住民投票と、中東のシリアとイラクを中心に吹き荒れているイスラム国問題だ。勿論、住民投票は「彼岸」であり、イスラム国問題が「此岸」である。

中国のチベット自治区や新疆ウイグル自治区、或いは同じ中国の内モンゴル自治区に見られる様に、統治している国からの分離独立を訴えている地域は沢山ある。中国以外にも、インドネシアを始めとする東南アジアや中東、先進国と呼ばれる欧米にもそんな地域が結構あって、今回のイギリスやスペイン、カナダのケベック州などが有名だ。この様に、世界を見渡せば、分離独立を訴えている地域は枚挙にいとまがない(詳しくは、Wikipediaの「独立主張のある地域一覧」を参照されたい)。日本でも、運動と呼ぶにはまだまだ声は小さいが、国会中継でも聞いた事のある、「琉球王国」を独立させよう、という主張もある。それ位多いのだが、私が知る限りでは、どの国も分離独立を認めようとしていない。認めるどころか、武力による解決に走る地域・国が結構多い。

今年になって東ヨーロッパの火種となっている、ウクライナ問題もそうだ。一方的にロシアに併合されたクリミア自治共和国や、内戦が泥沼化しているウクライナの東部・南部地域問題も、同じ分離独立問題だが、相も変わらず武力によって解決しようとしている。また、武力ではないものの、分離独立勢力を何とか押さえ込もうと、あの手この手を使っている。運動が活発な地域を抱える国では、例えば中国にみられるように、かなり高圧的な手段も辞さない構えだ。そんな煩悩ばかりが目立つ姿を見ていると、そういった国々は、疑いなく「此岸」だと断言できる。それに比べると、今回、独立を問う住民投票を認めたイギリスと、独立反対の投票結果を大した騒乱も無く受け入れたスコットランドは、正に対極の「彼岸」だと言える。民主主義のその成熟ぶりには、本当に感心させられる。  

この住民投票が、世界に与えた衝撃は計り知れない。それは、結果ではなく、住民投票を認め実施したという事が凄いのだ。専門家の話では、自治権の拡大でイギリスの信頼度が揺らぐのではないか、と取り沙汰されている。しかし、私は、逆に信頼度が上がるのではないかと思っている。多分、これから民主主義成熟度の指標となり、民主主義国家の手本となるだろう。しかし、分離独立を主張する地域を抱えている国々にとっては、余計な事をしてくれた、と苦虫を潰しているに違いない。中国然り、スペイン然り、カナダ然りだろう。

ところが、苦虫を潰すどころか、そんな独立の是非を問う住民投票など眼中にない、と言わんばかりの傍若無人振りを繰り返しているのが、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」だ。テレビや新聞で報道されるその主張・行動は、民主主義と呼ぶには程遠い。“ヨーロッパの列強が勝手に引いた国境”に異を唱えるのは、解らないでもない。しかし、他の宗教・宗派を一切認めず殺戮を繰り返すなど、その活動は極めて過激で、また異常だ。見せしめとして実行した、拘束していた米国人ジャーナリストなどの公開処刑は、どんな立派な主張を声高に叫んだにせよ、到底認められるものではない。「聖戦」と訳されることの多い「ジハード」を御旗に立て、自分たちの主張に反対するものは全て敵だとする彼らの主義主張は、どう考えても反民主主義の極みである。言い換えれば、「彼岸」の対極、「此岸」の象徴だとも言える。

しかし、こんなことを繰り返している様では、本当の意味での民主主義が地球全体に根付くのはまだまだ先の事になりそうだ。しかも、爆発する人口の増え方を見ると、食料を始めとする資源の争奪はますます激しくなり、地域紛争は無くなりそうにない。

1900年に20億人だった地球上の人口は、114年経った今、70億人を超えたと言われている[出典:世界の人口(http://www.arkot.com/jinkou/)]。100年余りで凡そ3.5倍に膨れ上がった勘定だ。これだけ急激に増えれば、貧富の格差が拡大の一歩を辿るのは火を見るより明らかだ。また、地球環境の悪化も懸念され、砂漠化の拡大によって居住可能地域が減少することも予想される。そうなると、煩悩の極みである強者の理論ばかりがまかり通って行くようになるのではないか、と危惧してしまう。

スコットランドの住民投票とイスラム国の余りの違いに、ふとそんな想いを持った次第である。

【文責:知取気亭主人】

  
三分咲きの彼岸花、日本の民主主義もこの程度かな?  
 

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